第15話 リザードマンの襲撃

「グォォォ!!」


 リザードマンの一匹が、私に向けて襲いかかってきます。

 それぞれ、手に持っているのは木の棒です。しかも、全く加工などされていない、ただの棒きれです。

 私は右手にクロスボウ、左手に盾を持って、まずリザードマンの攻撃を防ぎました。

 いくら強い力であったとしても、さすがに鉄製の盾を壊すほどではありません。


「ぐぅ……!」


 ですが盾越しに当たった攻撃でさえ、私の腕を痺れさせます。

 やはり、魔物の膂力は人間とは桁違いですね。私が吹き飛ばされなかったのは、純粋に重い盾を構えていたからでしょう。

 まぁ、重いからほとんど動かすこともできないのですけどね。

 ですが、きっちり対策はしておりますとも。


「上手い手を使うねぇ、嬢ちゃん」


「ニコ、気をつけてくださいね。あなたに死なれては困ります」


「はん。リザードマン如きに、後れを取るもんかよ」


 私の周囲三方を、岩で覆っているのです。

 これはニコと共にここまで来ているまでの間、見つけては《無限収納インフィニティストレージ》の中に収納していたものです。それなりの高さがあり、かつ真四角に程近い形状のものです。

 これを私の周囲三方に出すことで、敵の攻撃を一方だけに絞ります。そしてその一方には大きな盾を構え、どんな攻撃に対しても防御できる姿勢を整えます。

 あとは、前に出した盾の隙間から、クロスボウで撃つだけですよ。


「よ、っと」


「グアァッ!!」


 ひゅんっ、とクロスボウから矢が発射されます。

 特に狙っていたわけではありませんが、上手いことリザードマンの足に当たりました。これからは、ちゃんと狙って撃てるように訓練しなければいけませんね。

 そしてニコはというと、私と初めて出会ったときにしていた突進戦法で、次々とリザードマンを薙ぎ倒しています。ユニコーンって以外と強いんですね。


「グルゥ!」


「ガァァッ!」


 ですが、リザードマンも割とタフです。

 ニコの突撃で吹き飛ばされながら、すぐに立ち上がる個体も多いようです。どうやら、決定打にはならないみたいですね。

 まぁ、私としてはそちらの方が都合がいいです。

 動けない程度の瀕死にしてもらえば、あとは交渉次第ですから。


「ニコ、動けなくする相手は一匹だけでいいです。あとは追い払う感じで」


「そうなのかい?」


「ただし、絶対に殺してはいけません。群れで来ているということは、仲間意識が強いかもしれませんから」


「無茶な注文をしてくれるねぇ!」


 言いながら、後ろ足で近付いてきたリザードマンを蹴飛ばすニコ。

 十数匹が一斉にやってきたということは、恐らく一つの集団なのだと思います。そして集団であるならば、ダックスが他のコボルトを集めてくれたように、リザードマンの群れも集めることができるかもしれません。

 そうすれば、戦力は一気に上昇します。数は力ですからね。


「えいっ!」


「グギャァッ!」


 クロスボウの引き金を引くと共に、別のリザードマンが倒れます。

 下手に狙いをつけるより、連続でひたすら撃った方が当たる確率は高いでしょう。そう考えて、私はなるべく下の方を向けて、連続で撃っています。

 下の方ならば、当たっても足ですからね。動けなくさせるならば、それが一番です。


「おらおらおらぁっ!」


 ニコが突撃すると共に首を振り、数匹のリザードマンが吹き飛びました。

 そして倒れている数匹に対して、じわじわと他のリザードマンたちが距離を取ります。どうやら、後ずさっているようですね。

 獲物(私)を見つけて襲いかかってみたら思わぬ抵抗を受けたから、一時撤退ということでしょう。

 それなりに知恵は回るようです。


「グル……」


「キィッ!」


 そしてリザードマンたちはある程度の距離を取ると共に、背中を向けて逃げ出しました。

 その後も暫く待ちましたが、踵を返してくる様子はありません。そこでようやく、私は三方に展開していた壁を再び収納しました。

 この戦法、いいですねぇ。さっきなんとなく思いついただけなのですが、どうにか自分の身は守れますし。


「はっ。逃げやがったか。張り合いがないねぇ」


「まぁ、交渉相手は残ってくれたので良しとしましょう」


「グル……」


 動けず、頭だけをこちらに向けている数匹のリザードマン。

 私はそのうちの一匹に近付き、《無限収納インフィニティストレージ》からスキルブックを取り出します。

 ここからは、まぁいつも通りの展開ですよ。


「はい。ではこれを見てください」


「……何だァ、てめェ」


「おー」


 はい、成功と。

 既にダックス、ニコと連続で成功していますので、特に感慨はないです。ですが、口調は割と種族によって違いがありますね。

 ニコは割と流暢に喋って、ダックスは舌足らずな感じです。そしてリザードマンはというと、どこかひび割れているような声音でした。なんとなく聞き取り辛い部分はありますが、何を言っているのかはどうにか分かります。


「まずは、こんにちは。リザードマンさん」


「……言葉がァ、分かるだァ?」


「ええ。私はそういう本を、あなたに見せましたので」


「何もンだァ、てめェ……」


「私は、ソフィア・ブレンシアと申します。ソフィアでいいですよ」


 さて。

 改めてこの島は、弱肉強食です。

 リザードマンたちは私の姿を見て、弱者だと考えて襲いかかってきたのでしょう。それも、十数匹で私とニコを。

 つまり彼らは、食べるために私たちを襲ってきたのだと思います。


「さて、リザードマンさん」


「なんだァ……?」


「私の仲間になってくれるのならば、お肉を差し上げます」


「……何ィ?」


 ダックスたちに畑作は任せていますし、そもそもこの島の生き物は肉食が多いようなので、とりあえず野菜が足りなくなることはないでしょう。

 ですが、私の《無限収納インフィニティストレージ》に入れているお肉は、有限です。それなりの量をニコに差し上げてしまったので、もうあと半分くらいですね。そもそも、食材を《無限収納インフィニティストレージ》に入れておく習慣がなかったもので。

 ですから、ここでお肉を調達する必要があります。


「ですから、私たちと一緒に」


 くいっ、と私は背後の湖を指差し、告げました。


「ビッグブロントを狩りませんか?」


 リザードマンの協力を得ることができれば、恐らく狩ることはできるでしょう。

 ビッグブロントを一匹でも狩ることができれば、食糧問題は完全に解決です。

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