第5話

学校の昼休み。

 昨日の一件により教室に居られなくなってしまった僕は、学校の屋上庭園の側で昼食を取っていた。今日の昼食は我が帝塔学園の学食限定商品であるスライムパンとただの自販機のパック牛乳である。まぁ、とても栄養価は高いとは言えないが、少なくとも午後は余裕で越せるだろう。

 目の前の庭園には一年生が授業で作ったのであろうトマトやピーマンがなっている。まだまだ未熟で食べられる状態じゃ無い。

 ……野菜になりたい。

ボーっとしているだけで水を貰って生きていたい。具体的にいえば家でゴロゴロしているだけでお金が貰えて食べ物飲み物を配給されて映画ゲーム見放題の生活がしたい。ってか、誰か僕を養ってくれ。

そんな風に思いながらパック牛乳をストローで吸っていると、ふと後ろから鉄製の重い扉が開く音が響く。


「あら、こんな所に居たのですね。探しましたわよ。」


なんと無しに後ろを振り返ると扉の側に"白石 舞"が立っていた。彼女の手を見ると僕一人では絶対持てないであろう大きな箱を持っている。何それ?

探した?一体なんの事だろうか。


「一応私と貴方は恋人同士と言う事になっていますのよ?私一人で昼食を食べている姿なんて見られたら、私達の関係が上手くいっていない様に思われるじゃないですか。」


「上手くいかないって。彼氏彼女の距離感だったら普通じゃない?てか君の手に持ってるそれは何?」


「他はどうであろうと、私と貴方の場合はそう言うわけにもいきませんわ。有名になり過ぎたが故に益々と、ですわね。

というか…貴方、それが今日の昼食ですの?」


白石は僕の昼食を見ながらそう言うと、物寂しげな目で僕を見る。ってかもう片方の質問には無視ですか?無視なんですね、わかります。


「…うん。そうだけど。」


「そんな物で午後生きていけますの?一般の女子生徒の昼食より少ないじゃありませんか。」


「うーん、一応ギリギリ朝食は取れたし午後の2時限くらいならイケるかなって。」


「朝食を食べたからと言って昼食を食べない理由にはなりませんよ?

まったく、仕方ありませんわね。私の昼食少し食べますか?」


そう言うと白石は片手にあった大きな箱をドムっ…!!と地震と間違える程の地ならしを起こしながら地面に下ろした。


「………………え、何それ?」


「私の昼食です。」


「ち、超食…?」


「朝食じゃなくて、昼食ですわ。」


意味がわからないと言う風に彼女はそう言うが、こちらこそ意味が分からない。

なんだそれは、寧ろ君の体重より重いんじゃないかソレ。いやまぁ、君が着痩せするタイプなんだとしても、その量の食事が何処に入るの?てかなんで片手でそれ持てるの?


ゴリラなの?(疑問)

ゴリラみたいだ。(雰囲気)

ゴリラだね。(確定)


ごめんなさい。(謝罪)


よく見るとその重そうな箱は漆塗りで塗装された重箱だと言う事が分かる。何十重にも重ねられた重箱だ。


「ま、まさか、それが君の昼食なの?

少し多くない?…いや、全然少しじゃないけど。」


「私こう見えて代謝が激しいのですわ。これくらい食べないとちょっと色々大変でして。」


「どんな代謝してるの君!?」



屋上にて、そんな僕の情けない声が響く。

それを白石は眉一つ動かさずに重箱を広げ出した。


「まぁ、普通の量で無いのは何となく理解できます。でも一つ食べてみてくださいませ。理解は出来なくとも感じることはできますわ。」


そう言いながらだし巻き卵を一つ、箸に刺して僕に差し出す白石。

箸をこちらに向けているって事は御伽噺で聞いた「あーん」をやってくれている事で良いのか?

うん、見るのでは無い感じるのだ……つまり


…アキトォ!いっきまーす!







「………うん、めっちゃ美味い。」







勿論、洗っていようが過去に直接白石の唇に触れて、しかもこれから使うであろう箸から"直接"食べた訳では無い、そんな事をしてみろ。殺されるぞ。主に僕が。

どんなに洗おうが聖遺物は聖遺物のままなのだ。

曰く、キリストが最後の晩餐に使用した聖杯の様に。曰く、キリストの遺体を包んだ聖骸布の様に。

聖なる物は触れる事自体が罪なのだ。



とにかく狂信者が怖いんだよ。



正直、いつ狭くてジメジメした部屋に連れ込まれて痛々しい制裁が下されるのか分からない。

白石が美人なのはわかるけど、いくらなんでもそこまでs……あれ?…変だな…冷や汗が…







あれ、そう言えばこの卵マジで美味くね?


ほんのりと塩味が卵が口に含んだ瞬間弾けて。甘い筈なのに甘すぎない不思議な雰囲気を作り出している。

だし巻き卵故の出汁が…これは…自家製なのか!?食した事がない味だ!少なくとも一番だしの様な馴染みある味ではない。



「どうしましたの?田中くん。顔が青くなったり赤くなったり緑になったり大変な事になってますわよ?


え、泣き出した。怖っ。」


そう困惑する白石を横目にいつの間にか流れていた涙を擦る。以前、感動とはただただ呆然とするものだという言葉を聞いた事があったがこういう事かとなんとなく理解してしまう。

いや、呆然とと言うか、食べた瞬間色んな思考が巡り周り脳が混乱してきたのは感じ得る所ではあるのだが、


「田中くん…本当に大丈夫?」


お嬢様口調を忘れて白石は僕にそう話しかける。ちょっと白石の素が見れた気がした。

なんだよ、何処か冷めた子かと思ってみれば意外と思いやりがあるではないか。


「安心しろとは言えないけど、意識ははっきりしてる。というか、白石の素ってそんな感じなんだな。」


僕がそう言うと白石は少し頬を赤らめる。


「…っ、たった一言で私の素を見破ったつもりだなんて勘違いも甚だしいですわね。」


「それが素だって事は否定しないんだな。」





「だって……意味がないですもの。」




☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



それから時間が経ち。風が吹き外を歩くのが少し辛くなって来た夜の事。


また僕は一人魔法少女状態で変身しながら外を出歩いていた。

別に女装趣味がある訳ではない、むしろ仕事である。半強制的に家から追い出された感はあるけど。

妹にちょっと太った?って言っただけなのに、お外へボッシュートされてしまったのだ。…まぁ、たしかにお兄ちゃんが悪いのは認めるけど、別に化け物が現れる夜に外に追い出さなくても良いじゃん。

まぁ化け物自体、一般の方からしてみたら不明な事が沢山あるのも事実だし。最近は一般人の死者が少なくなったおかげで《魔法少女は年間30人近くは死んでいる(そのかわり30回生き返っているけど)》(むしろダンゴムシの方が人を殺してるまである)ある種の災害の様に扱われて、そのせいか最近はあまり脅威として認識されていない。


一応周辺の化け物への注意網を張るために魔法少女状態を維持してはいるが、化け物の反応を見つけても10分後には消えているのが殆どで日本の魔法少女がどれだけ優秀なのかがよく分かるだけだ。つまり…



「…暇ですし。この間のサキュバスでも弄りに行きましょうかねぇ。」



こんなくだらない事を考える程には、魔法少女としての仕事が無いのである。



サキュバス増えてきてる所為で出張らなくちゃいけないのに。サキュバスの手かがりがあれだけなので無闇矢鱈に殺せないし、だからと言って拷問に掛けようにも奴自身は下っ端も下っ端、何の情報も持っていないだろう。まぁ、その何も知らされていない下っ端が出来ている時点で一組織が出来るほどに頭数が増えてきてしまっていると言う事が分かってしまう、だから以前の様に数世紀に一度しかサキュバスが生まれないと言った様な事は今後あり得ない。これからはきっと魔法少女陣営とサキュバス陣営による混戦状態にすらなり得ると考えられる。


話がずれた、話題を戻そう。


まぁ、つまるところそんな状況を作り出した私への責任は大きいのでその分の尻拭いをしようと思っている訳である。


だが、その仕事がない。


あ、だからと言ってテレビアニメみたいに魔法少女が政府や公安から管理されて仕事として成立できている訳では無い。この世界の魔法少女達は殆どがボランティアなのである。

以前政府が魔法少女を管理する組織を作ってみたりした事があるのだが、政府の人間が魔法少女達を兵器だかなんかと勘違いをし始め、魔法少女を洗脳して感情を消して戦いだけをする兵器に変えようとした事が…って、また話がずれました。



なんだよ、どんだけ話がズレていけば気が済むんだ…



まぁ、その話は後にします。

え?あ、大丈夫ですよ、例の政府の役員は全員死ぬ程辛い苦痛を今でも味わっていますから、まぁ精神は死んでるんでしょうけどあんまりこの話とは関係ないので話題変更しましょう。


では、ですが………あれ、なんの話してたっけ?





えぇ〜っとぉ…実物大の動くガ○ダムを見に行ったって話だっけ?

1/100の買ったけどコクピットが開かなくて残念だったんだよね…ってこれは違うか…


じ、じゃあ、兎田の新衣装が…ってこれも違う?じゃあなんの話だっけ?




あっ!サキュバスをボコしに行こうって話か!!(脳死)



















無事サキュバスのトラウマが一つ増えました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る