怖以話拾遺集

アンドレイ田中

金縛り

 それは小生が中学1年生のときのことです。

 その日は夜なのに30度を超える熱帯夜でした。

 暑くて、中々寝付けず11時頃からベットの上で何度も寝返りを打っていました。

 そうしているうちに、小生は寝ていました。

 丁度丑三つ時の頃でしょう。

 小生は尿意を感じて起きてしまいした。このままではとても眠ることは出来ないので、用を足しにトイレへと行こうとしたのですが、身体は動きませんでした。

 小生は金縛りにあったのです。

 瞼と目の玉はうごくようで、大きく目を見開いて、グルリと上下左右に回転させました。

 しかし、何も見ることは出来ませんでした。

 5分たっただろうか、10分たっただろうか、静かな部屋に時計の針の音だけがカチッカチッと鳴り響いていました。

 迫り来る尿意と戦いながらも、小生はどうにか身体を動かそうと指1本、関節の1つに全力を注いで動かそうとしましたが、全く動く気配はありませんでした。

 ついにその時が来たのです。

 小生はその時のことを思い出すだけでも、内蔵の一つ一つが震えるほどの恐怖を感じます。

 小生の耳元に冷たい冷気のような風が吹き付けてくるのです。

 勿論、この部屋には小生以外誰もおらず、部屋を冷やしてくれるエアコンどころか扇風機をありません。

 小生は叫ぼうにも口は開かず、先程まで見開いていた目を閉じることしか出来ません。

「起きてるんでしょ」

 得体の知れないものが小生の左耳に囁いてくるのです。その声は吹き付けられた息のように冷たく、この世のものとは思えないほどのおぞましいものでした。

 できることならこの耳を全て耳垢でいっぱいにして、音を聞こえなくなるようしたかったものです。

 けれども、そんなことは夢のまた夢、小生は必死に寝ようと、目をつぶりました。身体にどんどん力がこもり、耳から聞こえて来る音はどんどん甲高く、恐ろしく、文字通りの地獄でした。

 実際には3分か5分かそれくらいだっかもしれません。しかし、小生には永久の時のように感ぜられました。

 気づいた時には左耳からは何も聞こえなくなっており、身体も自由に動くようになっていました。

 小生はダムが崩壊寸前だったこともあり、身体をがばっと起こして、トイレへに行こうとしました。

 身体を起こせば、丁度窓の外が見えるのですが、そこにはやつがいたのです。

 肌は富士の雪のように白く、目は光をも吸い込んでしまいそうなほど黒く、身体中血塗れになった女の霊が間違えなくそこにいたのです。

 恐怖のあまり、小生は尿を漏らし、アンモニア臭のするベットのシーツと共に朝を迎えました。

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