第15話 過去


 風が素肌を締め付けるような感覚。まだ春先だからか少し肌寒い。


 随分と辺りも暗くなってきた。

 静寂な街並みからチラホラと見える灯りはチェーン店や街灯ばかりだ。


 東京の夜はもっと明るいのだろうか……。


 そう思いながら白山を呼び出した公園へと歩いて向かっていた。


 白山が中学の時にいじめられていたことには正直に驚いた。強い性格、ブレない芯があることは一つの長所でもある。


 だがそれはその場の状況やその環境によって短所に変わることもある。

 

 俺はそういう人間を今まで何人も見てきた。そしてなにより俺は過去、いじめのでもある。


 だからなのだろうか……。

 より一層に被害者の気持ちが……白山の気持ちが手に取るように理解できる。


 俺が倉橋先生から『優れた直感と鋭い観察力』と言われたのはおそらくあの人も俺のことを観察していたからだろう。


 なぜ俺は『鋭い観察力があるのか?』もしくは『人をよく見るようになったのか?』という問いに対しての最適な解は『環境に適応するため』である。


 先日の白山の事件について共感できる点がいくつかあった。


 俺の推測では彼女、白山茉莉はおそらく環境に適応できなかったのだ……。


 自然の摂理。環境に適応できない人間は集団の輪からはじき出される。俺は中学の時に身を持ってそれを学んだ。


 人という存在は、特に日本人という人種は同調圧力に弱い。例えるなら学校がいい例だ。


 学校は学ぶ場所だが学校側も学ぶなら効率よく学んでもらいたい。だから学校には校則というルールが存在する。


 集団行動の練習、頭髪の乱れや服装の乱れは他の生徒にも悪影響を及ぼし集中力を削ぐ。そのため生徒全員同じ行動、同じ服装、身だしなみが基本だが、あくまでもそれは学校側の同調圧力である。


 そして【いじめ】というのは生徒側の同調圧力であるとおれは考えている。

 個性的で自分の意見をもつ生徒が多数いればいじめはそう起きはしない。だが、今の現状に不満を持つ生徒や静かに学校生活を送りたい生徒など、そう考える生徒が大半を占めると、自分の意見を曲げなかったり芯の強い生徒は同調圧力を向けられることになる。


『俺たち・私たちは真面目にやっているんだ。なんでお前だけそんなに不真面目なの』と羨んでくる。

 言葉ではわからないが視線で伝えてくる。

 というよりは視線で伝えられる。無論、拒む事なんてできない。


 それでも自分を貫き屈しなかったとき、同調圧力はやがて意識から行動に変わる。

 それこそが俺が考えるいじめのきっかけ、いじめのキックである。


 そして人より優位に立てるという優越感がいじめの着火剤となり、本人では気づかないうちにエスカレートしていき、歯止めが聞かなくなり燃え盛る……。


 そしていじめの優越感が快感で周りが見えなくなる。自分を俯瞰して見れなくなる。

 まるで中毒者のように……。


 だからこそ俺は誰よりも人を見るようにしている。誰からも目の敵にされないように、その環境に適応するために。


 その人が何を考えどう思っているのか、わかるはずが無い。でもわかろうとする努力はしている、常に理解しようとしている。その結果の観察力だ。


 決して生まれつき身についている特殊能力でも異世界転生で得たチートスキルでも無い。


 観察力は、俺自身が学校でいじめられないように、環境に適応するために、そのために磨いた基礎能力に過ぎないんだ……。


 そして俺みたいな人間を増やさないために俺はこの力を活用する。

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