第5話 弟子は師の言うことをよくよく聞くものだよ
「さて、小手調べは済んだのかな?言っておくけど僕を相手に遠慮はいらないからね。むしろ全力で来ないとけがさせちゃうよ?」
「師匠とやりあうなんてなかなかない機会だったのでね。少し、どこまでやれるのかを試してみたくなったんですよ。」
そう、俺は師匠にどこまで俺の魔法が通用するのか試したかったのだ。結果は支障が2枚も3枚も上手だったわけだが。
「へぇ…。君がハンデを負ってなお魔法を諦めないのは、僕もうれしいよ。」
「そうですか。まぁ、通用しなかったので、次はアレを使わせてもらいますねっ!」
言い終えると同時に俺は再び師匠へと突進した。
魔力暴走の状態になると俺の身体能力は雷の属性顕現「超越」を使った場合よりも更に跳ね上がる。
ただ、この状態は小回りがきかないというか、まさに暴走と言い表すのが相応しいような状態になってしまう。
そもそも魔法とは魔力を制御することで用いるものだ。
俺のやっていることはその真逆で魔力の動きを乱していると言っても良い。
どれだけ抑えようと俺の魔力は統率が取れずに乱れるのだ。魔法なんてとてもではないが使えるはずがないのである。
しかしながら、この魔力暴走という状態は対魔法という観点ではこれほどにないまでに効果を発揮する。
魔法とは魔力を制御することだ。当然、魔力が乱れれば魔法は霧散してしまう。
つまるところ、俺の魔力暴走は攻撃に転じることができれば俺と対峙した者の魔法を掻き消すことができるのだ。
しかし、魔力暴走をすると思考の速度はそのままなのに動くスピード、パワーといったものが過剰に増大するために動きにくいことこの上ない。
なんども経験があるが、すこしでも意識を逸らせば自分の体があらぬ方向に回転をしながら吹き飛んでしまうことだってある。
魔法に対してのアドバンテージがあってもなお、魔力暴走はそれを上回るデメリットがあるのである。
「ハァッ!!」
突進しながら俺は魔力をさらに暴走させ、この場の魔力の流れというものを最大限に乱した。
しかし、魔力場が乱れた程度では師匠の身体強化魔法を突破することはできない。
まるでジェットコースターに乗ったかのように、体のスピードに意識が置き去りにされていく。
俺はその荒波のような動きになんとか食らいつきながら支障に向かって拳から暴走した魔力を精一杯吐き出した。
『魔力流しッ!』
魔力流し、それは天道流の奥義の一つ。
相手に己の魔力を流し込むことで魔力のコントロールをかき乱す技。
ただ、俺の繰り出したそれは見様見真似のなんちゃって魔力流しだ。
荒れ狂う魔力を相手に向かって無理矢理に流し込むのが俺のやり方だ。当てることさえできれば、これを使った相手は魔法を使えなくなる。
まさに必殺技と言うのが相応しい。
けれど、本当の魔力流しとはこんな乱暴な技ではなく、もっと繊細な技術である。魔力を全身で感じ取り、その流れを掴み、使う対象の魔力ですら読み取らなければならず、その上で魔力を吐き出しすぎないように最低限の魔力を適切な量だけを用い、相手の魔力抵抗の隙間を掻い潜って流し込むのだ。
研ぎ澄ました感知能力と、神業のような魔力制御があって初めて使用することができる絶技。
師匠は俺の魔力流しを不完全と称したが、俺からすれば似ても似つかぬ紛い物なのだ。
「よっと」
普通だったら吹き飛んでいるはずの衝撃を師匠は飄々とした様子で受け止めた。
魔力流しをしたのにも関わらず、師匠の身体強化魔法は解けていない。おそらく、本当の魔力流しを扱うことができる師匠にとっては、暴走している魔力を抑え込むことなど造作に過ぎないのだろう。
俺の拳を師匠が掴んだことで、土の属性顕現『拘束』によって体の動きが制限される。
「まだやれるよね?」
「勿論」
その言葉に応えるために、受け止められた拳に鳥肌が立ちそうなほど濃密な魔力を込めた。
すると、先程と同じように体が自由になる。その一瞬を逃さずにゼロ距離で魔力流しを叩き込む。
それから、俺の拳を固く握りしめる手を強引に振りほどいた。
いくら師匠であっても、荒れ狂うような無秩序の魔力を直接流し込まれれば魔法の制御が崩れるのは変わらないらしい。
師匠を覆うように輝いていた
そして、俺の魔力流しは触れている方が効果を発揮する。
加えて師匠は先程から詠唱を破棄して使っている。
それが意味するのは師匠は魔力を整えるための詠唱句、つまり制御句をまだ残しているということである。
だからこそ、師匠がその次に取る行動は予測ができた。間違いなく詠唱をするはずだ。
ゆえに、それを言われる前に俺は追撃を加えなければならない。右腕を後ろに引き、魔力暴走によって今にも吹き飛びそうな体を支えるために重心を落とす。
「はああああっ」
そして、俺は魔力暴走によって際限なく高められた身体能力を惜しみなく活かし、渾身を込めて拳を振るった。
それを見た師匠が愉快そうに笑みを浮かべる。
弟子は師の言うことをよくよく聞くものだよ、どうしてかそんな幻聴が聞こえた。
ただ、その聞き慣れた声が全力でやっても大丈夫だと俺に思わせた。
『魔力流し』
唇が震え、拳は師匠を撃ち抜いた。
魔法によるガードもなしにまともに喰らえば師匠であろうと問答無用で戦闘不能にするだろう。
だが、さすがは師匠というべきだろう。
結論から言うと、俺の渾身を受けてなお師匠は無事だった。
このとき彼が何をしたのかといえば、俺の魔力暴走を逆に利用することで、攻撃の威力を相殺したのである。
身体の中に流れ込んだ俺の魔力を、俺の拳がぶつかる一点に上手く集めて凝縮したのだろう。
それによってその部分だけ魔法障壁のような役割を果たしたわけだ。師匠でなければできない離れ業だ。
「やるね。じゃあ次は僕の番だよ。』
師匠はニヤリと笑うとそう言葉にした。
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