2章

第13話 遠い記憶と魔力で遊ぼう

夢を見ながら、これは夢だと気づくことがある。

5年以上前の記憶だ。生まれた町の孤児院にいた。

いつもお腹が空いていて、いつも何かに怯えていた。

5歳の冬に両親が死んだ。2人は商隊の仕事をしていた。いつか自分達の店を持つのが夢だった。

商隊は壁の外を行き来する仕事だ。危険を承知で町と町をつなぎ、商品を運ぶ。住み分けが出来ているとは言え、街道は決して安全ではない。いつ王の獣に襲われるかわからないのだ。

数年に1度、そういう悲劇が起こる。2人の参加する商隊は王狼に襲われ全滅した。

孤児院には似たような境遇の子供が10数人いて、年齢も性別もばらばらだった。

そして、自分でも明確な理由はわからないまま、私はここで虐められた。

見かけは確かに周りとは違う。髪の色も瞳の色も変わっていて、けれどただそれだけで差別されたにしては酷過ぎると思う。

性格はおとなしいし、誰の邪魔にもならないよう生きてきたのに。

物は隠され壊される。食べ物は盗られる。年長の子には殴られもした。

孤児院には朽ちかけた納屋があり、いつもそこに隠れていた。

夏は暑いし、冬は寒い。人目を避けて、辛うじて確保したパンを齧る。

そんな日々が数年続き・・・

このままでは死んでしまうと、決意して町を出た。10歳だった。子供の足で3日3晩歩き通し、イワーノに辿り着いたのだ。


おはようございます。

お腹がいっぱい過ぎて空腹時代の夢を見るという、ジレンマを味わったアリアです。

私この度、『獣の森で一泊』と言う大暴挙を達成しました。

   ・・・

捨てられた時すでに達成しただろうと言う突っ込みが聞こえた気もしますが、あの時私は寝ていない。リンも眠らなかったし、怖くて怖くて眠れなかった。

なのに。

今回は前後不覚で眠ってしまった。森の中は、こんなに眠れるほど安全な場所では、絶対ない。

きっかけは、イワーノを出てすぐリンが言い出した一言だった。

「あのさ。試したいことがあるからちょっと付き合ってよ」と、森を指した。

リンは決して大きい方ではないし、見た目普通の女の子だが・・・

常識は否定しても、見てきた事実が肯定する。

この子、世界最強だ。人類最強をはみ出して、軽く王猪にすら勝てる事実から考えて、この世界最強の生物だ。

「いいよ。」

「じゃ、行こう。」

まっすぐ森に入って行った。

「で、試したいことって?」

「うん。あのさ、わたしには魔力が見えるって、前に言ったの覚えてる?」

確かに以前言っていた。

リンは魔力が見えるらしい。同じ魔力持ちの私には見えないし、具体的にはわからないが。

「私には緑の魔力が、リンには赤い魔力があるって言ってた。」

「うん、それ。で、わたしの目から見てアリアが魔法を使っている時は・・・」

私が誰かを癒そうとした時、私は緑の魔力を体から出す。それを対象にぶつけているのだそうだ。

「ってことは、魔力は体の外に出せる。出した状態で放すことも出来るわけだから。」

「?」

「アリアの緑の魔力は生物を癒す。なら、わたしの魔力にも何か効果があるんじゃないかと思って。」

そう言いながら、見えない何かを玩ぶような仕草をする。

私には見えない。

が、リンは魔力を投げ上げ、キャッチしを繰り返しているのかもしれない。

「おあつらえ向きに丁度いい実験材料が来た」と顎で示す先には、エサである私達を見つけてまっすぐ走って来る、王鶏が見えた。

一般より小さめの個体だが、それでも大きい。

ビクッと身を固める私に対し、リンの方は暢気なものだ。

「あれ、鶉?王鶉っているの?」

「へ?鶉って?」

「ああ、なるほど。鳥系は全部王鶏ね。」

納得したように言うと、

「じゃ、実験開始!!」と、何かを投げる動作をした。

刹那!!

王鶏の首が飛んだ。見えない何かに切り裂かれた。

直後、吹き出す血を頭から被った。

結構な衝撃映像だったよ。


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