第18話 さぁ狩りをはじめましょう。

 翌日。

 ぐっすりとベッドで眠った私は、ニコの背中に乗って集合場所まで向かいました。

 集合場所というのは、昨日ドマに伝えていた場所――ビッグブロントたちが見える丘の上です。朝早くに出発しましたが、色々と準備もあったので、到着したのは結局お昼前くらいになりました。

 ちなみに、ダックスたちには畑の手入れについて、水やりをしておくように伝えています。多分、適当に水やりを済ませてからレーベの実でも食べに行っていることでしょう。

 そういえば、ダックスたちはお肉を食べないのでしょうか。狼は一応、肉食のはずなんですけど。


「よォ、やっと来たかァ」


 そんな風に考えながら集合場所に辿り着くと、既にドマがいました。


「おや、待たせてしまいましたか?」


「なァに、それほど待っちゃいねェ。それより、さっさと始めようぜェ」


 くくっ、とドマが笑います。

 そんなドマの後ろにいるのは、十数匹のリザードマンたちです。どうやら、部族のリザードマンたちも協力してくれるようですね。

 これだけの人数がいれば、計画も問題なく進めることができるでしょう。


「さて……それではドマ、作戦を説明しますが」


「あァ」


「ドマたちには、まずビッグブロントの卵を盗んでもらいます。恐らくビッグブロントは、卵を盗んだ皆さんを追いかけてくるでしょう。まず、追いかけられて殺されないことが、あなた方の仕事です」


「けッ。なめンじゃねェぞ」


 私の言葉に、ドマが不敵に笑みを浮かべます。

 そして後ろでは「グルル」「シャー」とやる気の声が聞こえます。

 やる気だと思います。多分。何言ってるか分かりませんし。


「そして皆さんは、あそこの崖の下までビッグブロントを誘導します」


「あァ」


 私が指差すのは、今回の作戦に最適な位置です。

 下に向けて抉れている崖のため、私の立つ場所の真下は森です。その部分をビッグブロントが通れば、その瞬間に私が岩を落とすという形ですね。

 ちょっと高いところは怖いですが、そうも言っていられませんし。


「誘導してやってきたビッグブロントに対して、私が攻撃を仕掛けます。皆さんはとにかく、ビッグブロントの攻撃が当たらないように専念してください」


「なァ、嬢ちゃん。ちィと懸念があンだけどよォ」


「どうしました?」


「いやァ……まァ、卵を盗みゃいィって言い出したのァ俺だがなァ、それだとビッグブロントが、何匹も一斉に来ンじゃねェか? 下手すりゃァ、群れが丸ごと来るぜェ」


「ははぁ」


 私は丘の向こう――ビッグブロントたちの群れを見ます。

 とりあえず、今見えるのは五匹です。一匹が凄く大きくて、残る四匹は大きさは変わらないですね。一番大きいのは、岩山くらい大きいです。


「群れというのは、何匹ですか?」


「ビッグブロントはそんな大した群れを作らないよ。ここから見える五匹で、一つの群れってとこだ」


「あ、ニコ。そうなんですか」


「一匹のオスに、数匹のメスが従ってんのがビッグブロントの特性さ。だからはぐれのビッグブロントは、大抵オスって話だよ。ま、はぐれはすぐに食われちまうから、滅多に出会うこともないがね」


「なるほど。では、問題ありませんね」


 ハーレム思考というやつですね。

 まぁ、気持ちは分からないこともないです。やっぱり強い男性に惹かれるのは分かりますし。

 そういえば、ルークス王子はどうしているでしょう。

 私がいなくなったという報せは、王子まで届いているでしょうか。


 お待ちくださいね、ルークス王子。

 私は必ず、飛べる系の魔物を仲間にして、王国まで戻りますから。


「では、作戦を開始します。ドマを筆頭にリザードマンは、卵を盗んでビッグブロントを誘導してください」


「おゥ、任せなァ! てめェら行くぜェ!」


「オォォォォォ!!」


 リザードマンたちが一斉に咆吼を上げて、走っていきました。

 そしてニコは、はぁ、と一つ溜息を吐いてから私を見ます。


「あたしはいいのかい?」


「ニコがいなくなったら、私の身を守ってくれる相手が誰もいませんよ」


「……ちょっと前から思ってるけど、あんたは守ってもらうようなタマかい?」


「何を言いますか、こんなにか弱い淑女に向かって」


 まったく、失礼なニコです。












 オォォォォ、という咆吼と、激しい地響きが眼下から聞こえてきました。

 大人しく水を飲んだり、木の葉っぱを食べていたビッグブロントたちが、一斉に動き始めたのです。

 一番大きい個体――恐らく、オスであろう群れの主を筆頭に、残り四匹が続きます。そんな彼らが追っているのが、数匹のリザードマンです。

 遠目だとリザードマンの区別がつかないので、先頭にいるのがドマなのか違うのか分かりませんね。


「そういや、嬢ちゃん」


「はい?」


「さっき、群れが来ても問題ないって言ってたけど……本当に問題ないのかい?」


「何の問題もありませんよ」


 ふふっ、と笑みを浮かべます。

 その間にも私は、《無限収納インフィニティストレージ》の準備をしておきます。いつビッグブロントがやってきても、大丈夫なように。

 このために、私はちゃんと準備をしてきたのです。

 朝早くから、ニコの背に乗ってここまで来ました。その途中、良さげな岩を見つけては《無限収納インフィニティストレージ》の中に収納してきました。

 だからこそ、問題など何もないのです。


「むしろ、肉が増えてくれることを喜びましょう」


「……」


 ビッグブロントがどれほどの数やってきたところで、私の収納は無限です。

 彼らを屠ることのできる岩も、彼らを屠った後の収納も、ちゃんと出来るんですよ。

 まぁ、収納する方はちゃんと近付かないといけませんから、ここからビッグブロントを倒す場所までは、歩いて行く必要がありますけど。ニコの背中にでも乗せてもらいましょう。

 近付かなくても収納できれば、それが一番なんですけどね。

 まぁ、今日だけでビッグブロントの肉が五体分は手に入りそうですし、しばらくニコやドマの食事には困らなさそうです。


「……あたしゃ少し、あんたが怖いよ」


「何を言いますか、こんな可憐な淑女に向かって」


 まったく、失礼なニコです。

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