第14話 次は狩猟の段階

「ワオーン」


「クゥーン」


「オン、オーン」


 コボルトたちが嬉しそうに声を上げながら、畑に種を撒いています。

 ひとまず開墾した農地は、物凄く広いです。私が最初にやり方だけ教えたら、あとはコボルトたちが嬉しそうにやってくれました。彼らにとっては、新しい遊びのような感覚だったのかもしれません。

 この調子だと、農地をどんどん増やせるかもしれませんね。

 今後、どのくらいこの島にいなければいけないか分かりませんし、食料品を手に入れる目処が立ったことは良しとしましょう。


「さて……そういえば、ニコは普段何を食べているのですか?」


「うん? アタシかい? 肉だよ」


「ええ、それは分かっています。どんな肉を食べているのですか?」


「そりゃ、日によるさ。コボルトを食う日もありゃ、運良くワイルドボアが捕まる日もある。よっぽど腹が減ってりゃ、アルミラージでも追いかけて食うよ。つっても、スライムはさすがに食えないね」


「なるほど」


 ワイルドボア、アルミラージとやらが何かは分かりませんが、とりあえず食べられる肉と食べられない肉はあるみたいです。

 できれば、私の口に合うお肉の持ち主を見つけたいですね。

 今、ここで農耕の目処は立ったわけですから。

 次に行うのは――狩猟です。


「では、一番美味しいお肉は何ですか?」


「そりゃ、ビッグブロントに決まってるよ。あれは本当に美味い」


「ビッグブロント?」


「つっても、アタシ一匹じゃアレを狩れないからね。他の何かが狩ったビッグブロントを、横から掠め取るだけさ」


「ふむ」


 ビッグブロントという名前には、さっぱり聞き覚えがありません。

 ですが、ニコの味覚において一番美味しいとのことですから、きっと私の口にも合うと思います。


「なるほど。ではニコ、そのビッグブロントとやらがいる場所に案内してください」


「……アンタ、ビッグブロントを狩る気かい?」


「ええ」


 私の《無限収納インフィニティストレージ》には、大量の武器が入っています。

 もっとも、私では扱える武器が少ないので、それほど効率的に狩るのは難しいと思いますが、当面の獲物の姿くらいは確認しておくべきでしょう。

 あとは、《無限収納インフィニティストレージ》メテオ――私の《無限収納インフィニティストレージ》から大岩を出して、高いところから落としてぶつけるという手もありますし。


「ふぅん……ま、アンタがそう言うなら案内してやるよ」


「ええ、よろしくお願いします」


「後悔しないようにね」


 ひょいっ、とニコの背に跨がります。

 やはり鞍と鐙を装備させて良かったです。とても乗りやすいです。

 まぁ、さすがに軍人のようにこのまま戦うことは出来そうにありませんけど。そもそも、荒事は私の専門というわけじゃありませんから。


「んじゃ、行くよ」


「はい。ダックス、あとは任せましたよー」


「うん!」


 私の言葉に、ダックスが元気よく返事をして。

 そのまま、ニコは一気に駆け出しました。













「ははぁ、あれがビッグブロントですか……」


「狩れないだろ、あんなの」


「ですねぇ」


 ニコの言葉に、頷くしかありません。

 今、見下ろしているのは湖を中心にした平野です。そんな湖の畔に、巨大な魔物の群れがいました。

 その大きさは、遠目で見ても「でっかぁ……」という感想しか抱きません。

 四つ足に長い首、長い尻尾のアースドラゴン――地竜です。しかし、その大きさがまさしく桁違いと言っていいでしょう。足だけで、軽く私を十人以上踏み潰せそうです。

 どれだけの武器があっても、倒せそうにないですね。


「奴らの強みは、その巨大さだ。肉食のドラゴンが群れで一匹を襲って、ようやく倒せるってところだね。しかも、ビッグブロント自体も十数匹の群れだから、一匹が攻撃されたら全員で襲いかかってくる」


「悪夢ですねぇ」


「だから、アタシにゃ狩れないんだよ」


「私でも無理そうですね、あれは流石に」


 うぅん。

 ここに破城弓バリスタを設置して、遠くからひたすら撃つという手はあります。

 ですが、矢がそれほどないんですよね。普通の矢は結構たくさんありますけど、破城弓バリスタの矢は矢というより銛ですからね。

 一応、《無限収納インフィニティストレージ》を確認しましたが、三十本くらいしかありません。

 それだけであの魔物――ビッグブロントを狩れるかと言われると、難しいと思います。


「ですが、一匹狩ることができれば、かなりの期間保ちそうですね」


「そりゃそうさ。尻尾だけでも手に入れりゃ、腐るまでは何も狩らなくていいからね」


「私が収納すれば、肉は腐りませんから。永遠に保ちます」


「相変わらず、アンタは途轍もないね」


「ただ、狩る手段がありません」


 どうしましょうか。

 せめてもっと頭数がいれば、四方八方から追い込んでいく形で狩れるかもしれません。

 でも、コボルトには期待できそうにありません。ニコが現れたとき、ダックスは一目散に逃げ出していたわけですし。


「狩るにしても、もっと仲間を作ってからですね。では、一旦戻りましょうか」


「ああ。ま、途中でもうちょいましな獲物がいりゃ……」


 ニコがそう言おうとして、はっ、と後ろを向きます。

 私もそれに倣って、後ろを向きました。


「まずいねぇ」


「おやおや……」


 ビッグブロントの存在感のせいで、気付きませんでした。

 何故か私たち、囲まれていますよ。


「グルゥ……」


「グゥ……」


 見た感じ、十数匹。

 二足歩行で立っている姿は、人間のそれです。ですが大きく異なるのは、その見た目でしょう。

 全身を鱗がびっしりと包んでおり、顔立ちはトカゲのそれです。さらに、それぞれに手に木の棒を持っています。

 リザードマン。

 滅んだ魔物の一覧で見たことのある、トカゲ人間ですね。


「さて、嬢ちゃん。どうするよ」


「参考までに、リザードマンのお肉は?」


「臭くて食えたもんじゃない。よっぽど腹が減ってりゃ食うがね」


「では……」


 私は、いつでも《無限収納インフィニティストレージ》を発動できるように準備を整えます。

 ニコを撃退したときのように、これでいつでも大岩を出せます。

 あとは一応、クロスボウの準備もしておきますが……まぁ、私の腕じゃなかなか当たらないことは分かっていますよ。

 それに、殺すわけにはいきません。


「仲間にしましょう。ニコ、殺さない程度に痛めつけてやってください」


「無茶言うねぇ」


 まぁ、丁度いいです。

 仲間の、頭数が欲しかったところですから。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る