第16話 どっちだ?

 すっかり暗くなった夜の公園。


 道路向かいのファミレスの明かりが眩し過ぎるくらい公園の街灯の灯りが小さく映える。

 公園の中に入ると、ベンチの横にぼんやりとした人の影が見えた。

 

 ぼんやりと見えた人影に向かって、自分が将棋の歩兵であるかのように、ただ真っ直ぐと歩を進める。一歩ずつ、ただ真っ直ぐに……。


 うっすらと街灯の灯りが指すベンチの横、そのぼんやりの正体がだんだんと見えてきた。



 白山茉莉だ。



 私立四木高校1年、美術部の白山茉莉が制服姿で待っていた。


「悪いな、こんな時間に。待ったか?」


 俺が近づきながら話しかけると、白山はすかさずに答える。


「いえ。さっき着いたばかりです」


 表情は平然を装っているように見える。体調はもう大丈夫みたいだ。


「それで話って、私の絵のこと……ですよね?」


「ああ。その前に聞かせてくれ白山……お前はいったいだ?」



 白山は一瞬驚いた様子だったが、何事もなく冷静さを取り戻し質問を返す。


「どっちって……いったいなんのことですか? それに青さんまで」


「俺は真剣にお前と向き合いたいんだ。だから答えてくれ」


 まるで別人のような強い言葉と声のトーンに青が隣でビクっとする。それと同じくして白山もいつもの雰囲気と違う俺をみて顔つきが変わった。



 そしてゆっくりと口を開く。


「いつから……いったい、いつから知っていたんですか? 私が2って事に」


 そう言った白山の表情は至って冷静である。


「気づいたのはついさっき、美術室で顧問の倉橋先生にヒントをもらったからだ。ただ、あくまでも可能性であって仮説の話でしかなかったのだが。今、白山と話をして確信に変わった」



 白山は黙り込んだ。


「前々からお前はどこか人と違う雰囲気を出していると感じていた。だがそれは白山のことを俺が全然理解していなかったからだと思っていたんだ。お前は時折、人生に絶望したかのように暗い表情になるがその反面、初めて会った時のようにとても明るく健気な一面もある。

 自分で言うのは忍びないんだが、俺は今までいろんな人を観察してきた。明るくて陽気な人、暗くて内気な人、好奇心旺盛な人、嫌悪感を抱いている人、常に無表情の人。

そして人それぞれ性格によって表情にはクセがあるんだ。そこで白山を何度か見るたびに覚えたのは、癖ではなく違和感だった。

 最初は双子なのかと思ったよ。もしくは多重人格だとも思った。

 そして今日、白山が学校を休んでいると青から聞いた後、思わぬことに職員室の前で白山とバッタリすれ違った。そして俺の中で二重人格の線が完全に消えた……。

 最後まで消えなかったのは、入れ替わりの双子って線だったが白山は一人っ子だと倉橋先生が調べて教えてくれた」


 白山が青の方向に目を向け片足を後退させる。


「だがそうなると最初の双子説も多重人格説も選択肢から消えてしまった……。そこにヒントを出してくれたのが顧問の倉橋先生だった。

 倉橋先生は俺の固定概念を根底から覆した。可能性にゼロは無いと、そして一つの可能性を教えてくれた。白山の症状の事を……それはという一種の病気なのだと」


 白山が驚いた表情で目を丸くしている。


「……病気? かいきげんしょう?」


「ああ。あの人曰く、それはエネルギーが有り余っている若い頃の強い想いが、限界を超え溢れ出したとき、稀に能力ちからになる事があるのだと。俺には喜奈って名前の妹がいるんだ、その妹も発病者だった」


「…………」


「怪奇現症が発病した結果、生まれたのがもう一人の白山茉莉。そうだろ?」


「……そうだったんですか」


 虚な瞳で暗くなった空を眺める白山……。

 そして白山は空を眺めながら不意に口を開いた。



「もう出て来ていいよ、茉莉」

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