第4話 捨てられた女

私の名前はアリア。一応成人済みの15歳。あと1月で16歳。

今日、彼氏に捨てられました(物理的に)。


私は生まれはさらに奥地の村だが、10歳からはイワーノの町に住んでいた。孤児だった私を受け入れたのは町の壁近くに住むサリア婆さんで、名前が似ていたからなのか、孫として面倒を見てくれた。

彼女は珍しく1度も結婚していなかった。相方はいない。優しくも厳しいしっかり者で、この5年間は幸せだった。

長くもない私の人生で、それでも最高といえる5年間は唐突に終わる。

半年前に高齢だったサリア婆さんが亡くなり、また私は1人なった。

そんな頃近づいてきたのが、見た目だけは町1番、高身長にイケメンのタツだった。

彼は商人の息子で、23歳。仕事は親の手伝いくらいで離れ住まい。夜は友人と飲み歩いているという明らかすぎる事故物件なのだが、その時の私は嬉しかった。

誰も私を認めない。いないモノ扱いのこの世の中で、認められた気がして喜んでしまった。

それが運の尽きである。

タツも見た目がよかったが、私も見た目だけと言われていた。理不尽だが、孤児であり流れ者でもある、私への評価はこれが全てだ。

彼はつまり、やりたかった、それだけだ。

意外に身持ちが固く目的を果たせないと知ると、タツは速攻私を捨てた。

壁の外へ。

自らも危険なのに、悪友2人も巻き込んで馬車まで仕立てて、ご丁寧に街道から離れた場所に捨ててくれた。

付き合って4日目である。

この世界は基本巨大な生き物たちの世界だ。大きな鶏、大きな猪、大きな熊など。

人間は彼らを、畏怖を込めて『王』をつけて呼ぶ。

曰く、王鶏、王猪、王熊だ。狼や山猫もいる。

彼らの世界を切り取って、壁で囲って人が暮らしている。町は大小さまざまで、それぞれを街道が繋ぐ。道の周りだけは森を切り開き、獣たちが近づき難くしている。近づき難い、それだけだ。

保証はできない、近づくかもしれない。

町の外は危険だった、一発で生命に直結するくらい。

タツみたいに冷たい、そういう人間がいることもわかっていた。他人の生命など顧みない、自分本位の残酷な性根だ。

平気で人を陥れ、いらなければ捨てる。自分以外無い、救えない人・・・

麻袋に入れられ、口をしっかり閉じた状態で捨てられた。抜け出すのに時間がかかり、加害者は遥か彼方で姿も見えず、夕方まであと少しだ。町まではどう足掻いても無理、日があるうちに街道までも危うい。

背後には森・・・

考えて、いっそのことと森に入った。どうやっても危険なら、まだ身を隠す場所があるかもしれないと、そこに賭けた。

震えながら1時間ほど歩いたのち、私は奇跡に遭遇する。

「・・・(お好きな桜ソングをどうぞ)・・・」

聞こえてきたのは元気な声だ。

女の子だ。初めて聞く曲。

場違いすぎて呆気にとられる。

「誰?」

思わず出た言葉に、少女が顔を向ける。

年下かな、と思った。

12歳くらいに見える。小柄な体で、しかしまっすぐ伸びた背筋が印象的な少女。

黒髪黒目でショートカット。気の強そうな、整った顔立ちをしている。

獣の森で、明らかに異質な存在・・・

「そっちこそ誰?」

叩きつけるような言い方で返してきた。

怖かった。

捨てられた後だからなおさら。

正直怯えてしまったが、私の感情に気付いたのか、安心させるように少しだけ笑った。

笑ってくれた。

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