第8話 やっと言葉が通じました

 試しにやってみましたが、上手くいきましたね。

 私が使うとスキルを上書きしてしまう危険がありましたが、何も私が使う必要はなかったのです。あくまで《言語翻訳》のスキルですから、私と会話をする相手が習得していればいい話だったのですよ。

 ですから、ダックスにスキルブックを読ませてみたのですが、上手くいってくれました。


「ダックス、私の言葉が分かりますか?」


「えっ……ことば、わかる」


「では、改めて名乗りましょう。私はソフィア・ブレンシアと申します。ああ……ですが、今はただのソフィアですね。よろしくお願いします」


「そひあ? おれ、だっくす?」


「ソフィアです。ええ、あなたはダックスです」


「そひあ」


「ソフィアです」


「そひあ」


 ダックス、ちゃんと私の名前を言ってくれません。

 スキル《言語翻訳》は問題なく発動している様子ですが、私の名前を何度も「そひあ、そひあ」と言っています。まぁ、別にいいですけど。私だということは分かりますし。

 そして、こうして会話ができるようになったことは実に僥倖です。


「まぁ、いいです。ダックス」


「なに?」


「ここは、私たちのおうちです。これからは、ここに住みます」


「おうち? なわばり?」


「そんなものです。そして、おうちの中ではおしっこをしてはいけません」


「なんで?」


 こてん、とダックスが首を傾げました。

 とても可愛い仕草です。


「とにかくダメです。分かりましたか?」


「おしっこ、どこする?」


「おうちの外でしてください。そこの入り口から出たら、どこでもしていいです」


「わかった」


 ダックスが理解してくれました。

 やはり、言葉というのは偉大ですね。どう躾けようか考えていましたが、こうして話が通じるようになってくれたら、相互に理解ができるので助かります。

 ダックスは不思議そうに首を傾げながら、とことこと入り口から出て、少ししてから戻ってきました。多分おしっこをしてきたのでしょう。


「おしっこ、できた」


「素晴らしいです。これからは外でするように」


「わかった」


「よろしい。クッキーをあげましょう」


「わぁい」


無限収納インフィニティストレージ》から取り出したクッキーを、ダックスに与えます。もしゃもしゃ食べています。

 ひとまず、ダックスはクッキーさえ与えていれば、私に従ってくれそうですね。


「さて……ではスキルブックをしまっておきましょう」


 ダックスが読んでから、閉じて置いていたスキルブックを取ります。

 どのページを見せたかは全く分かりませんが、少し見ただけでダックスがスキルを習得したことですし、中身を理解する必要はないのかもしれません。

 不思議な本ですね。何故こんなものを、父上は持っていたのでしょうか。

 ただ、扱いには気をつけないと。風で捲れて見てしまって、私がスキルを失うという危険もありますし。


「おや……」


 しかし、私が《無限収納インフィニティストレージ》へとスキルブックを収納すると、そこに奇妙な文字が見えました。


スキル《言語翻訳》の本

 読めばスキル《言語翻訳》を習得することができる。残数99


 先程まで、こんな記載はなかったと思うのですが。

 残数99……つまり、あと99回スキル習得ができると考えていいでしょう。

 あ、これですか?

 これは、私の《無限収納インフィニティストレージ》に収納したものの情報です。使い方の分からない道具とか、簡単な使い方が載っていたりするんですよ。便利でしょう。

 スキル《鑑定》ほど、詳しくは分かりませんけどね。


「ふむ……」


 まぁ、私はあと99回、《言語翻訳》を習得させることができるということです。

 ダックスと同じように魔物を手懐けて、この本を読ませて、会話ができるようにすれば、私の仲間が増えるということです。

 ダックスはクッキーで釣られていましたし、魔物も美味しいものを食べたい気持ちはあるでしょう。今も嬉しそうにクッキーを囓っていますし。

 食料品は、大量に持ってきましたからね。例え肉食の相手がいたとしても、問題はありません。


 ふっふっふ。

 魔物ばかりの島なのでどうしようかと戸惑っていましたが、どうにか道が見えてきました。魔物を従わせて、私を守るために戦わせることができれば、この島でも生きていけるでしょう。

 いえ、むしろ。

 空を飛べる魔物を仲間にすれば、背中に乗って王国に帰ることもできるかもしれません。そしてルークス様に何があったのかを説明すれば、あの一方的な判決も覆る可能性があります。あの裁判、完全に出来レースでしたから。


「……ええ」


 今後の方針が、とりあえず決まりました。

 まず、魔物の仲間を作ります。私の《無限収納インフィニティストレージ》の中に入っている餌で、魔物を従えさせます。そして徐々に強めの魔物を仲間にしていって、最後に翼を持っているドラゴンを仲間にします。

 いっそのこと、私がここに魔物の王国を作ってもいいかもしれません。初代女王として。


「では、ダックス。行きましょう」


「? どこいくの?」


「いえ、特に目的地があるというわけではありませんが」


 立ち上がり、笑みを浮かべます。

 これからどうすればいいのか、方向性は決まりました。ですが、まだやるべきことは多くあります。

 何せ私、この島がどんな形なのかとか、どんな魔物がどこにいるのかとか、そういう情報を一切知りませんからね。


「そうですね……ダックスは、食べるものがある場所を知っていますか?」


「たべもの?」


「ええ。そのまま食べられるものとか」


「うん。れーべ。れーべ、しってる」


「れーべ?」


「れーべ。たべもの」


 ふむ。

『れーべ』が何かは分かりませんが、ダックスはそれを食べ物だと認識しているようです。

 クッキーを美味しいと思うわけですから、味覚がそれほど違うとは限りませんよね。とりあえず当座の食糧は必要になってくるでしょうし、『れーべ』とやらが何かを確認しに行くとしましょう。

 食糧は大量に《無限収納インフィニティストレージ》の中に入っていますが、備蓄も消費しているとそのうちなくなってしまいますからね。既に、ダックスが結構な量のクッキーを食べてしまっていますし。


「では、ダックス。その『れーべ』がある場所まで案内してください」


「うん」


 ここでまず、食べ物を確保します。

 食べ物と寝る場所があれば、とりあえず安心して生きていけるでしょう。

 ああ、でも。

 ちょっと足が疲れてきたので、できれば乗れるタイプの魔物を仲間にしたいですね。

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