第14話
「うわ、何それエグっ…」
魔法少女B…彼女の記憶を覗きながら僕はそう呟いた。目の前で僕に向かい構える彼女はその僕の反応に頭の上でハテナを浮かべているが、今は関係ない。
つまる所、彼女の世界では私は人類滅亡を企んでいて、彼女の友人家族を皆殺しにしたらしい。
いや、そりゃ僕を敵視するだろうし恨みもするだろう。
とは言え一番私の能力と相対してきた彼女ならこの状況はもう絶望と言っても良い筈なのだが…正直精神性が異常である事は図らずも分かる。
まぁ、今は左腕のスロットにいくつかこの世界にはまだ発見もされていなさそうなアンチマナとやらを装備している時点でそれに賭けているのだろうと察する。
「殺す。貴方を絶対に!」
「だから、私は魔法少女だって…はぁ、もう良いです。気絶させます。遅いかも知れませんが、恨まないで下さいね。」
私は彼女に向けて構える。
嫌だなぁ…絶対恨まれるだろうし、絶対仕返しをされる。
「死ねぇーーー!!!」
……と、そんな感じで攻防が開始される訳だが、面倒だが、私は暫く彼女の攻撃を受け続けなくちゃならない。
何故なら彼女の身体は見れる限り今色々変わっている事になっているらしい。つまる所、その体に力を併せる事が難しいのだ。通常、普通の人間であるブラッドポピーだったら彼女に合わせた勢いで首に一発『トンっ』と気絶するのだが、この並行世界から来たブラッドポピーはいくらかパワーアップしている。その分耐久値も変わっていてその程度のパワーでは気絶しない。
だから、幾らか攻撃をワザと受け入れてパワーダウンを図り気絶させなくちゃならない。
と左からパンチが飛んでくるのを顔面でキャッチしながら説明を考えていると、ふと彼女の過去に出てきた私?が頭に浮かぶ。
あの私は確かに私だ。見た目も魔力も記憶もしっかり保有しているタイプだ。
だが、ブラッドポピーが言う様に私と比べたしかに奴は弱くなっている。それも人類滅亡程度に1年以上かかる程に。
人類滅亡なんてこの力があれば1日で済む筈だ。例え、地球を傷つけずにと言う制約が付いたとしてもたった2日で済む。
なのにあんなに派手な事をやっておいてあそこまでに一年掛かるとは異常だ。
本当に弱いんだ。弱すぎると言っても良い。
……とは言え原因はもうわかっている。だがそれが正解だとも言えないのでまず仮説と称するのならば、アレは僕の様な突然変異な男が依代ではない。もっと単純な一般的な女の子がきっと依代…と言うより乗っ取られている状態なのであろう。
男がアルタイルになるのと、女がアルタイルになるのとでは絶対的な魔力量が異る。
女は言うなればハンドルが無い蛇口付きの樽だ。その樽には延々と水が足され続けるが溜める事が出来ないので永遠に樽の中身はさっき入れられた分の水しか残らない。ほぼ空の樽。
対して男は蛇口のない樽。延々と水を足され続けるのに出すことは叶わず、貯める事しか出来ない樽。
どちらも欠陥品で、どちらもそれを良しとしている。
だが、その中にある異例が私だ。
蛇口のある樽。水を堰き止めて、貯めて使う時のみ出す事が出来る。そこに欠陥は無い。
だが、それは元々が蛇口の無い樽だからこそという大前提にある。
だが、その大前提がハンドルのない樽だったらどうだ?その蛇口にハンドルが出来るだけだったのなら良いがそうじゃない。ただ樽に穴が開くんだ。大きな穴が。
蛇口ならある程度口径によって水を出す量を調整できる。つまり樽の中にある程度少ないが水を残す事が出来る。
だが樽の一番下に大きな穴ができたらどうだ。水の出る勢いは凄いだろうがそんなの樽じゃ無い。ゴミだ。
つまり、奴は人間として終わりかけている。
だからあの世界はある意味救われている。あの世界の私の実質的な死によって、
あの様子なら1ヶ月から2ヶ月、長くてプラス15日と言った所だろうか。
まぁ、その間に世界を滅ぼせるかどうかって所だな。
まぁ正直、心底どうでも良い。
この世界の話じゃなきゃ、死のうが死ななかろうが。
この世界だって私の知らない場所で知らない人が酷い死に方してるんだ。他の世界にまで関心を向けてられない。
このブラッドポピーが何を思ってここに来たかは分からないけど、良くまぁこの世界に厄介事を持ち込んでくれた物だ。
あれ、いや、何言ってんだ。僕
「どうした!!なぜ反撃しない!!」
ブラッドポピーがそう問いかける。私の頬にはまた拳が突き刺さった。
「する必要が無いので…私はあなたを攻撃する意志が無いと何度言ったら信じるんですか…」
いや、知っている。向こうの私を知っている以上、このブラッドポピーは絶対に私を信じない。
「ふざっ!!けるなぁぁぁ!!!」
瞬間、彼女の左腕のガントレットからナイフが飛び出てそれを私に顔目掛けて飛んでくる。
そのナイフが飛び出た瞬間から私の魔力がガクンっと減っていくのを感じ、ちょっとビビった。
私はヤバいとナイフを持った彼女の腕を掴みとり、ブラッドポピーを拘束する。
「グハッ…!」
彼女から苦しそうな声が上がる。仕方ない。しばらくはこうして貰おう。
私は彼女が持っていたナイフを奪い取る。
これが出た瞬間から私の魔力がぐんと減った。ナイフの表面を触れると魔力が減っていくのを感じる。間違いない。
「アンチマナ……」
思わず呟いた。ナイフの刃の表面には薄く金属が引いてある。そして私が触れた部分から熱を出しながらそれは消失していった。
「貴様、何故アンチマナの事を知っている!?」
「貴方の記憶を読ませていただきました。安心してください、貴方のガーディアンにこう言った魔法は使えません。」
「貴方のって……まるで自分がそうじゃないかの様な台詞だ。」
「だから違うと言っているでしょう。少し頭を冷やして話を聞いてください。」
そこまで言うとブラッドポピーはしばらくして私の顔を忌々しそうに睨みつけて「ッチ」と舌打ちをした。
どうやら話を聞いてくれそうだ。しばらくは気絶させる必要はなさそうかな。しかし、話を一方的に信じるという訳ではなさそうだ。
と言うより私の言葉である時点で信じる可能性は低い。
仕方ない。
「解除。」
どうせこの人は私の世界の人間じゃない。
僕の姿を見せても問題じゃないだろう。
「な、何をっ!?」
身体が光り輝き、形を変えていく。
さっきまで履いていたスカートがズボンに変わり、フリフリのドレスがTシャツに変わる。
女から男に変わるシークエンスはもはやホラーなので意識的に体を光らせる事によって見えない様にした。
私の根本から変わって行くのを感じる。心も体も何もかも。
「なっ!?」
「話をしよう。」
まだ地球に着くまで時間はある。
僕は田中彰人として彼女と話すことを決めた。
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