第15話 正しい規格外魔力の使い方
翌朝、王山猫は諦めて立ち去っていた。
結界は維持したままで(私には見えないが)、昨日の王鶏の残りで朝食。
「うう。そろそろ穀物が食いたい」とリンがこぼしていたが、それは同感。
脂っぽいものばかりで胃が痛い。
でも残したくない(まあ無理だが)。
「ねえ、アリア。」
「ん?」
「もう1つ実験したいことがあるんだけど。」
昨日からろくな目にあっていない。
一瞬嫌な顔がのぞいた私を「まあまあ」と宥め、リンが提案したのは、
「多分アリアも、結界魔法使えると思うんだよね。」
リンが規格外で異常なことはわかっていたが、これには驚く。
リン。私はたぶん普通だよ。リンみたいに変わった発想も出来ないし、それを実行する力もない。
と、思っていました、この時までは。
「多分、アリアの魔力、相当強いよ。」
リンが説明したことによると、イワーノの町で魔力を持っていた人間は、私達2人しかいない。リンには魔力が見えているから自分達が相当希少な存在なんだとわかったが、今度は私と自分を比べてみると、その魔力の大きさにほとんど違いがなかったらしい。
「魔法使いすべてがこんな力を持っているのか、自分達が異常なのかはわからない。でも、わたしの魔力はあれだけ大きな結界を張っても平気だし、だいたい王猪も王鶏も敵じゃない、人間兵器だし。」
「うん・・・」
「なら、アリアにも同じことが出来るはずだよ。魔力の質の問題があって、癒しの魔力で王猪に無双するのは無理だろうけど。」
「・・・」
「多分結界ならいけると思う。」
確信に満ちた言葉に引きずられた。
普段の私は挑戦しない。新しい何かを得るよりは、耐えることを選びがちだ。
でも・・・
もしかして・・・
「どうやるの?」
「アリア自身を中心に、魔力を周囲に広げてみて。わたしとアリアを包み込むような感じで。」
「こう?」
「うん、出来てる。」
魔力が見えるリンから見ると、今私達の周囲は癒しの魔力で覆われている。
「で、今魔力で覆った部分を癒すつもりで、でもその外は絶対に癒さないつもりで区切って。発想の切り替えだよ。」
どういうこと?と思ったが、言われたとおりにイメージした。
すると、
「えっ!?」
驚いた。
瞬間、魔力の質が変わった。
自分とリンに回復魔法がかかる。足元の草にもかかる。緑の匂いがむせ返り、花まで咲き始めた。
そう言うことが出来る人もいる、と聞いたことがある。
これ、範囲回復だ。
でも、その範囲以外は?
「よし。きっちり区切れてる」と、リンが言った。
範囲の外に魔力は漏れない。つまりそこに壁が出来た。
急に腰を落として構えたリンが、気合一閃、
「せいっ!!」と、魔力の壁にキックを放つ。
ドンッという音は空耳だ。けれど、そういう音がしなければおかしい動きで、見えない何かに弾かれた。
ええっ?
マジで!?
王猪を蹴り倒すリンが、である。生物界最強、人間兵器のリンが、である。
「出来てる。結界だね、これ。」
ぶつけた足を痛そうに摩りながら、リンが笑った。
私にも結界、出来てしまった。
「これで街道に拘らないで旅が出来るよ。」
やっと出た本音にハッとする。
雑で荒っぽいリンだったが、勘が鋭く意外に優しい。全て私のためだった。
「わたしが傍にいなくても、アリアが身を守れるなら安心出来る。森を抜けて旅が出来るね。」
この世界の旅は、巨大生物に襲われる危険から街道を外れられない。出来れば野営も極力避けたい。全ての町を経由するしかないのだが。
私には行きたくない町がある。
そこを逃げてイワーノに流れた。
イワーノでも差別されたが、それ以上に辛く苦しかった、生まれ故郷の町・・・
「これで1つや2つ、町を抜いても問題ないよ。」
にこやかに笑う相棒に、お礼を言うのもおかしい気がする、
「うん」と頷く。
こうして私も、新しい、生きるための力を手に入れたのだ。
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