第19話 森のイースター(復活祭)

「卵料理が食べたい。」

突然の宣言に、アリアが『またか』という顔をする。

アリアさん、キャラ変し過ぎ。って言うか、マジ慣れたなぁ、わたしに。

ただ今恒例、森でキャンプ中です(♡)。

ジエを出て、近隣の都市に向かっている。この世界の町は基本街道でつながれて、それがより大きな生活単位である都市へと続く。都市同士は大道(要所要所に警備も出ていて街道より安全な道らしい)で結ばれ、王都へと集約されるらしいから・・・

最終目的地は王都だけれど、いろいろ世界のことを知るために都市も押さえておきたいと、はじめは街道を進んでみた(普通の旅もしてみたい)。

ジエの親父さんが弁当だと持たせてくれた、米粉のパンに王魚のフライを挟んだフィッシュバーガーがたくさんある。昼夜はそれですませ、夜は結界を張って道端で野営。

普通なら眠るどころではないらしいが、毛布も貰ったしぐっすり寝れたよ。

ただ、翌朝最後のパンを食べ歩き出すと、すぐに面倒なことになった。

「ねえねえ、君達。女の子だけじゃ危ないよ。うちの馬車に乗せてあげるよ。」

ナンパがうるさい。

『お茶しない』と言わないだけましかもしれないが(古い!)、普通に歩いてきたせいで後ろからの商隊に追いつかれてしまった。

なるほど。

この世界で壁の外を行き来するのは商人がメイン。たいてい隊伍を組み荷物もあるから馬車を使う。移動速度は歩くより速く、そのスピードがあれば野営なしで次の町に着けるのだろう。

ちょっと現実逃避気味に思考を飛ばしていたが、

「ねえ、行こうよ。」

「・・・」

キラキラしい青年にまとわりつかれ、わたしには慣れて強く出れるものの基本人間に緊張する、アリアの顔色がどんどん悪くなる。

強張っているし、怯えているのがわかるから・・・

って言うか、美人過ぎだから、アリア!!野郎ホイホイか!?

ああ、面倒臭い。

「ねえねえ。」

ウザがられているのに諦めない。背後の馬車からは仲間達の下卑た笑い声が聞こえてきて、さすがに限界だった。

「うるさい!!」

「えっ・・・?ふえっ?」

ナンパ男の襟首をつかんで、そのまま馬車にぶん投げた。御者にあたって御者が飛ぶ。そのまま幌の中がビリヤードみたいになった。

騒ぎに乗じて森に逃げ込み、結界張って昼ごはんの準備中です。

もうパンはないので米を炊こうとすると、

「待ったぁ!!私がやるから!!リンは待ってて!!」と、急に元気になったアリアに全力で止められる。

いつも『雑だ』って怒るけどさぁ・・・

米くらい炊けるよ、たぶん。半分くらいは食べれるものが出来ると思うよ、おそらく。

荷物、全部わたしが持ってきたんだけど?

力の差が歴然だし仕方ないけどさぁ。わたしにも作る権利がきっとある。半分以上黒くなっても!おかゆ以下になるかもしれないけど!

まあ・・・

任そう(冷静な判断)。

ただここからが凄かった。

アリアは食べ物に拘る。しかもわたしと同じくらいの魔力量ながら、細かい作業に向いている。重機で針に糸を通すような、ち密なことならドンとこいだ。

現結界はアリアが張っているが、そこから同時に魔力を使い、結界魔法を応用しち密なかまどを作り上げた。

わたしには緑のかまどが見えているが、見えてないはずなのに、凄いな、この人。魔力の無駄遣いとしかいいようがない。

ただ、お陰で上手にご飯が炊ける。

いい匂いがしてきたので、冒頭のセリフである。

ご飯のお供に卵焼き(目玉焼きも可)、これは絶対譲れない。

アリアが胡乱な目を向ける。

「卵って、王鶏に貰うの?どうやって?」

ふふふ、わたしをなめちゃいけないな。とっくに対策済みである。

「まあ、任せて」と、アリアの結界の外側にわたしの結界を設置、それを徐々に広げていった。

わたしの結界は今のところ限界が見えないくらい、広げるだけならどこまでも広がる(はい、わたしは力押しタイプ)。

魔力実験時は無意識だったが、広げれば広げるほど森の木々や岩などの構造物を巻き込み、硬い壁である結界に全て薙ぎ払われるはずなのだが・・・

実際は薙ぎ払われなかった。敵意のないものをすり抜けさせることが可能だった。

今、全てをすり抜けさせている。

結界を何かがすり抜けた時、わたしには形や大きさの情報が伝わる。

つまり索敵魔法、爆誕である。

うん。

ここから2時の方向に、あれ、たぶん大猪だ。番でいるなぁ。500メートルくらい離れているし、まあ大丈夫でしょう。

ん?

6時800メートルにいるのは?

でかいな、これ。王猪よりも大きい。フォルムからすると、たぶん牛だ。うわっ、食ってみたい。超食べたい、けど・・・

ほぼほぼ無駄にしちゃうだろうし、今は我慢。

おっ!!3時2キロメートルにいるのは!?

「ちょっと行ってくる!!」と駆け出した。

チート体力をいかんなく発揮、整備されていない山道2キロを数分で駆け抜ける。

いた!!鶉の方だ!!

人間にやってから気が付いた。体から本気の殺気を放つと、鶉は慌てて逃げてくれた。野生、偉い!!足元には卵が1つ。

これと、行きがけの駄賃でスイカ大のトマトを1つ(偶然見つけた、たぶんプチトマトの巨大版だ)、抱えてキャンプ地に帰っていくと、

「お帰り、常識なし」と、アリアが笑う。

瞬間フラッシュバックした。

学校から帰った時、道場から帰った時、いつも迎えてくれた家族の笑顔。

特に、『お帰り、リン』と笑った母の顔を思い出して・・・

少しだけ嬉しかったことは。

一生の秘密だ。







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