第11話 仲間が増えました

「はぐはぐ……何だいアンタ、上等な肉を持ってんじゃねぇの」


「お口に合ったようで何よりです」


 肉を要求してきたユニコーンに対して、私は第一収納庫インベントリから豚肉を取り出して、渡しておきました。

 勿論、生肉です。私としては火を通した方が美味しいと思うのですが、肉食の獣というと大体生肉ですからね。私の《無限収納インフィニティストレージ》に入れておけば、腐敗もしないので新鮮そのものです。

 あ、でも肉によっては熟成させた方が美味しいとか聞いたことがありますね。


「つかアンタ、見たことない奴だね」


「ええ、昨日ここに来たばかりですから」


「ああ、そうかい……アンタが妙な術を使うと知ってりゃ、ハナっから襲わなかったってのにさ」


「ユニコーンさんは、ここで獲物を狩っているのですか?」」


「ああ、そうさ」


 むぐむぐ、と肉を頬張りながらユニコーンが答えます。

 馬が肉を食べている光景というのは、割とシュールです。よく見れば、歯も鋭いですね。恐らく普通の馬とは、異なる進化を遂げた結果ということでしょう。

 まぁ、頭から一本角が生えている時点で、異なる進化でしょうけど。


「その実を食べてる奴を、横から襲って食うのさ。このあたりは、コボルトがよく来るからね」


「なるほど。それで私を襲おうとしたと」


「まぁ、もう勘弁だね。あんたみてぇな変な術を使う奴を襲うより、コボルトを食う方がこっちも楽ってもんさ」


「ふむふむ」


 ダックスたちは、割とレーベを食べに来るみたいですね。

 だからここで待ち構えて、レーベを食べているコボルトを襲う、と。食物連鎖という奴ですね。


「それより、アンタについて聞きたいね。アンタ何者だい?」


「私の方も聞きたいです。あなたはユニコーンですよね?」


「へぇ、アタシの種族を知ってんのかい」


「ええ。書物で見たのですが……」


 あれ?

 なんかこの方、よくよく話を聞いてると……。


「ユニコーンは、清らかな乙女を背に乗せると書かれていました」


「ああ、オスはそうだよ。あいつら、メスは食わないからね」


「……ということは、あなたは」


「アタシはメスさ。代わりにアタシらメスは、オスを食わないよ」


「……」


 メスでしたかぁ。

 これは想定外でした。そして、私はユニコーンのオスに襲われないという情報もゲットです。これは種族の特異性というものでしょうか。

 まぁ、ダックスより話が通じる方で良かったです。

 ここは、きっちり協力関係を結んでおかないと。


「ところでユニコーンさん」


「何だい……ああ、ちょっと待ちな。もう襲いやしねぇから、回復させてもらうよ」


「へ?」


「《ヒール》」


 ぽわんぽわん、とユニコーンの周りに、光が漂います。

 それと共にユニコーンの体から流れている血が止まり、傷が塞がっていきます。さらに根元から折れていた角が、逆再生するみたいににょきにょき生えてきました。

 奇跡のようなその所業に、思わず口をあんぐり開けて見てしまいます。


「おぉぉ……」


「ふぅ……んで、何だい?」


「凄いですね。それは一体、どんなスキルですか?」


「スキル? 魔術だよ。もしかしてアンタ、魔術も使えないのかい?」


「魔術……?」


 思わず、私の眉が寄りました。

 私たちにとって魔術とは、スキルです。スキル《火炎魔術》だったり、スキル《回復魔術》だったり、人知を超えた力を発揮する御業です。このスキルを持っている人物を、魔術師と呼ぶのが一般的です。

 ただし、スキル《火炎魔術》を持っている方は、火属性の魔術師か扱うことはできません。スキル《回復魔術》を持っている方は、回復以外に何もできません。伝説には《全属性魔術》のスキルを持っている方もいたらしいですが、信憑性は定かでありません。

 ただし当然、魔術のスキルを持っているということは、他のスキルは持っていないということです。天から与えられるスキルは、一人一つですからね。


「……」


「何だい、いきなりだんまりかよ嬢ちゃん」


 しかし今、ユニコーンは私のスキルブックで、スキル《言語翻訳》を手に入れているはずです。

 もしかすると、スキル《回復魔術》とスキル《言語翻訳》が共存している状態なのかもしれません。

 もしスキルを二つ手に入れることができるならば、私もスキル《言語翻訳》を手に入れた上で、《無限収納インフィニティストレージ》を失わずにいられる――。


「ああ、いえ。失礼しました。ちょっと検証が必要だと考えただけです」


「そうかい。んでアンタ、さっきアンタに協力しろとか何とか言ってたね。ありゃ一体、どういうことだい?」


「ええ。話せば長いんですけど……私、住んでいた場所を追い出されて、この島に流れ着いたんですよ」


「……何だ、島の外の奴だったのか。そりゃ見たことねぇわけだ」


 どうしましょう。

 冤罪で島流しにされたとか言っても、多分分かりませんよね。この島、法律とかなさそうですし。


「まぁ、私としては故郷に帰りたいんですね。そのために協力してほしいんです」


「……よく分かんねぇけど、そりゃアタシが協力してどうにかなんのか?」


「最終目標としては、飛べる方に協力してもらいたいんです。ドラゴンとか。そういう方の背中に乗せてもらって、私の故郷まで飛んでもらえばいいかなと」


「ははぁ」


 なるほど、とユニコーンが頷きました。


「それに、私がドラゴンと交渉しようとしても、問答無用で殺されそうですからね。そのとき、間に入ってくれる方がいると助かるんです」


「岩を出して自分を守りゃいいじゃないか」


「結局、話が通じるまで時間が掛かりますからね。ですから、他の魔物とお話ができる仲間がいれば、そのあたりもスムーズに進むと思うんですよ。それに私、岩を出すことができるくらいで、他に攻撃手段ありませんから」


「ふぅん……」


 まぁ、頑張れば破城弓バリスタ出せますけど。それは言いません。

 ユニコーンは少しだけ考えるように首を傾げて、それから口元を歪めました。


「アンタに協力すりゃ、肉が貰えるってことでいいのかい?」


「はい。別のお肉もありますよ」


「いいだろう。狩りをするより楽そうだし、アンタに協力してやろうじゃないか」


「ありがとうございます」


 話が纏まりました。

 こうして、理論的に話せる相手だったのは助かりますね。メリットをちゃんと提供して、協力を仰げますから。


「ではもうお一方、私の仲間を紹介しますね」


「あん? アンタ他に仲間がいたのかい?」


「ええ。ダックス……あれ?」


 ひゅー、と吹く風。

 周囲を確認しますが、誰もいません。

 私とユニコーンと、風に揺れるレーベの実。

 先程までレーベの実をもぐもぐ食べていたはずのダックスが、どこにもいません。


「……もしかして、逃げられたのかい?」


「逃げたみたいですねぇ」


 はぁ。

 仲間が一匹増えて、一匹減っちゃいました。

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