第15話


私は目を疑っていた。


目の前に居たのは確かにあの化け物だった筈だ。間違いない。

笑いながら、無慈悲に人を殺す化け物だったはずだ。決して人間な訳がない。

人間ならあんな地獄を作ろうだなんて思い立つはずが無いのだ。


だからこそ私の世界が揺らいだ気がした。


目の前には少年がいる。私より一つ、二つ下だろうか。未だに幼さを隠せていない。

何処か中性的にも見えるその少年に私は驚愕を隠せなかった。


「僕は田中彰人。並行世界の…貴方で言う所のガーディアンです。

この世界ではアルタイルと呼ばれています。」


そう彼が自己紹介をしていたが信じられなかった。

確かに違う。さっきと真正面に対峙した時も奴から今まで感じていた狂気を感じなかった。それだけではない。奴は私のを知らない様な口振りであったのだ。


「……貴方は奴と自分が違うと言うの?」


「ええ、アレは僕じゃありません。ましてや並行同位体でもないです。」


並行同位体でもない?


「どう言う事?その…並行同位体でもないって言うのは、」


「奴の中身は僕じゃない。と言えば分かるでしょうか。」


「そう言うの分かるのかしら?」


「ええ、にあり得ない。」


私を真っ直ぐに見てそう言う彼。

何故そう言い切れるのか、聞き返そうと思ったが次にそのセリフは出なかった。

私は何も知らないのだ。彼の事もあのガーディアンの事も。


「君の事を教えて。」


そう言いながらマスクに手を掛ける。私自身の正体も言った方が良いと思ったからだ。すると、彼が慌てて私の手を押し込めた。


「何するの?」


「いやいやいや、何しようとしてんすか!?正体バレちゃうでしょ!?」


「正体がバレるも何も私の記憶を覗いたのなら知っているでしょう?」


「いや、知りませんよ!わからない様に自己催眠掛けてたんすから!」


「?

なんでそんな事を?」


「僕の世界にもブラッドポピーいるんすよ!!」


察してくれと言わんばかりに慌て始める彼を見てちょっと違和感。なんなのだろうか。


「まぁ、良いわ。言ってほしくないのなら言わないわ。だけどそちらの話は聞かせてもらう。それで良いわね?」


「えぇ…はい、いえ元々そのつもりでしたし…良いっすけど」


「じゃあ話を聞く前に一つお願いがあるのだけれども、流石に話す時くらいマスクを脱ぎたいわ。何かマスクを脱いでも正体がバレない様な魔法ないの?」


「なんか人の扱い荒いなぁ…まぁ有りますけど。」


彼は一瞬変身してから私に向けて手を翳すとしばらくして手を下に下げた。


「もう掛けたの?」


「ええ、もう掛けましたよ。」


「なんか地味ね。もっと他の魔法少女みたいにキラキラしているものかと思ったわ。」


「地味で悪かったですね!地味で!」


そうぶつくさ文句垂れながらアルタイルは元の田中彰人くんの姿に戻ると冷静を取り戻したかの様に姿勢を正した。

何というか、可愛いな。

そう思いながらマスクを取って顔を晒すと彼はなんとも言えない顔をした。なんかおかしい顔にされたかとマスクに反射した自分の顔を見るが結構可愛い顔をしている以外はあまりおかしい感じはしない。


「何その顔は?」


「いえ、なんかブラッドポピーの下から自分の知ってる顔が出てくるとこんなにもシュールなんだなと思いまして…」


「へぇ、因みに誰の顔になってるの?」


「妹っす。」


「それはまぁ、何というか…」


ご愁傷様。そう言おうとして辞めた。どうでも良い話をし過ぎた。


「じゃあ、話をしましょう。」


「あ、はい。わかりました。」



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



「…つまりこう言う事?ガーディアンとは本来男性が為るもので、私の世界のガーディアンは本来至るはずもない女性がなっている非正規雇用ガーディアンだと…」


「まぁ、なんか言い方的に間違ってる気がしなくもないですが、大体あってます。」


目の前のブラッドポピーさんとそんな風に会話をしているが、まるで妹と話してるみたいで調子狂う。

妹じゃなくて白石とかにしたほうが良かったかも知れないと先程の采配に失敗を感じながら一通りの説明を終えた。

どうやら未だ納得はしていないが信じては貰えたようだ。


「一つ聞くけど、私をあっちの世界に戻すって事出来る?」


「無理です。僕にはどうする事も出来ません。

更に言うと向こうの世界と僕の世界の時間の流れは全くの別物なので帰れたとしてもその時にはもう世界が滅んでいたと言う可能性もありますし、逆にそんなに時間が経っていないと言う可能性もあります。」


「じゃあ、私はこの世界で私の生まれ育った世界の崩壊を待てって言うの?」


「…帰る手助けはします。」


それ以外、どうする事も出来ないと言うのが本音だ。世界の時間軸を一定にする事も沢山ある世界線の内一つを選び出す事も今の僕には出来ないのだから


「……わかった。ごめん、お願い。」


彼女はそう呟くが、目はこちらを見ていない。心此処に在らずといった感じだろうか。

まぁ、無理もない。自分の世界が終わるかも知れないと言うのに自分だけ何も出来な言うなんて…無力感に支配されているのだろう。

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