第17話 おうちに帰りました

 ひとまず私、ニコ、リザードマンの三人でビッグブロント討伐作戦について、話し合いを始めることにしました。

 しかし、まずはここで決めるべきことがあります。


「そういえば、あなたは男性ですか?」


「あァ? オレはオスだァ。それがどうしたァ」


「分かりました。では、今後あなたのことはドマと呼びます」


「……ドマ? なンだそりゃァ」


「あなたの名前ですよ」


 リザードマン、といちいち言うのは面倒ですから、名前をつけました。

 リザだと、女性の名前になってしまいますからね。男性だと分かりましたし、ドマと呼ぶことにします。

 もしリザードマンの女性を仲間にすることがあったら、その方にはリザと名付けることにしましょう。


「まァ、好きに呼べやァ。ンで、結局どうすンだァ?」


「ひとまず、卵を盗んでビッグブロントに追いかけさせる作戦でいきます。ドマはビッグブロントの卵が、どこにあるか知っていますか?」


「あァ。あいつらァ、湖からちィと離れたとこに巣ゥ作ってっからなァ」


「では、卵を盗む役目は任せます。その上で、決行するタイミングですが……」


 ふむ、と私は改めて眼下にいる、巨大なビッグブロントの群れを見つめます。

 できれば、この真下に来てくれるのが望ましいんですよね。割と高いですし、距離も十分です。ここから大岩を落とせば、さすがに巨体とはいえノーダメージというわけにはいかないと思いますし。

 ただ、ちょっと懸念があるとすれば。


「そろそろ、日が暮れそうなんですよね」


「ンだなァ」


「一度、拠点に戻る方がいいかもしれません」


 朝一番から、ダックスたちに農耕を教えていたのもあって、もう夜が訪れそうです。

 現状、ニコとドマが仲間になってくれたとはいえ、ここは捕食者ばかりの島です。夜はせめて、安全な場所で休まないといけません。

 もうこの島に来て三日目ですが、あっという間に過ぎたような気もします。


「ドマも、一度自分たちの群れに戻って、私と協力するようになったことを伝えてください」


「……あァ。ま、伝えておくぜェ。他の連中が、てめェに協力するたァ限らねェがな」


「一応、手付けではありませんが、お肉を渡しておきましょう」


「おォ、そりゃいィや。あいつらも喜ぶぜェ」


 無限収納インフィニティストレージから、私は肉を取り出します。

 三十匹くらいの群れだと言っていましたし、それなりに多めです。ニコが隣で、「あたしの食べる分が、なくなっちまわないように気ぃつけろよ」と言ってきました。大丈夫ですよ。まだ十分量がありますから。

 それにビッグブロントさえ狩ることができれば、食料問題は完全に解決です。


「ではドマ、明日ここに来てください」


「分ァった。ま、これからよろしく頼むぜェ」


 ドマが嬉しそうに立ち上がって、お肉を抱えて去っていきました。

 そんなドマを見送ってから、私もニコの背中に乗ります。

 そろそろコボルトたちも疲れているでしょうし、ごはんをあげないといけませんね。


「ではニコ、拠点まで戻ってください」


「あいよ」


 たてがみを掴むと共に、ニコが凄まじい速度で走り始めます。

 鞍とか轡とか、そういう馬具も入れておけば良かったなぁ、とちょっとだけ思います。裸馬に乗るのって、割と技術が必要なんですよ。

 正直私、振り落とされないようにしがみつくので必死です。


「しかしまさか、リザードマンまで仲間にするとは思わなかったよ」


「無事に、仲間に出来て良かったですよ」


「ま、明日本当に来るとは限らないがね。肉だけ奪って、来ないって可能性もあるよ」


「あー……」


 確かに、大量のお肉を与えたので満足してしまう可能性はありますね。

 まぁ、そのときは仕方ありません。どうにか他の協力者を見つけて、ビッグブロント狩りを出来るようにしましょう。

 ですが――。


「多分、来ると思いますよ」


「そうかい?」


「ええ。食糧事情は、割と厳しそうでしたから。ビッグブロントを狩ることができる可能性は、理解してもらえましたし」


「ふぅん……ま、あんたがそう考えているなら、あたしからは何も言わないよ」


 ふふっ、とニコが笑います。

 話していて思いますが、ニコはなんとなく姐御肌な感じですね。頼れる相棒です。


「んじゃ、もうちょい急ぐよ」


「へ? 私この速度でも手が……」


「ふんっ!」


「ひあぁぁっ!」


 さらに、ニコが速度を上げました。

 私、今の状態でもたてがみを掴むのに手が必死なんですけど!












「ぜぇ……」


「なんだい、もうへばっちまったのかい」


 どうにか、拠点に帰り着きました。

 私を背中に乗せているのだから、もう少し安全運転をしてほしいものです。時々飛び跳ねたときとか、本当に落ちそうになって悲鳴を上げてしまいました。

 手がぷるぷる震えています。私、インドア派なんですよ。筋力とかないんですよ。


「あ、そひあ!」


「ワオン!」


「クゥン!」


 ダックスを筆頭とした、コボルトたちが迎えてくれました。

 ちゃんとダックスたちは指示通り、そのあたり一帯を開墾してくれています。私は農業に詳しくないので、この土壌が良い土なのか悪い土なのかは分かりませんが、とりあえずチャレンジですね。

 明日は種蒔きをさせてみましょう。そこからは、雑草取りとかの地味な作業です。


「ただいま、ダックス」


「おかえり、そひあ。ごはんは?」


「はいはい。そうですね、今日は果物にしましょう」


 迎えてくれたダックスたちの前に、今日は様々な果物を出します。

 オレンジ、バナナ、キウイ――無限収納インフィニティストレージの中に入っている果物は、割と多いです。私が果物が好きなので、時々食べるために色々入れてますから。

 多分、種類だけで言うと二十種類くらいはあると思います。何せ以前、青果店にあったものを丸々収納したこともありますから。


「おいしい。これおいしい」


「ワン!」


「バウ!」


「フゥン!」


 コボルトたちが嬉しそうに食べる姿を見ていると、癒されますね。

 そして私も、自分用に果物を出して食べます。こういうとき、調理が必要のない果物は楽でいいですね。

 ニコも、「それ美味いのかい?」と私の出したブドウを横から掠め取っていきました。お肉はちゃんと出しましたのに。


「さぁ、そろそろ暗くなってきたので、寝るとしましょう」


「はぁい」


「クゥン」


「ワオン」


「あたしは昨日と同じく、夜の番でもしてるよ」


 そうして。

 私がこの島にやってきて三日目の夜は、過ぎていきました。

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