第12話 おうちに戻りました

「おかえり! そひあ!」


「先におうちに戻っていたのですね」


 結局。

 私はユニコーンと共に一旦拠点まで戻ることにして、背中に乗せてもらいました。

 ですが、裸馬というのは乗るのに非常に技術が必要だと聞いています。そもそも滑ってしまう背中に乗って、太腿でしっかり体を挟み込んで、体のバランスをとらなければならないとか。王国の武人の中には、裸馬に乗って剣を振り回せることができる方もいるらしいですが、私には難しいようです。

 何度か落ちて、仕方なく《無限収納インフィニティストレージ》を確認すると鞍と鐙が入っていましたので、結局装着させてもらいました。ユニコーンは「こんなの、なんだか堅苦しくてやんなるねぇ」と言っていましたが、どうにか納得してもらいました。だって、裸じゃ私が乗れませんから。

 で、拠点に戻ってきて。

 既におうちの中に、ダックスが入っていました。


「ああ、嬢ちゃん。仲間ってのはコイツかい」


「はい、そうです。ダックスといいます」


「ダックス? こいつはコボルトだろうに」


「ですから、ダックスという名前をつけたんですよ。他にコボルトが仲間になったとき、区別がしやすくなるように」


「へぇ」


 ユニコーンは、興味なさそうにダックスを見て。

 そして、そんな視線を向けられたダックスは震えて、おうちの中に入ってしまいました。


「ひぃ! こわい! こわい!」


「すごく怖がられてますよ」


「ま、アタシはあの辺でよくコボルトを狩ってたからね。コイツらにしてみりゃ、捕食者さ」


「なるほど」


 私としては、仲良くしていただきたいところですが。

 とりあえず、ダックスを食べられたら困ると言っておかないといけませんね。


「ニコ、ダックスのことは食べないようにしてください」


「アンタから肉が貰えんなら、わざわざコボルトを食べる趣味はないよ。コイツら、小骨が多いんだ」


「そうなんですか」


「つか、何だいニコってのは、アタシはユニコーンだよ」


「ああ、名前ですよ」


 ユニコーンですから、ニコです。

 今後他のユニコーンが仲間になるかもしれませんので、名前をつけておくに越したことはないでしょう。安直とか言わないでください。こういう風に付けないと、忘れそうなんですよ。


「……名前ね」


「今後は、あなたのことをニコと呼びますのでお願いします」


「ああ、そうかい……勝手に呼びな」


「では、そういうことで」


 二匹目の魔物も仲間になりましたし、順風満帆ですね。

 ダックスはまだ奥で震えていますが、まぁそのうち慣れてくれるでしょう。


「それで、ニコ」


「何だい、そひあ」


「……ソフィアです」


「ああ、そうだったのか。あのコボルトが呼んでるから、そひあって名前だと思ったよ。ソフィアね。了解」


 良かったです。ニコはちゃんと呼んでくださいました。

 恐らく、ダックスが舌足らずなせいで上手く呼べないんですね。


「ええと……とりあえず、私の目的は話したと思いますが」


「飛べる魔物を仲間にしたい、って話だろ。聞いてるよ」


「ニコには、飛べる魔物の知り合いはいませんか?」


「知り合い?」


 ニコが私の言葉に、首を傾げます。


「知り合いってのは、どういうことだい?」


「いえ、ですから……知っている方です。お友達とか」


「アンタ、アタシらにそんな相手がいると思ってんのかい? アタシら、腹が減ったら同族でも襲うよ。アタシが知ってる相手は、アタシの腹ん中に入った奴らだけさ」


「……」


 思っていたよりバイオレンスでした、魔物の世界。

 同族でも襲っちゃうんですね。共食いですけど、それ。


「オスにお知り合いはいないのですか?」


「アタシにとって、オスは捕食対象じゃないだけさ。つか相手がオスでも、よっぽど腹減ってりゃ襲うよ。肉はクソまずいけどね」


「ははぁ。完全に孤高の存在なんですね」


「何だい、アタシをあてにしてたのかい?」


 正直、ちょっと当てにしていました。

 だって、ダックスあんな感じだからあんまり頼りにならないんですよ。今のところ、ニコはちゃんと会話も通じますし、理性的です。こうして話していても、違和感ありませんし。

 だから、ニコの伝手を辿っていけば、いずれドラゴンにも至ることができると考えていました。人生、甘くないですねぇ。


「ま、アタシにできるこた、アンタの乗り物になるかアンタの代わりに戦うことくらいだ。それ以外の働きは期待すんな」


「分かりました。では今後、敵対しそうな相手と出会ったときには、お願いします」


「ああ。アンタが肉をくれる限り、アンタに従ってやるよ」


 にやり、とニコが笑みを浮かべます。

 馬の顔で笑みというのは、非常に奇妙ですね。一言で述べるなら凶悪な笑顔です。

 私の中のユニコーンのイメージが、ガラガラ崩れていくのが分かります。


「それでは、ニコは周りの警戒をしていてください。もし敵対する相手が近くに来たら、私に報せるように」


「ああ、分かったよ」


 指示を出して、私はおうちの中に入ります。

 そんなおうちの中では、端っこでダックスが震えていました。余程ユニコーンのことが怖いみたいですね。

 まぁ私たちからすれば、いきなり目の前に熊が現れたようなものでしょうか。


「ダックス」


「そひあ、こわい。あいつこわい。こわい」


「ダックスのことは食べませんから、大丈夫ですよ」


「……ほんと?」


「はい。彼女はニコです。仲良くしてください」


「にこ?」


 こてん、とダックスが首を傾げます。とても可愛い仕草ですね。

 正直、ニコは戦闘要員ですが、ダックスはただの癒し要員でいい気がしてきました。だって、実際にニコと戦ったときにも、一人で勝手に逃げておうちに戻っていましたし。

 どうにか、ダックスをこれから役立たせる方法は――。


「あ」


「そひあ、どうしたの」


「ああ、いえ。少し思いついただけです」


 私は《無限収納インフィニティストレージ》を確認します。

 実家の倉庫の中身は全部持ってきているはずですが、はたして入っているか――。


「ああ、ありましたね」


「?」


「ダックス、剣を回収します」


「うん」


 ダックスからまず、剣を受け取ります。

 そして代わりに、《無限収納インフィニティストレージ》から取り出した長柄のそれを渡しました。


「では今後、ダックスはこれを持ちなさい」


「これ、なに」


「クワです」


 柄が長いそれの先にあるのは、鉄でできた台形です。その先端は、鋭くなっています。

 これで、ちょっと畑作をやってみましょう。やはり、生産体制は整えておかねばなりませんからね。

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