第6話 町に着いたよ

その後、猪運搬問題は割とあっさり解決した。

あきらめないアリアに辟易としながら、もしかしてと思い当たる。

改めて見てみると、彼女の中には魔力がある。緑色のモヤモヤした塊だ。

あの時、アリアはそれを外部に出した。わたしにぶつけるように飛ばし、病気の元ごと消し去った。

つまり魔力は外に出せる。

緑が癒しの力ならば、わたしの中の赤も何某かの効果を秘めていないか?

試しに出してみた。体の外に出した魔力は赤くなくて透明だったが、本人だから視認できる。

魔力を猪の下に差し入れ、金魚すくいのポイのイメージで持ち上げた。

簡単に上がったよ。

子供の頃の憧れ『念動力』だと思っていると、アリアが腰を抜かしていた。

「え・・・なんで?・・・」

「自分が持っていきたいって言ったくせに。」

「いや、出来ないのを承知で騒いだだけだよ、私!!って言うか、どうなってるの?何が起こって・・・」

「魔力で持ち上げてみた。」

「そんな魔力の使い方、聞いたことないよ!!」

アリアによれば、魔法を使える人は万に1人程度、大変希少で現に彼女の町には1人もいない。アリア自身も、自分が魔法使いと気づいてから半年ほどしか経っておらず、町の人もその事実を知らない。

そしてその殆どが癒しの力であるらしい、と。

「王都には癒しの魔法使いが集められているって聞いたことがある。」

「ふーん。その人達は医者なの?」

「違うと思う。多分王宮勤めじゃないかな、よくはわからないけど。」

「ふーん。」

つまり、『人知を超えた力を持つ者達を王宮が抱え込んでいる』と言うことか。

この時点ですでに胡散臭い気がする。

「アリアは王宮、行かなくていいの?」

「嫌だよ、面倒くさい。」

うん、わたしの相方はまともな感性で結構。

まあ、この世界への評価はまだもう少し調べなければね。

わからないことが多過ぎる。

王猪を持ち上げた状態で草原を抜け、街道を行く。目的地はアリアが住んでいるというイワーノの町。

初めて意識して魔法を使ったが、面白いもので重さは感じない。この猪、何10トンあるんだろう?今のわたしには箸よりも軽く、胸に見える魔力も元気に燃えて揺るがない(余裕なのかな?)。

そう言えば、アリアの緑の魔力、わたしの赤の魔力の話をしたら、

「私には見えないよ」と驚かれた。

魔法使いは万に1人。しかもアリアも魔法使い歴1年以内で、サンプリングもままならない。

わからないことだらけだった。

野営地から森を抜けるまで1時間、街道まで2時間、イワーノの町まで4時間余り。

昼過ぎには町に着いた。

正しく進撃だ。

巨大な、商業施設付き駅ビルくらいの高さの壁が囲む町だった。獣の侵入を防いでいるらしい。

そこに大きな門があった。

「あんな開けていたら意味ないじゃん。」

「いや、一応今昼間だし。」

ほぼ住みわけが出来ていて獣が入ってきたりはしないらしいが、昼間なら視認できるし門を閉めて対処もできる。

それに明るいうちは、商人などの人の出入りがあるらしい。

ただ町に入るにあたり、せっかく持ってきた王猪が問題になる。

「どうしよう。2人で持ってきたって、いくらなんでも不自然すぎるし、魔法で浮かせてきたなんてバレたら余計面倒だし。」

「うーん。じゃあこうしよう。」

一旦猪を地面に置いた(実は数センチ浮いている)。兄の黒帯を繋いでいるふりで鼻面に接続(魔法で)、引っ張っている体である。

「・・・無理じゃない?」

「大丈夫、大丈夫。どうせ人間なんて都合のいいようにしか見ないから。下に台車でもあると勝手に思うよ。」

「うーん・・・」

渋るアリアを宥めながら門を潜った。

この門、なかなか立派だ。2階建てアパートサイズがすんなり通った。

「えっ!!アリア!?」

と、門番の1人が血相を変えて飛び出してきた。

アリアの表情が怯えたように陰る。自分のほうが大きいのに、わたしの後ろに隠れる動作。

なるほどな。

猪云々言ってはいたが、つまりアリアは、この男に会いたくなかったのだと悟った。

「やあ、門番さん。アリアの友達でリンと言います。」

社交的にけん制する。

「町の外にいたからさ、この子。危ないから連れてきたよ。文句ないよね?」

目線で威圧する。

これは魔法というより、格闘技経験者の殺気だ。濃厚な殺る気を当てられて、門番の男は二の句が継げない。多分赤い魔力のせいで、今までより威圧のパワーも上がっている。

門番は、筋肉質の若い男だった。十人並みの顔立ちだが、体格込みでいい男よりか?

アリアの元彼かな?

言葉を発せられなくなった男は、門を潜るわたしとアリアに続く巨大な王猪に、更に口をあんぐり開ける。

こうしてわたし達はイワーノの町に入った。

「アリア。あれ、元彼?」

「・・・違うよ。元彼の悪友。トーマって言うの。」

確か、悪友2人を巻き込んで、元彼に外に捨てられたと言っていた。

つまりあいつは共犯か。

「元彼のタツ、門番のトーマと、タツの家で御者をしているロインの3人に捨てられたから・・・」

怖かったとアリアは言った。

でも、

「大丈夫だよ、アリア。王猪を一撃女が今はあんたの護衛だから。」

ニカッと笑うと、強張ったままだったアリアの顔がやっとほぐれた。

「うん。わかった」、と笑ってくれた。

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