第14話 いざ、決戦の地へ
倉橋先生から聞いた情報を事細かに青に説明した。
「怪奇現症か……。確かにそうだとすれば春が見たっていう、もう一人の茉莉ちゃんの説明がつく。でもそれはあくまでも仮説に過ぎないよ……。喜奈ちゃんがその病気の発病者だったとしても、いまだに信じられないよ……」
青が目に入った丸椅子にちょこんと軽く腰をかけて脚を組んだ。
「確かにそうだが、その仮説が間違っていたとしても行動しないことには何も変わらないと思うんだ。だから俺は信じてみる。例えそれが間違っていたとしてもまた別の方法を探すよ」
少し驚いた表情の青。
「……春変わったね。もしかして茉莉ちゃんのため?」
「そうかも知れない。だけど俺は俺が白山を救いたいから行動するんだと思う。そういう意味では結局、自分のためなのかもしれない」
青が相槌を打った。
「だが解決法がわからないんだ。倉橋先生にはそれくらい自分たちで考えろと言われたからな……。まずは白山の悩みについてもっと調べる必要がある」
俺もすぐ近くにあった椅子に座り青の方向を向いて考え込む。
「あ、そういえば白山の調査、どうだった?」
青は俺と目を合わせ指をパチンと鳴らした。
「そうだった。……怪奇現症に驚き過ぎてすっかり忘れていたよ」
青が苦笑いした後にすかさず話を続けた。
「茉莉ちゃんの家に行った時の話の内容は覚えている?」
「もちろん」
それを聞いた青が安心したような表情を浮かべると、俺とは机を挟んだ向かいの椅子に移動し腕を組んだ。
「あの日、茉莉ちゃんと一緒に歩いている時に少しでも状況がわかればと思っていくつか質問したんだけど……何も答えてくれなくてね。結構ショックだったよ」
両手を上げ首を横に振った青が続ける。
「茉莉ちゃん、実はこの学校に入学する前は東京の中学に通ってたらしいんだ」
「……そうなのか」
「たまたま僕の昔の知り合いが同じ学校だったから、その知り合いに茉莉ちゃんのことを電話で聞いたんだよ」
「その知り合いは、なんて?」
「わからないって……でも昔の茉莉ちゃんのクラスメイトを紹介してくれて、ついさっき、その子と電話で話していたんだ」
人脈のネットワーク。
どこまでも誰とでも繋がっていく宇都宮青が正直に怖いと思った。
「……その子は白山の事をなんて言っていたんだ?」
「今でも信じ難いんだけど……中学2年生の時にいじめられていたって……」
「……ッ!」
青の話に驚いた勢いで机の角に膝をぶつけてしまった。
それからしばらく黙り込んで考えた。
「……春、どう思う?」
「白山が『いじめられていた』……と言うのは
青が真剣な顔つきで答える。
「さすがにそんな聞き間違いはしないよ」
つまり白山は中学の時にいじめられていた。
もしかするとこっちに引っ越してきた原因も『いじめ』なのかもしれない……。
「なんとなく繋がったかもしれない。あくまでも仮説だが……。白山本人に直接会いに行こう」
ポケットからスマホを取り出して右手で握り締め夕暮れで薄暗くなった部室を後にした。
事件の後でもあったため青がしっかり消灯と施錠をしている。
俺は職員室に鍵を返してから玄関に到着すると青から白山の電話番号を教えてもらい玄関で靴を履き替えた。
校門に向かって歩きながら白山に電話をかけると意外なことにも3コール目で電話に応答してくれた。
「もしもし白山か、今成だけど大丈夫か?」
『あ……だ、大丈夫ですけど。どうかしましたか?』
電話の相手が俺だと気付き、少し動揺している気がする。
「白山の家から学校側に向かうと小さな公園があるだろ? 今からそこまで来れないか?」
『……大丈夫ですけど、要件はなんですか?』
大分警戒している様子の白山。
まあ仕方のないことだ。
仕方ないが会わないことには話にならない、話し合いにすらならない。
「会った時に話す。それでもいいか?」
「……わかりました。では今から向かいます」
電話が切れた。というより白山に切られた。
そうして青と二人で待ち合わせ場所の公園へと向かった。
青から白山の話を聞いて改めて感じた青の情報収集である『ブルーネットワーク』の凄さ。
さすが青といったところなのだろう情報収集にかけては群を抜いている。
詳しくはわからないが、おそらく彼の人脈のことなのだろう。誰とでも仲良くなれるし、誰とでも繋がれる。
人類皆兄弟という言葉があるように青からしたら繋がれない人なんていないのかも知れない。
『知り合いの知り合い』……こんな地方の街だと、ほぼ全ての人がその言葉だけで説明がつく。そして繋がれる……。
俺の周りは一体なんなんだ……。
天才と自負する妹、情報収集が得意な青。俺にヒントをくれる羽流。そして怪奇現症について説明してくれた倉橋先生……。
自分の劣等感が秀でている……。
だがそれでも俺は前に進むと決めたんだ。
白山茉莉を苦しみから救うと決めたんだ。
いざ、決戦の地へ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます