第16話 共同戦線の提案

 ビッグブロントを狩るために、どうすればいいか私も考えました。

 正直、私一人が生きていくだけならサバイバルなど全く必要ないのですが、肉食の魔物をこれから仲間にしていくつもりなので、食肉がどうしても必要になります。そして彼らの腹を満たすのに十分な量があり、かつニコ曰く非常に美味しいらしいなので、ビッグブロントを狩るのが最善でしょう。


「貴方の群れは、何匹くらいいますか? リザードマンさん」


「……オレらァ、戦士がァ二十だ。女子供も合わせりゃァ、三十ちょっとだァ」


「戦士だけでいいです。非戦闘員までかり出せとは言いません」


「オレらにィ、何させるつもりだァ?」


「さっきも言ったでしょう。ビッグブロントを狩るのです」


 リザードマンが、私を睨み付けます。

 他のリザードマン三体が、不思議そうに話をしているリザードマンを見ています。ひとまず、リザードマンの交渉役はこのお一方で十分でしょう。

 彼らには、後ほど説明してもらうことにします。スキルブックは有限ですから、会話が通じる相手はお一人という形で。

 しかし、私の言葉にリザードマンは顔をしかめました。


「あンな奴、狩れっかよォ……」


「おや?」


「てめェは、アイツの恐ろしさを知らねェンだろうがァ。ビッグブロントなンざァ、どう足掻いたって狩れる相手じゃねェ。こっちが殺されンのが見えてらァ」


「ほほう」


「ま、その言葉にはあたしも同感だねぇ」


 リザードマンの言葉に、ニコもまた頷きます。


「嬢ちゃん、リザードマン如きをいくら集めたところで、ビッグブロントを狩るのは難しいよ。そもそもあいつらは、常に群れで行動してる。数匹の群れがいるだけで、ドラゴンすら手出しできないんだ。下手に手を出したら、殺されるからね」


「それほど強いのですか?」


「そりゃそうだよ。でけぇってことは、それだけ力がある。あいつらは、尻尾の一撃で山を砕くんだからね。それをまともに喰らったら、あたしも命はないね」


「動きは鈍そうに思えましたが」


「動きが鈍くても、攻撃範囲が馬鹿でかいんだよ。攻撃を仕掛けて、あいつらの尻尾が届かない位置まで離脱するのは、あたしでも難しい」


「なるほど」


 ニコでも厳しいと。

 ですが、別段それほど絶望する相手ではないと思うのですが。

 正直、私からすれば肉の塊にしか見えないもので。


「リザードマンさん」


「何だァ」


「私に協力してはいただけませんか? もし協力してくださり、ビッグブロントを狩ることができれば、好きなだけビッグブロントの肉をお渡しします」


「……てめェ、何か考えがあるってェのか?」


「ええ。私の計画通りに進んでくれた場合、ビッグブロントは間違いなく狩れます」


「……適当なこと、ほざいてンじゃねェだろうなァ?」


「確信を持って言っていますよ」


 さて、では説明しましょう。

 いくら巨大な相手であっても、私ならば問題なく狩れるということを。


「私は、無限に岩を出すことができます」


「……」


「それを高所からビッグブロントに向けて落とせば、倒すことはできるでしょう。ただし、それを行うためには場所を選ばなければいけません。私が高所にいて、その真下にビッグブロントがいる必要があります」


「ほォ……」


「その場所まで、ビッグブロントを誘導してもらいたいのです」


 この近辺の地理は、ある程度把握しています。

 そして今、泉で水を飲んでいるビッグブロントの群れは、あまりにも遠いです。あの距離まではさすがに、私も岩を出すことはできません。

 ですので、できれば私が崖の上にいて、ビッグブロントが崖の下にいる――そんな状況が望ましいのです。


「ですから、リザードマンたちがビッグブロントを指定の地点まで誘導し、私が岩を落として仕留める……こういう形で、狩れると思うんですよ。幸い、この島は岩が大量にありますからね」


「……そンな、手段かよ」


「ええ。ですから皆さんには、誘導をお願いしたいのですが」


「うぅん……そりゃちょっと難しいかもしれないよ」


 しかし、そこで口を挟んできたのはニコでした。


「ビッグブロントは、草食だよ。攻撃を仕掛けてくるのも、基本的には自衛のためだからね。敵が現れたら攻撃を仕掛けるが、敵を追うことはない」


「ほほう」


「だから、リザードマンが攻撃を仕掛けたところで、ビッグブロントは反撃をして終わりだ。リザードマンをそれ以上倒そうと、追いかけることはないよ。誘導するのは厳しい」


「あー……それは考えていませんでしたねぇ」


 なるほど。

 確かに、肉食の魔物なら獲物を追いかけてくるかもしれませんが、ビッグブロントにとってリザードマンはただの邪魔者です。下手に追いかけてくることはないでしょう。

 魔物というのは攻撃を仕掛けたら、怒って追いかけてくるものだと思っていたのですが、ちょっと私の認識が違っていたようです。


「もしリザードマンの攻撃でそれなりの手傷を負わせたとしても、ビッグブロントは間違いなく逃げるだろうね。こっちを追いかけてくることはない」


「ふむ。でしたら、誘導先に逃げるように攻撃を仕掛けるのは?」


「それこそ、リザードマンが全滅するくらい激しい攻撃じゃなきゃ、あいつらは動かないよ。それに、どこに逃げるかも結局ビッグブロントの心づもり一つだ。きっちり指定の地点に誘導ってのは、さすがに難しいと思うね」


「……困りましたねぇ」


 逃げる先で待ち受けるにも、確かにあれだけの巨体です。どこに逃げるかは全く予想がつきませんね。

 巨体であるということは、わざわざ木々の隙間に行かなくても、木をなぎ倒して進めばいいだけの話ですから。

 うぅん……。

 そこでリザードマンがにやり、と笑みを浮かべました。


「……そうだなァ。一つ、手段はあるぜェ」


「おや?」


「手段があるのかい?」


「ふン……てめェに従うってわけじゃねェが、オレらもビッグブロントの肉は欲しいからなァ。てめェに協力して、肉が手に入るってェなら、協力するのも吝かじゃねェってこったァ」


「ええ、それでいいですよ」


 リザードマンはひび割れたような声音で、私に向けてそう言います。

 そして――。


「ビッグブロントに、オレらを追いかけさせりゃァいいってことだなァ?」


「ええ」


「だったら、簡単だァ。アイツらの卵を、奪って逃げりゃいィ」


「――っ!」


 おぉ。

 確かに、それはいい方法です。いくら草食動物とはいえ、自分たちの子供――卵を奪われたら、さすがに怒るでしょう。

 そして追いかけてきたところを、指定の地点に誘導すればいいのです。


「その方法でいきましょう。リザードマンさん、協力してくださいますか?」


「いいだろォ。ただし、肉は十分貰うぜェ」


 リザードマンが凶悪な笑みを浮かべて、私と握手を交わします。

 しかし、ビッグブロントの卵ですか。


 目玉焼き、大きいのが作れそうですね。

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