第14話 魔力で遊ぼう再びと、猫

「もう!!何から何まで雑過ぎるのよ、リンは!!」

さっきからアリアの怒りが収まらない。

さすがに生き血ぶっかけはやり過ぎた。わたしもかなり気持ち悪い。ベタベタだし、生臭いし。

「悪かったって。実験だし、力加減が出来なかったの。」

でもまあ、魔力実験は大成功だ。相変わらず体から出すと透明な魔力を、鋭利なフリスビーのイメージでぶん投げた。

鶉の首が引くほど切れた。人間兵器爆誕だね。

「だからって限度ってもんがあるでしょ!?」

いやいや、よく怒鳴るねぇ、アリアさん。

って言うか君、そういうキャラじゃなかったじゃない?

よく他人を見て空気を読む。遠慮がちでおとなしい。基本は穏やかの平和主義だ。

ああ、そうか・・・

「ふふ。」

「なに笑ってんのよ、リン!!反省してるの!?」

「はいはい、反省してます。」

「『はい』は1回!!」

つまり、アリアはわたしに慣れたのだ。

うん、その方がいいよ。これからしばらくつるむんだ。遠慮なく言い合える方が絶対いい。

でもね、アリア、君は甘い。わたしの雑さはこんなもんじゃないぞ。男兄弟育ち、なめるなよ。

アリアを宥めながら川に着く。目覚めて最初にたどった川だ。王猪を運んだ時の要領で、魔力で金魚すくいならぬ水をすくう。

シャワーのつもりで上空からぶちまけたが、

「うわっ・・・」

「きゃあっ・・・」

今回は自分でもやり過ぎとわかるよ。集中豪雨も真っ青だ。災害級の大雨と言うより、むしろ滝行。

叫び声すらかき消す水流とともに、汚れが全て消え去った。

残ったのは、服を着たまま風呂にでも入ったかのような、全身ずぶ濡れの女が2人・・・

「リン。」

やばい、声が震えている(キレている?)。

真面目に反省、必死で謝る。

「ごめん!!マジごめん、アリア!!完全にやり過ぎ!!ほんとごめん!!」

「だから雑過ぎるのよ、あんたは!!血どころか、服まで流されそうだったじゃない!!」

それは同感。わたしもスカートが脱げそうだった。

高校の制服を着の身着のまま、ノーパンのまま都合4日目。

脱げていたら・・・

女同士でも、さすがにそれはどうかと思う。変な誤解も生みそうだし。

わたしは断じて変態じゃない。

「ほんとごめん!!反省してる!!」

服を乾かす魔法なんてない。自然乾燥に任せつつ、続いては鶉を捌いて食べることとした。

鶉は・・・アリア達の基準だと鶉も『王鶏』らしいが、面倒なので鶉と呼ぼう。

火をおこし、各部位に解体して焼いて食べた。

今回はA4大葉以外にも、スイカ大の柑橘類を見つけた(多分金柑だ)。味付けのバリエーションもばっちりだ。

ついでにもう1つ、実験をしよう。

やっぱりセセリはうまいよう。筋肉質で脂もあって、最高にうまい。

モモ肉も、うん、うまい!!

食べながらふと相方を見ると・・・

アリアも必死で食べている。ムネ肉と格闘中。絶対に食べきれない(鶉のムネ肉、普通の豚のモモくらいある、10キロくらい?)のに、苦しそうに喘ぎながらでも食べ続けるのは?

会った頃は『肉を食っても美人』とか思っていたし、もちろん今も美人さんだが、彼女が食べ物にこだわる理由は少しわかった。町であれだけ差別されていたし、孤児だったとも言っていた。常に十分に食べられなかったのだろう。

大丈夫だよ、アリア。この先はひもじい思いなんて絶対させない。

お腹が減っているのは『罪』であり、人は等しく食べられるべきだ。

イチイ家の家訓?である。

ただ、散々食べたあと問題が発生した。

これ、やばくない?

腹がふくれたら眠くなる。ごく当然の展開だったが、考えたらわたし、3徹してる。

寝だめしていたとは言え限界であり、カクカク頭が揺れだした。

もうこうなったら・・・

実験結果を発表し、許可を取ってさっさと寝よう。

「リン?」

訝しげに見るアリアに、

「ダメだ、超眠い。ここで休もう」と提案する。

「ちょっと待ってよ、リン!!ここ、森の中だよ!!」

「うん、わかってる。でも、大丈夫だから・・・さっきから実験してて・・・うまくいっているし・・・」

「え?」

「今、範囲、狭めるから。」

魔力は外に出せる。しかもわたしの魔力は鶉の首を切断するほど、硬い何かにすることが出来る。

ならば!!

自分達の周囲を半球状のドームで覆った。上空はそんな高いところまで覆っても仕方がないから、10メートルくらい。周囲にどこまで広げられるか試したところどこまでもいけそうだったので、半径100メートルくらいのバリアーを作っていたのだ。

今それを小さくする。半径3メートルくらい。文字通り半球状のバリアーは、もちろんアリアには視認出来ない。

透明な壁が消失した途端、森の奥から巨大な猫が走ってきたよ。

「王山猫!?」

わたし達というエサが2匹、鶉の焼けるいい匂いまでして、来ないはずはないのである。100メートル先でバリアーに阻まれていたそれが、好機とばかりに襲ってきたのだ。

「ああ、大丈夫大丈夫。全然こっちが強いから。」

「大丈夫って!?ちゃんと説明して、リン!!」

「無理・・・眠い・・・」

王山猫はチュー〇を前に理性をなくした猫のようによだれを垂らし、まずは爪を出した右足で攻撃。

「!!」

が、ベンッ!!と言う間抜けな音は幻聴だが、まさにそんな感じだった。わたし達を覆う見えない壁に弾かれて、振り下ろした勢いのまま手が跳ね上がる。

うーん、脇まで見えてる。完全に隙アリだ。戦う気ならここでKO出来る。

「?」

アリアと王山猫が、呆気にとられ過ぎて同じような間抜け面になっている。

ちょっと笑えた。

「バリアーっていうと特撮みたいだし、結界だよ。」

説明すると、

「そんな魔力の使い方聞いたことがない・・・」と、何回目だろう、お決まりのセリフで頭を抱えるアリア。

山猫はむきになって、ベンベン、バリアー改め結界に猫パンチを連打する。いっそ可愛いな、こいつ。

「意識を外しても結界は維持されたし、わたしが消そうと思わない限り消えないから。このままここで休もう。」

半あくびで、ごろりとその場に寝転がりながら言うと、

「まったく・・・」と何度も何度も首をひねり、アリアがため息をついた。

山猫は諦めたらしい、卵を温める鳥のようだ、結界を抱えて香箱座りで寛いでいる。

真下から猫の腹。

すげえ、猫好きの夢だ。ちなみにわたしは犬派だが。

思いついて歌い出す。

「・・・(あの有名な猫の曲を、どうぞ)・・・」

歌はしっとりとは歌えない。元気いっぱいのやけくそ歌唱に、アリアが胡乱な目を向ける。

「知り合いがあの猫になったら心配でたまらないよ。」

「うーん、まあそうマジな感じじゃなくて・・・」

「ったく。」

急にアリアが歌い出す。

驚いた。完コピだ。

本家・・・とは比べようもないが、少なくともわたしよりうまい。情感を入れられる分聞きやすいし、細い声、きれいだ・・・

「教えた人よりうまいって、ズルくない、アリア。」

「これでいいの?」

「いい、って言うか・・・うわー、ムカつく。もう歌わない。」

ふて腐って目を閉じた。

アリアがしばらく歌っていたし、子守歌効果と3徹効果のダブルである。

前後不覚で寝入ってしまった。

後でアリアに聞いた話だと・・・

さすがに不安で眠れないはずの彼女も、実は2徹しているのである。

落ちるまで、10分と持たなかったとか。


冒頭に続く。




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