第3話
困惑していた。
6年間もの間、音沙汰無しだった伝説とも言うべき魔法少女がビルの上、月を背景に立っていたのだ。それは確かに神々しく妖艶だ。
「アルタイル…」
呟いた名前は今や伝説となった、あの名前。しかし、それは言い終わる瞬間、暴風に掻き消された。
ドガァァァァン…ズザザザザァァァッッ!!
背後、遠くの方でナニかが地面を擦り、ぶつかった音が聞こえる。
瞬間、身体を縛っていたものがいきなり無くなり地面に叩きつけられた。
「な、何が」
ペタンと地面に座りながら、先程まであの女と化け物が立っていた方向を見る。
そこにはつい数秒前まで冷や汗をかきながら空を見ていた女や触手を私の手足に伸ばしていた化け物の姿は無く、代わりに金色の髪を靡かせた少女が立っていた。足元にはあの化け物の死骸がある。
馬鹿な、彼女は今さっきまで高度2,30メートル上に居た筈だ。そんな所からノータイムでここまで移動して化け物とあの女を吹っ飛ばすとは考えにくい。しかし、先程までアルタイルが居た場所を見て見ると、そのビルはまるでロケットが発射されたかの様に抉れている。するとふと、気づいた様に彼女のそのルビーの瞳は私を映すと、
「あなた、魔法少女ですね?」
そう問いかけてきた。いきなり現れた憧れの人に私は思わず声が震えて出てこないのを無理矢理正す。
「え、…あ、はい。魔法少女C-2コスモスって言います…」
「コスモス…覚えておきます。傷は治しておきましたから、退いていなさい。アレはあなた方からしてみれば専門外の敵ですから」
専門外?その言葉の意味を聞こうとした瞬間、彼女は私の前で物凄いスピードで立ちかけていたあの女に向けて飛んでいく。
ふと、先程彼女が言った傷を治したと言う言葉が気になって胸の下をさすってみるが、そこには傷がない、あの一瞬で…治療魔法も使えるのかと内心恐ろしく思いながらも遥か遠くで奴の頭に星形のステッキを振り下ろし地面に叩きつけて瓦礫を巻き上げさせている少女を見る。
最強の魔法少女か…
いや、そもそもアレを魔法少女という括りに分類できるのか…?
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
Altair side
ロリコン死すべし慈悲は無い。
あの長身女に向けてステッキを振り回して、こんな街中では不味いと、隣町の山に投げ込む。
2、3キロくらい有るけど、まぁ、このフォームなら行くだろう。
僕は奴の頭を執拗に殴り付けつつ空を飛びながら山へ飛ばす。次第にスピードも上がり、勢いよく山の岩場付近に打つかり、土煙が舞い上がった。
「ぐゔぁぁぁ!!!」
あの女の叫び声が聞こえてくる。
土煙で何も見えないが、一応生きている事が確認できた。ここまでダメージを与えて生きてるって事はそれなりに"喰っている"のだろう。もう、後戻り出来ないほどに…
僕は岩場の頂上に着地すると、土煙の向こうの奴の場所を探す為に彼女に声を掛けてみる。
「貴方、何人食べてきたんですか?
100人単位は喰らわないとそうはなりませんよ。」
そう呟くと少し魔力が動いたのを感じた。土煙の向こうだから顔は分からないが、動揺しているのだろう。
「……どうやって今までバレずに出来ていたのか疑問ですが、まぁ良いでしょう。
最後の忠告です。今すぐ私の前に現れて拘束されさえすれば少なくとも命はとりません。」
どんなに強くても、どんなに硬くても一瞬で命を取れると言う慢心では無い事実を淡々と語る。
「どうしますか?なんだったら戦ってみますか?容赦はしませんけど」
「ハッ、容赦はしないだと…この小娘がっ…!?」
奴が喋り出した瞬間に私は高速移動で捕まえ奴の首を片手で持ち上げていた。
残念だけど、私は貴方の正確な位置を探していただけだ。
「あ…がっ…」
「ごめんなさい。軽い"冗談"ですよ。貴方を拘束した所で此方には何のメリットもありませんし、貴方…人を殺しましたよね?」
そう言うと女は驚きを隠せない様子で問う
「ぎざま…何モノ…ダ?」
「さぁ?何者でしょう…?でも貴方は分かりやすいですよね、その匂い、その眼…大罪を犯している…
ですよね?男を知った魔法少女…サキュバス」
サキュバス、彼女らは言わば魔法少女の成れの果てだ。男を知り、男を喰って、その多大な魔力を食して自分のものにした大罪者。
前回言った化け物の様に快楽や魔力補給の為に守る筈だった人間を襲ってしまった魔法少女というのがこれだ、
といっても今まで僕ら以外の魔法少女自体出る事が稀だったから前回現れたのがたしか先代がアメリカの独立戦争に参加してた頃くらいだったから…約250年ぶりくらいか、それ以前となると前々前代の紀元前とかそこら辺になってしまう。きっと魔法少女がたくさん出て来たせいでサキュバスが増えているのだろう。
1万年くらい無休で戦い続けて来た私達がやっと休めている裏でこんな後始末が面倒な事が増えてるなんて。
「どうせ、食べ過ぎてMCOが使い物にならなくなったんでしょう?だからあの娘を襲って自分に移植しようとした…違いますか?」
そう問いかけながら、奴の首から手を離す。
支えるものがなくなった女の身体は床に落ちていった。
「ゴホッ…ゴホッ…!!」
「まぁ、いいでしょう。安心してください、貴方を殺す様な面倒な事はしませんよ。だけど一つだけ質問に答えてもらいます。」
嘘では無い。ただ奴が死んだ時に魔力が暴走して特撮みたいに大爆発を起こすのが後処理的にとてつも無く面倒臭いだけなのだ。
「サキュバスは貴方以外にこの街に存在しますか?イエスかノーかで答えてください。もし答えない様だったら、両目を抉ります。」
そう言いながら先程拾ったナイフを彼女に向ける。ナイフに先には血がついていて、さっき女があの魔法少女に使っていたナイフそのものだった。
「い、言えるはずないでしょ…殺される」
「じゃあ追加で目玉を抉った後にちょっと面倒ですが、四肢も切除させていただきます。このろくに手入れされていないナイフで切ったら酷いことになるでしょうね。」
彼女はナイフを見ると息を呑んで、私とナイフを交互に見る。
「ああ、分かったよ。言う…言うよ…確かに居るさ、日本のこの街に…目当ては魔法少女で、この街には何故か魔法少女が誕生しやすいから、その恩恵をもらいに来たんだよ。」
ゆっくりとそう答える女に安心させる為に少し笑いかけてあげる。
ああ、やはりか。面倒な事になって来た。6年もの休暇がこんな所で弊害になるなんて…
「そうですか、わかりました、良いでしょう。それが嘘だったらもう片方の目も抉りますからね。」
「…え?」
瞬間、グチャっと女の左目にナイフを刺しこんだ。
別に目を抉らないなんて一言も言っていないのだけれども、なんでそんな意外って顔をするんだろう?
「ギィャァァァァァァァァァァ!!!」
そう叫ぶ女を横目にちょっとめをグチャグチャっとかき回してからナイフを抜くとカランっと捨てる。
「いやぁぁぁ!!いやぁぁぁぁぁっ!!!!」
全くうるさいやつだ。
「サキュバスなんですから、自分で治せるでしょうに大袈裟な…」
「何よ…!何よアンタ!!私にこんな事をして…許さない…許さない!アンタの家族もアンタの大切なものも全部壊してやる!」
半狂乱しながらサキュバスはそう叫ぶと、しばらくして影に隠れるように彼女の気配は消えた。
「あ、逃げちゃった。」
テレポートだろうか。一応魔力痕から辿って奴の居場所を探る事は出来るが、追う必要は無い。あの怪我を治すのに時間がかかる筈だし、今の彼女に魔力は喰えないからだ。このまま喰い続けたら余裕でMCOが使い物にならなくなる。彼女だって魔法が使えなくなるのは不本意だし、何より二度と人が食べられなくなるなんて堪え兼ねるだろう。それに彼女には他のサキュバスの居場所を教えてもらうという大義名分がある。もう彼女の魔力の色は覚えた。現在進行形で追跡している状態だ。
正直、奴は他の魔法少女でも数人いれば普通に戦えるし、普通に勝てるだろう。具体的に言うならば4人か5人いれば負ける事はないだろうな、どれくらい時間がかかるかはわからないし、その内何人が死ぬかはわからないけど、勝てるっちゃ勝てる。
とりあえず、しばらく奴が行動している間は魔法少女達に数人で行動してもらった方が良いだろう。
だけど問題が発生したな、僕は彼女達の前に出て行ったり出来ない。というか彼女達がどんな風な構成で動いているのか知らないし、組織的に行動していたのならば僕はもれなくお邪魔虫だ。
どうした物かと考えながら顎を撫でると、
「ーーーーーーーん」
「すーーーーーん」
「すみません、」
「は…え?」
しばらくして、背中から声がした。この数分の間ずっと此処で佇んでいたらしい。
惚けた顔のまま声の主を見ると先程見た顔だった。整った顔に黒い髪を後ろに一つに纏めて縛っている、背中には一振りの大剣が背負われていて。魔法少女というよりソルジャー感が強い。
「あ、コスモスさん。追って来たんですね。あそこから結構あったと思うんですが…」
「い、一応これでも魔法少女ですので。」
「それもそうですね。」
空を飛んできたんだなと思いながら僕がそう呟くと彼女は周りを見渡している。きっとさっきのサキュバスの死体を探しているのだろう。
「殺していませんよ、逃げられてしまいました。」
「え、そうなんですか?あなたの服が…その…血まみれだったのでてっきり…」
僕は言われた事にはて?と思いながら服を見る。
そこには先程のやり取りで血塗れになった青いスカートがあった。
「嗚呼、片目を潰したのでその時に…」
「片目を…」
「サキュバスは普通の魔法少女よりも自己治癒能力が高いので大したダメージにはなっていませんよ。」
「サキュバス…ってあの女の事ですか?」
「え、あ、はい。そう言えば知らないんでしたよね。まぁ知らないに越した事無いんですけど、じゃあ一応忠告しておきますか」
そう呟くと彼女は不思議そうに私の目を見る。良い姿勢だ。
「あれは私達、魔法少女の成れの果てです。力を追い求め、その弊害で他人に害を及ぼした大罪人です。どうやってああなるのかとかは流石に言えませんが。だから絶対に非公式なやり方で力を得ようとしないでください。あんな風になってしまったら、私は貴方を殺さざるを得なくなってしまいます。分かりましたね?」
そう言うと私の言葉に引っかかったのか、質問をして来た。
「…じゃあ、あれは人間なんですか?」
「人間ではありません、元人間です。もうアレには人間としての理性はありませんよ。あるのはどうやって強くなるか…それだけです。」
そう言いながら彼女を見ると、どうも複雑そうな顔をしている。やはり、守るべき人間を殺さざるを得ないと言うのが引っかかるらしい。
「まぁアレは貴方一人では勝てませんよ?力も魔力も身体の構成からして違いすぎる。だから魔法少女全員に伝えておいてくれませんか?しばらくの間、4人以上で行動する様に…と。」
「え、全員にですか…」
「ええ、私が出ていくわけにも行きませんから。」
☆ーー☆ーー☆ーー☆
「アルタイルが現れた?そんな馬鹿な、彼女は死んだ筈じゃありませんこと?」
少女はそう目の前の自身のメイドに対して問い返す。
「コスモス様からのご連絡です。彼女の性格からして、嘘をつくとは思えませんが」
「だとしても、彼女は6年前アキバ事件で死んだ筈ですわ。私達があんな魔法を使い続けていたら死ぬに決まっていますし。彼女の死体と思わしき死体も見つかったじゃありませんか…」
「あの御遺体は結局身元不明という事で共同墓地に埋葬されたじゃ無いですか、誰の遺体かもわからない物をアルタイル様の物と勝手に推測するのは間違いを起こすきっかけになり得る可能性が高いですよ。」
「そうでしょうが…でも判断材料が無さすぎますわ…」
「…まぁ、そうですね。とりあえず、これだけ言わせて頂きますお嬢様。」
「まだ、何か?」
「彼女によるとサキュバスという魔物が魔法少女の魔力の源となる、MCOとやらを盗み取ろうとしている為、魔法少女は毎回4から5人ほどのチームを作りしばらくの間だけそのチームでこうどうして欲しいだそうです。」
「…サキュバス……MCO…本当に情報量が多いですわね。ですが、私には関係ない事ですわ、何故なら私は」「魔力を持たない魔法少女…ですよね?」
途中でメイドに切られる。
「…まだ気にしていらっしゃるのですか?最初の頃はたしかに世間から反感も買いましたが今では実績的にも実力的にもトップクラスと言っても良いじゃないですか。」
「…まぁ、そうですね…2人目の魔法少女が魔力も能力も何も無しのただの小学生だとなると確かに問題がありますからね…」
「知らぬ間に魔法少女になっていたご主人様を見た私の気持ちがわかりますか…?なんとも筆舌し難いあの背中から冷や汗が流れていく様ないやぁ〜な感じ。もう二度と味わいたくありませんね。」
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