第12話 歩き出そう

明け方戻ると、むしろ人が増えていないか?町人達が中央広場で待っていた。

「はい。」

町人Aを見つけ人骨を渡すと、言葉もなく青褪める。

生きて帰るはずもない。当たり前の結果なのだが、それでもフリーズするのだろう。

その髪に、よく見ればウエーブがかかっている。

ああ、あの子の親なのか。ならば遺骨も遺品もないし、他の人も誰が誰やらわからないよな。

言うのは面倒だったけれど、それでもここまで関わった以上、正確に家に帰すために・・・

「信じる信じないは自由だよ」と、それぞれの特徴を語ってやった。

「この骨の持ち主は・・・30歳くらいの背の高い人だよ。黒髪のショートカット。肩の上くらいでパツンと切ってる。耳にピアス、つけてるかな。」

「カヤ!!」

人垣の中で叫び声が上がる。

心当たりの夫婦が泣き崩れた。

「この子は・・・15,6かな?かなり茶色の髪の毛で、背中の半ばまで伸ばしている。いつも編み込んでいた、かな?唇が厚く見える。」

「ユキナ!!」

「この子は20歳くらい。右目の下にほくろがある。最初の人より更にショートカットで、活動的な人に見えるな。髪色はこげ茶。」

「サマンサ!!」

予想通り、町人Aの子はいない。

本人(の霊)が、早く早くと急かしている。

わかったよ、もう。

「もう1度言うよ。信じる信じないは自由だけどさ、あと2人犠牲者がいる。遺骨も遺品もなかったけれど。」

「え?」

「1人は12、3歳。腰までの黒髪を縛っていて、あどけない顔立ちだけど、バストはかなり大きいな。幼いころ怪我をしてる?右手が少し不自由だよ。」

「ユウ!!」

「最後は18くらいか。天然パーマの焦げ茶の髪。いわゆるたれ目で、愛嬌のある顔立ちをしていた。」

「ミーナ!!」

驚くほどの慟哭とともに、町人Aが膝から崩れた。

どうやら合っていたらしい。

「大事なことだから繰り返すよ。信じる信じないは自由だけど、遺骨がなかった2人についても、魂は持って帰ってきた。2人も家に帰っていったよ。これ以上、わたしに出来ることはないから。」

帰る場所のある霊と、帰る場所がない生者。

町に戻りながら考えていた。

「ただいま」と帰る場所がないなら、そういう場所を自分で作ろう。

それは苛めっ子の町『イワーノ』ではない。もっと素敵な場所を探そう。

ないなら作るのもありだろう。旅に出て、納得のいかないこと、世の理不尽は叩き潰す。迷惑をかける相手もいない。

なら、力づくで理想郷を作りあげるまでだ。

まずはこの世界のことを知らなければならない。

それなら王都を目指してみよう。

「アリア、この町に未練ある?」

「ないよ、まったく。サリア婆ちゃんの墓はここだけど、でも、婆ちゃんはここにいるから。」

トントンと胸をたたいて見せる相方は、少しだけ自信に溢れているように見えた。

「じゃ、付き合ってよ。わたし、王都へ行きたい。」

「いいよ。」

「食べ物は現地調達でいいね。じゃ、行こうか。」

歩き出すと、

「あの!!待って、待ってください!!」と、言い難そうに町人Aが呼び止めた。

「なに?」

「あの・・・せめて謝罪させてくれ。アリア、今までその」

「止めて。」

存外に強い口調で遮られた。

ずっと耐えてきた、おとなしい女だから甘く見たのだ。

謝ることで自分自身が助かろうとした、加害者軍団を跳ね退けた。

「え、・・・」

「許す気はない。一生恨む」と。

言い訳もさせない。謝罪もさせない。

一生涯、心の中のささくれに苦しめられていけばいい。

追い打ちをかけたくなった。

「あんた達の行いで、うまく取り込めたら町が急速に発展したかもしれない、重要人物を失うんだから後悔すればいいよ。」

今町人達は、『王猪に勝利する化け物を失う』と思っている。

でも、本当に重要なのは?

「アリア。」

「はいよ。」

タイミングを合わせた、アリアの魔力が下衆トリオを包み込み・・・

「えっ!?」

「なんで、これ?」

「まさか!!」

タツ、トーマ、ロインが治った、傷跡1つ残さずに。

「これほどの魔法使いを失うんだから。」

舌を出して立ち去った。

背後で人々が大騒ぎをしているが、ガン無視する。

捨てられ女とボッチ少女。

凸凹な2人の旅が今始まる。

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