第4話

「白石 舞!!貴様との婚約を破棄する!!」


いきなりパツキン(金髪)の野郎(男)が黒板の真前でそんな事を口走ったのは学校のお昼休みの事だった。

騒ぎ中心は主に二人、一人は金髪、名前は確か…覚えてないのけど、なんとか太郎とかいう名前だった気がする。もう片方はクラスの人気者で随分前に男子達でやっていた美少女ランキングで堂々一位を獲った、"白石舞"って言う女の子、ガチのお嬢様らしくお嬢様言葉を巧みに使いこなす姿はもはや英国美女感がある。てか彫りが深いのでワンチャンそうなんじゃ無いかとすら思ってしまう物だ。

というかお前らそんな仲だったの?特に金髪、クラスの皆んなに嫌われてたやん。あんな美人に好かれる意味がわからん。

次第に盛り上がりを見せるクラスの端には僕の席。目の前のそんな光景を目にして僕は思いっきり机に突っ伏した。


正直今の僕にはアレに興味を持てるほど余裕は無い。


先日の一件、僕の中でそれは異様な程にトラウマになっていた。


僕は魔法少女状態の時だけ、先代の周辺の価値観や概念に引っ張られてしまう時がある。

別に意識が改竄されたとかその類では無いのだが、僕はその時だけ本来だったらあり得ない様な行為も普通にしてしまうし、何の疑問も持たない。その癖、記憶はきっちりあるので、あの左目をぐちゃぐちゃと掻き回していた感覚が未だに手に残っており、あの後、変身解除をした瞬間トイレに直行して吐いてしまった。先代や先先代は別にそう言う事は無かったらしいので、多分僕だけなんだろう。

つまり、僕のアルタイルは歴代のガーディアンてんこ盛り状態なのである。まぁ、魔法少女状態の姿形は歴代ず〜っと変わらなかったから先代の知り合いとかに会っても気付かれない自信がある。


窓から風が入ってくる中、なんとなく寒くなって窓を閉めようと顔を上げた時。ふとペラペラ〜っと手元にあったUMAのオカルト本のページが風に揺られて捲れてく。


「やばっ」とその本を抑えると、とあるページに行き着いた。嫌いなページだ。



『未確認生物 魔法少女タイプA (アルタイル)』




僕、何故かのUMA扱いである。


書いてあることも恥ずかしい事ばかりで、中には独立戦争に参加していた先代の話も入っていたり、小三の時、間違えて監視カメラがある場所で変身しちゃった時の写真とかが入っていた。どうやらギリッギリ僕の姿は見れなかったらしいけど、アルタイルの姿はガッツリ写っている。


この記事の中ではずっと前から秘密裏に僕が戦っているという話に落ち着いてはいるが核心を突きすぎて、『いつの間にか僕、結構ギリギリの戦いをしてたんやな』って事に気がついた。


さて、このオカルト本、なぜ僕の机の上に置いてあるのかだが。実は僕の趣味じゃ無い。というのも僕は大抵の地球の生物を歴代のガーディアンを通して知っているのでいる奴いない奴が大体わかる。だから僕にとってはこう言った類はUFOはともかくオカルトでも何でも無いのだ。いる奴は居るしいない奴は居ないんだから。

じゃあなんで借りてきたの?ってなるだろう。まぁ、理由は簡単だ。

妹の趣味である。

アイツ昔からオカルト物が大好きでいつもは僕のこと、嫌い嫌い言ってくる癖にオカルトになると好き好き言ってくるのだ。つまるとこ「おにぃ〜、大好きだからこの本買って〜」だ。現金な奴である。まぁ可愛いから買っちゃうんだけど…は?シスコン?知ってるわ!



さて、実はこの本は経年劣化による影響でかなり傷んでいる。取れかけてるページなんて幾つもあるし汚れなんてバカにならないくらいだ。具体的に言うと軽い風ですら本の破損の原因となり得る。妹に読ませてやる前に本がバラバラになんて目にも当てられない。それに相反してこの風である。


現在進行形でやばいとゆっくりと窓を閉めて、


ため息を吐き、何となく前を向くと。



「この人が私の恋人ですわ。」



そう言いながら僕を指さす、例の"白石舞"がそこにいた。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆







6年前、両親が死んだ。






唐突だった。真っ青な空が真っ赤に染まり上がり、地面に血管の様な模様が並んでいく。

次第にガラスや鏡から化け物が現れて周りの人間を一人一人喰い始める。その食われていく人々はまるで待っていたかの様に縦一列に並び出し、その中に父と母がいた。

父が目の前の化け物に対して呆然と眺めている。『パパ!!!ママァ!!!』手を引っ張っても、足を引っ張っても動かない。

まるで鉄の様だ。もうすぐ奴が来る。



逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ、



やっとの思いで父の腕が引ける。やったと思った。これでまた戻れると思った。

瞬間、ダランっと重い物が私の上にのし掛かり、思わず倒れてしまう。


父の体だ。


私の上で力なく横たわった父の姿。よく見ると首がない。

母が先程まで居た場所を見る。そこには何も無い。

違う。無いわけじゃない地面に二つ、母さんが大切にしていた靴と…そこに血溜まりがある。


『グゥゥゥゥ…ムシャッ…ムシャッ…』


私の前を歩く化け物の姿。何かを咀嚼している。

嗚呼、それはきっと父の頭だった物だ。それはきっと母の身体だった物だ。それは私の大切な物だった物だ。



『…許さない…』



出来るだけ苦しませて殺してやる。両手両足を切り落として奴の生きる全ての希望を潰してから絶望する奴の顔を見て殺してやる。


殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す。




瞬間、光が辺りを照らした。何かわからない不思議な温かい光。

でもそれに気付いたのか化け物は車のガラスに飛んでいき、消える。


逃げたのだ。奴が逃げた。


『待て…待って…待て!!!!!

逃がさない!

殺してやる!何があろうと!どんな事があろうとも!!どれくらい時間がかかろうとも!!絶対に殺す!!』


ガラスの向こうに溶け込んでいく奴に向けてそう叫ぶ。

きっと奴は気付いていないのだろう。きっと奴は私が生き残っていた事すら気付いていないのだろう。

良いだろう。いつかその目に刻ませてやる。


燃え上がる感情を乗せて空を見るとそこには光があった。

宙に浮かぶ少女、周辺の生き残った人々の讃える声が聞こえてくる。

ビルとビルの隙間から入る太陽を背景に金色の髪が靡く。

皆は天使だの、神の使いだの、言っていたが。



私にはそれが悪魔に見えた。









「どう言うつもり?」


そう問うのは昼休みに私が恋人だと言った少年だった。短髪の黒髪に小さな赤いリボンを着けていて、背は一般の男子生徒より低い。男子というよりは女性らしさの方が強く出ている不思議な少年だ。

時間は五時間目が終わって直ぐの休み時間、場所は屋上、立ち位置が違えば告白と疑われても不思議ではないだろう。


「申し訳ありません。動揺してしまって…つい。」


そう私が呟くと目の前の少年は胡散臭そうに目を細める。

嘘ではない。結論どころか序論すらも理解できない理論に困惑したのも事実だ。

そもそも両親が死んでいる私が許嫁も婚約者も出来るはずが無いと論破するのも今となっては可能だった。しかし、それを言わなかったのは咄嗟な出来事で冷静な判断が出来なかったのと、あまりにも達観した目でこちらを見ている少年に興味を持ってしまった所為だ。


あの時の少年の目はまるで数十年、もしくは数百年は生きた者の目だったのだ。


こんな目が出来る人間は珍しい、知り合いのアトランティス人とか天使とかがいい例で、あの人たちは800年や1000年は軽く生きてきたらしく、そういう目をした連中が多い。

つまり、少年はそういう類の者に見えたのだ。


「……はぁ、で、僕にどうして欲しいの?」


「しばらく、私の恋人役をしていただきたいのです。そう難しいことはさせませんわ。」


「それ自体が難しい事だって、分かってる…?」


「分かってこそですわ。でも別に無理強いするつもりはありません。これ以上迷惑をかけるのも悪いので、別に今別れたっていっても…」


「そうも言ってられなくなったんだって。君は人気者だ。それはもう学校全域レベルでのね。そんな人気者の彼氏だと言う僕は、正直一部を除きとっくに敵視されてる。ここで別れましただなんて言ったみろ、僕は君を捨てた最低な男ってことになるんだよ…そんなことになったらこんな事から降りるというプラスよりもそれ以外のマイナスの方が大きすぎるんだよ。」


たしかにそれもそうだ。自分の考えが甘かったことに恥じため息を吐く。

もう、目の前の少年を巻き込んでしまった後なのだ。今からどうこうするには遅過ぎた。


「本当に申し訳ありません…」


「いや、もういいよ。あの金髪野郎が一番悪いのはわかってるから。」


彼はそう言うと顎に手を当て思考し始めた。


「そもそもなんで彼は君が許嫁だって勘違いしたんだろう。」


「…勘違いって知っていたのですか?」


「いや、君の態度でなんとなく…ね。」


そう彼はいうと手すりに寄りかかり、屋上から教室を眺める。彼の目線の先にはあの金髪の男がいた。


「そういえば貴方の名前を聞いていませんでしたね。ご存知でしょうが私は白石舞、貴方は?」



「…田中彰人。まぁしばらくの間よろしく」



瞬間、そんな彼の言葉を予鈴のチャイムがかき消した。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



白石舞との邂逅から数分後、授業は地獄だった。前の方からチラチラとこちらを見る視線が目につくし、よく耳を研ぎ澄ませば悪口もまぁまぁ聞こえてくる。といってもああいう輩は実際に手を出すとかそう言う事は無いだろうから安心しても良い。だが、あの金髪バカは違う。ジィーッとこちらを睨みつけているのだ。また面倒事を起こしそうだなと思いつつケータイの録音つけておいた。モバイルバッテリー持ってて良かった…






「田中、ここ読んでくれ。」


そう言いながら教科書の一文を指す先生を見て、立ち上がる。

簡単な小説を読む授業、何も考えない分少し気が楽な気がする。そう思いながら文を口に出して読み始める。内容は淡白で読みやすいが戦後の話をしているせいか少し重い。

読み終わり僕が座ると先生がこちらから視線を外す。


「はい、ありがとう。では次の段…じゃあ東山。」


先生が僕とは真反対の席の生徒を指さす為先生の意識が向こうに行った瞬間、頭に何か飛んできて、手元にあった教科書に落ちた。


丸まった紙の様だ。見ると白石さんがずっとこっちを見ている。投げたのは白石さんで、中を読めって事だろうか、結構距離あるのにコントロール良いなと思いながら丸まった紙を引き伸ばす。


『例の金髪のズボンに小さいですが、ゲラニウムの花弁が付いています。そう言えば今日のあなたの掃除当番、校舎裏の花壇付近でしたよね?何かした可能性がありますわ。十分注意して下さい。』


中は白石さんの注意喚起の言葉だった。曰く、現在進行形で僕を睨みつけているアイツが何かを企んでいるとの事。察しは付いていたが、婚約破棄をしたかったのならば何故僕に突っかかってくるのか分からない。

現在、六時間目、この時間が過ぎれば掃除の時間が始まり、僕は体育館への道を通った後に、校舎裏の階段の掃除に行くだろう。


じゃあ、掃除に行くとして奴が仕掛けた罠…花弁がズボンにつく様な事をしたとなると…


はぁ…(察し)

小学生かよ、







☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


授業が終わり、掃除の場所に着くと、やはりというか何というか、花壇が荒らされていた。花は踏みつけられ、花弁がそこら中に舞っている。


まぁ、察しはついていたし。そうだろうなぁとは何と無しに思っていたが、実際にやるアホがいるかと心の何処かで思っていたのも事実、だがマジでやるアホだったとは…良心がカケラもない証拠である。


奴と関わる全てが可哀想だと思いながら、アルタイルに変身ref他の魔法少女は変身しなくてもある程度は魔法が使えるらしいが、僕は魔法少女状態で無ければ魔法を使えない。つまるところ、他は魔法少女状態を魔法のブースターとして使うのが一般的だが、アルタイルは名の通り魔法を使える少女になる、"変身"なのである。《/ref》して花壇を治す。別に踏んだからと言って花が死ぬ訳じゃないから、こんな風に回復魔法を掛けてやれば一瞬で治せるのだ。


治っていく花達を見ながらため息を吐き、変身を解く。


正直、花を直さずに奴に対しての証拠として使うことも出来た。が、その間、花が死にかけのままにする訳にも行かない。

そんな事に命を使う訳には行かないからこうするしかないのだ。ガーディアンとしても人間としても、あの金髪とは違うのだから…


そんな風に思いながらも掃除場所に移動し、掃除を開始する。箒を持ち、校舎裏の階段を掃いていると、ふと、声が聞こえてきた。




「先生〜!!田中くんが花壇を荒らしてます!!」




あの金髪バカの声だ。

下を見るとニヤニヤと笑いながらこちらを見てくる奴の姿に向こう側から先生がやってくる。

僕の事を言っている様だが、関係ない。だって荒らされていないのだから。


はぁ、と無視を決め込めて掃除をすると、先生の声が聞こえてくる。


「田中降りてきてくれ〜、ちょっと理解が追いつかないから一応当人である君に聞きたいことがあるんだが」


ああ、先生も大変なんだなぁ、と思いながら箒を持ち、階段を降りていく。





階段を降りると困りながら頭を掻く先生となんか知らないけどキレている金髪の姿があった。金髪は僕を見るなり胸ぐらを掴んで「テメェ!どう言う事だ!」と怒鳴ってくるが、意味が分からんと言う風に返すと益々苛立っている様子だ。


「おい、飯谷。良い加減にしろ。」


と先生は金髪の腕を掴んで僕から離させるが先生もよくわかっていないのか少し困惑しているのが見て取れる。


「田中…なんでコイツが苛立ってるのか分かるか?」


「いえ、僕には全く。…あ、白石さんと僕が付き合っているって話をしたから…とかですか?」


「あぁ〜、そう言う奴か…白石、学校内で人気モンだからなぁ、」


そう言いながら生暖かい目で金髪を見ると首根っこ持って先生は歩き出した。


「すまんな、田中。ちょっとコイツ、失恋のショックが大きすぎて錯乱してる様だ。お前はもう掃除終了にして良いから教室に戻っていてくれ。」


そう言うと先生は生徒指導室の方向に歩いていく。まぁ仕方ないかと箒を片付けようとロッカーの方に歩いていくと、しばらくして金髪の「覚えてろよ!!」という声が響いた。



ハッ(嘲笑)


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