第13話 畑作を始めてみます

「そひあ、いっぱいきた」


「随分と集まったものですねぇ」


 一晩を経て、私の家の前に十数匹のコボルトが集まりました。

 というのも、これから畑作をやっていこうと思ったから、ダックスに仲間を集めるよう指示したのです。肉食であるユニコーンのニコは、「仲間なんていないよ」と言っていましたが、どうやら雑食であるコボルトは仲間がいるようでしたので。

 で、集まったコボルトたちは、それぞれ毛色の違う者たちが揃っていました。

 それぞれ、とてももふもふです。可愛いですね。


「コボルトが大勢だねぇ。食っちまいたいところだよ」


「やめてくださいね、ニコ」


「分かってるよ。だが、こんなにコボルトを集めてどうするつもりなのさ」


「畑作を始めさせようと思っているんですよ」


 ニコの凶悪な笑顔に、コボルトたちが今にも逃げそうな感じになっています。

 そこをダックスが、「だいじょうぶ! たべない! だいじょうぶ!」と念押ししてくれているおかげで、留まっているみたいです。実際、一晩一緒に過ごして食べられないことが分かったのだと思いますね。

 これからは、仲良くしてくれるといいのですが。


「畑作ねぇ」


「はい。やはり、生産拠点は大事ですからね」


 この島で暮らしていくにあたって、まず考えたのは食料の確保です。

 勿論、私の《無限収納インフィニティストレージ》には大量の食料が入っていますし、腐ることもありません。今後何年もこの島に一人だったとしても、多分食料が不足するということはないでしょう。

 ですが、それは私一人ならの話です。

 ダックス、ニコと仲間が増えた今、在庫に頼り続けるわけにもいきません。今のところ、この島で食べられると分かっているのがレーベの実しか存在しない以上、何らかの方法で食料品を手に入れるしかないのです。

 そこで私が参考にしたのが、かつて私が送られる予定だったウーツベルト島です。

 ウーツベルト島は外界と完全に遮断されており、自給自足の生活を送っているのだと聞きます。修道女たちは朝から礼拝堂で祈り、昼間は農作業に従事し、夜には再び祈る――そんな、とても清らかな生活を送っているのだとか。

 そこで私も、この島でとりあえず自給自足の生活を送ってみようと考えました。


「正直、あたしにゃ理解できねぇ話だがね。食べるモンを作るとか」


「さすがに、肉は作れませんからね」


 まぁ閉鎖的な島ですし、人間も私しかいないみたいですから、畑作もありませんよね。

 肉を作るとなると畜産になりますが、さすがに私もそのあたりの知識はありません。そのうち、時間があったら蔵書でも探ってみることにしましょうか。

 さて。

 ひとまず、ここに集まったコボルト十数体なのですが――。


「ダックス」


「うん」


「今から、あなたはリーダーになってもらいます」


「りーだー?」


「はい。私の指示を彼らに伝えて、彼らに指示を出し、作業をさせる役割です」


「……わかんない」


 こてん、とダックスが首を傾げます。実に可愛いです。

 ではなく。


「私の言葉が分かるのは、ダックスだけです。ですから、ダックスから皆さんに、私の言葉を伝えるのです」


「そうなの?」


「ええ。ダックスが中心となって、これから仕事をしていくのです」


「……おれ、えらいの?」


「あー……」


 ええと、どうなるのでしょう。

 この場合、ダックスは中間管理職のようなものです。現場リーダーなんて、大抵そういうものだと思います。

 まぁ偉いか偉くないかと言われると、多分偉いのでしょう。


「そうです。ダックスはえらいのです」


「わぁい」


「ですから、リーダーとして皆を率いてください」


「わかった」


 単純ですね。

 まぁダックスをリーダーにしているのは、一応理由があってのことです。

 奇跡的に私の《無限収納インフィニティストレージ》に入っていたスキルブック――スキル《言語翻訳》の書なのですが、あれは回数制限があります。ダックス、ニコに使用して、残り九十八回です。

 これから、色々な魔物を仲間にしていこうと考えていますから、できるだけ節約していかなければなりません。そのため、ここにいる十数体のコボルト全てに使うことができないのです。

 そういうわけで、ダックスをリーダーに抜擢しました。


「おれ、えらい。おれ、すごい」


「ワオン!」


「グルゥ!」


「ワフゥ!」


 ダックスのよく分からない宣言を、何故か誇らしげにコボルトたちが讃えています。

 まぁ、彼らがそれで納得してくれるなら、別にいいです。


「それではコボルトの皆さんには、にんじんを作ってもらいます」


「にんにん?」


「にんじんです。これですね」


 スキル《無限収納インフィニティストレージ》から、私は種を取り出します。

 他にも幾つか作物はありますが、とりあえず作れそうなものから試してみることにします。やはり、土壌の合う合わないとかもありますからね。

 最終的には芋をメインに作らせていく予定ではありますが、その前にまず生育の早いにんじんで試してみるつもりです。勿論気候にもよりますが、にんじんって大体六十日くらいで収穫が見込めるんですよ。


「これたべるの?」


「種は食べてはいけません。これを土に撒いて、毎日水やりをして、お世話をするのです」


「なんで?」


「お世話をしたら、この種が大きな甘い実になります」


「わかった」


 まぁ、にんじんは甘みがありますからね。嘘は吐いていません。

 ですが、まず最初は私の方から色々教えていくことになるでしょう。コボルトたちは頭数こそいますが、全員が農業未経験ですからね。

 私も本で読んだことくらいしか分かりませんが、それでも彼らより知識はあります。


「では、まず畑の開墾から始めましょう。皆さん、クワを持ってください」


「ワオン!」


「ワフン!」


「アオン!」


 わー、わー、とそれぞれコボルトたちがクワを手に持ちます。

 ちなみにこのクワは、全部私が用意しました。何気にいっぱい入ってたんですね。

 まぁ、クワが大活躍するのなんて、開墾くらいですけど。

 農作業と聞くと、割と皆さんクワを両手で振り下ろしてざくざくしている姿を想像すると思いますが、あれ本当に最初の最初ですからね。


「では、皆さんしっかりクワを振り上げて、振り下ろしてくださーい」


「ワオン!」


 ざくっ、と自然そのままの土に、クワの刃先が入り。

 ここに私たちの畑を――生産拠点を築く、第一歩が踏み出されました。

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