第7話 猪1頭、家が建つ

町に入ったわたし達は、巨大な獲物を引きずって中央広場まで来た。

「そのうちお客さんが来るよ」とアリアが言った通り、王猪に驚いた物見雄山な町人達と、なるほど、お客さんが集まり始める。

彼らは商人達だった。

魔力のせいか体力チートで、森の王様達より強いわたしにはピンとこないが、外の生物を手に入れることは非常に稀で貴重らしい。

食料として優秀、毛皮も牙も使えるそうだ。

つまり、お宝なんだって。

ちなみに壁の中では畜産も行われていて、普通の人が食べる肉はこちら。大きさもわたしが記憶している一般の鶏や豚だった。

鶏キングも、猪(豚)キングも、大きいから味は悪いかといえば逆らしい。むしろきめ細かく、脂乗りも上品で高級品だ。

原始人とナウマンゾウみたいなもので、ならば狩りをと思っても命を落とすことがほとんど。

滅多にないチャンスに商人達が色めき立つ。

ざっと7組くらいだろうか?

中の1人、でっぷり太ったおっさんが偉そうに叫ぶ。

「アリア!!なんでよそ者のお前がそんなものを!?」

アリアは自分を孤児だと言った。別の町から来て、気まぐれに拾って育ててくれた、高齢女性のお陰でここまできた、と。

つまり差別を受けてきたということだろう。反射的にビクッとするのも、彼女がどういう扱いを受けてきたかわかるよ。

詰め寄ってきた。

偉そうに上から目線で、取り上げるつもりとわかる。

面倒なので間に入った。

「はい、おっさんアウト。」

1番身長が低い子供にしか見えないわたしの暴言に、あとで聞いたら町1番の豪商だったらしい、おっさん激高。

「なんだ!!誰だ、貴様!!」

掴みかかってきたところを、腹に手を入れ持ち上げた。

普通ならあり得ない。

体重差で3倍くらいありそうな男を片手で持ち上げた光景に、全員が動けなくなる。

腕がピンポイントで食い込むのだろう。おっさんはおっさんで呻き声をあげてもがいている。

頼むから吐かないでよ、汚い。

「これ見てわかるように、王猪を倒したのはわたしだよ。で、アリアはわたしの友達。彼女になめた口をきいた奴にこの素材は売らない。」

おっさんは下働き数人と来ていたから、仲間を狙ってぶん投げた。王様の獣にも勝てる力だ。おっさんは数10メートル飛んで、人壁に激突したよ。

うん、上手に手加減できた。

「うちが買わなければ、その猪は無駄になるぞ!!」

まだごちゃごちゃ叫んでいたので、

「別にいいよ」と笑ってやった。

「それなら誰に売らないし、外で食えるだけ食って他の獣の餌にする。わたしは外の世界が怖くないし、今回駄目でも別の獲物をとって別の町で売ればいい。アリアも来るでしょ?」

笑いかけると、察したアリアも「うん」と頷く。

結果町1番の豪商は脱落、あともう1人、アリアの元彼の家も脱落させた。

5人の商人達が相談し、金貨100枚で買い取った。

「適正?」

小声で聞くと頷いた。

「金貨100枚で何が買える?」

服とか下着とか欲しいなぁ。

今更だけど。

「家が買えるよ、小さなものなら。」

おー。金貨1枚10万円相当か。

なるほど、無理をしてでもアリアが持って帰りたがった訳が分かる。

まさか本当に持って帰れるとは思わなかったようだけど。

大き目の袋に入った王猪代を受け取った。

「どうする?うち来る?」

「アリアの家って、育ててくれたお婆さんの家?」

「うん。町の外れだけど。」

壁際は貧民街だ。やはり不当な差別を受けていたと察した。

「1時間以上歩くよ。」

「別にそれでいい。」

「じゃ、行こう。」

競売騒動で結構時間がたっていた。

アリアの家に着く頃は、どっぷり日が落ちているだろう。

歩いていると、ほどなくして絡みつくような視線に気づく。

憎悪とも感じられる。明確な害意だ。

元々格闘技ラブなので、気配を探ったりは少しは出来た。

が、今は魔力に気づいたせいか、敵の位置どり毎はっきり分かる。

「アリア、気づいてる?」

「え?」

「3人付いて来てる。元彼達かな?」

「ああ。猪、売らなかったし。」

「懲らしめていいかな?」

笑って聞くと、さすがに頭にきているのだろう。

喧嘩屋のわたしと比べ穏やかな性質のアリアが、

「いいよ」とゴーサインを出した。

「殺さない程度にね。」

おし、やってやる。

「万一やりすぎたら、アリアが治してね。」

動き出す。

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