第16話 規格外魔力の正しくない使い方と、丸のみ体験

「川で全身洗いたい。」

町を1つ飛ばした影響だ、結局その日も森で一泊、

「今度はアリアの番だから」と言われ、結界は私が張った。

リンには緑の半球型のドームが見えているらしいが、私には無理だ。

やっぱり不安だと言いたいところだが・・・

不安な事など絶対ない。

何せ生物界最強の相方が、真面目に蹴っても壊れない壁だよ。

巨獣の森でその夜も安眠。私の常識が崩れていく・・・

翌朝早くに動き出し、昼前には次の町が見下ろせる、小高い丘に出たのだった。

「川で全身洗いたい。」

大事なことなので2回言ったリンだったが、何故このタイミングなのか、全く意味がわからない。

「ねえ、リン。」

「ん?」

「次の町で買い物したいって言ってたよね。」

「うん。いい加減主食が欲しいし、調味料も欲しい。あと、煮炊きするための鍋とか食器類に、あと着替えも欲しい!下着とか含めて!フルセットで何着か!」

「なにをそんなに下着に引っかかてるのか知らないけど・・・それだけ買えば時間がかかるよ、かなり。」

「わかってる。」

「って事は、宿も取ることになるんじゃないの?だったら、」

体を拭くための水は出してくれるだろう。旅人に泥だらけ,埃まみれで寝具を使われたダメージの方が大きい。

洗濯は別料金になるだろうけど・・・

「でも、絶対風呂ないじゃん。」

意外や意外、完全な野生児、地面に直接寝転がるのもためらわないリンが、心底嫌そうに呻いた。

風呂って、桶の中にお湯をためて直接入る、あれだよね。そんなもの、暇と金のある王侯貴族以外使わない。たかだか町の宿屋に求められても困るレベルだ。

って言うか、リン。今私達が汚れているのは、リンが生き血をぶっかけたり、そのあと水をぶっかけたり、乾く前に肉の解体をしたり森を歩き回ったり、盛大に焚火を始めたり、で、基本あなたのせいだから。

それにリンは全く気にしていないが、川にも巨大生物はいる。入るどころか近付かないようにするのが、森の中のルールだった。

「川にも大きな魚がいるよ。」

「王魚?」

「そう。」

「なら結界張ったまま、水ごと巻き込めばいいじゃんか。」

確かに。

それは考え付かなかった。

結局押し切られた形だ、遠回りして川に入る。

中に水を入れたまま結界で覆う。腰まで水に漬かると、暖かくなってきたとはいえ春先のことだ、震えがくる。

うわっ、早く洗っちゃおう。

どうせ洗うからと服は着たままだ(雑が移った)。

手早く洗いながら横を向くと、うん、泳いでいるね、リンは。

ただ水を取り込み結界を張ったおかげで、今回1つの発見があった。

私には結界は見えない。しかし、確かにそこに壁がある。

結界内の水の動きと、川の流れではっきり差が出る。見えないはずの結界を、その日初めて視認できた。

私の周りと、リンの周り。周囲と違う動きをする水が見える。結界がある。

その結界の外から、ゴンゴンと何かが当たってきた。

音はしない。でも感じる。

王魚だろうな、と予想をつけ、むしろ結界を広げるのが私の反応。

「あっ、いい事思いついた!!」と、はしゃいだ声を出すのがリンだ。

ちょっと待って、リン。あなたの『いい事』はたぶんろくな事じゃない。

まだまだ浅い付き合いだけれど、だいぶ分かってきた。

リンは思いついたら何でも試すし、雑で、いたずらっ子。女の子だけれど、年下の男の子的と言うか、

「アリア、今から結構な衝撃映像だけど、でも、大丈夫だから。」

なんだか嫌な言い回し。

瞬間リンは、結界を極限まで縮めた。

水のおかげではっきりわかった。今リンは自分を覆うギリギリの、狭く小さな結界にいる。それはほとんど生身に見え、水に落ちたエサに見えるだろう。

そう、王魚からは。

「うわっ!」

川から巨大魚が飛び出した。

至近距離で初めて見た。驚くほどでかい。開けた口が人間サイズ。完全に丸呑みにされる。

ベストサイズのご馳走に歓喜した魚はリンを一飲みにし、派手な水飛沫とともに川に消えて・・・

次の瞬間!

ズドンと言う、衝撃を感じた。音ではない、衝撃。水が押しのけられて、津波のように攻めて来る。結界に覆われていても結構怖い。

やがて王魚が浮かんできた。

腹の部分が本来の数倍に膨れ上がり、内部からの圧力で絶命したとわかる。

リンが体内で結界を押し広げた。

酷い毒エサだ。

「うわ、えげつな。」

呟くと、浮かんだ王魚の口から傷1つないリンが這い出てくる。

「うえっ、生臭っ。」

体洗った意味ないんじゃない?


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