第7話 おうち完成

「ダックス。トイレは外でしなさい」


「くぅん?」


「……まぁ、通じないですよね」


 はぁ、と大きく嘆息します。

 ダックスは見た目が完全に犬ですが、習性も完全に犬のようです。自分の縄張りにマーキングするあたり、完全に犬の習性ですよね。

 どうにかトイレの方法というか、場所を教えないといけませんね。そういう情報を知りたかったのに、私の《無限収納インフィニティストレージ》に犬の躾について書かれた本はありませんでした。まぁ、我が家で犬を飼ったことはないので、当然かもしれません。

 まぁ、済んだことはこれ以上気にしないことにします。


「さて……それでは、私の過ごしやすい家を作ることにしましょう」


「わおん」


「ダックスはその辺で待っていてください」


《発動――無限収納インフィニティストレージ

《第六収納庫インベントリ――属性エレメント:家具――分類カテゴライズ:寝具》


「うーん……」


 私の目の前に広がるのは、様々な寝具たちです。

 当然ながら、私が実家で使っていたベッドもありますし、父上と母上が使っていたダブルベッドもあります。ええ。まぁ手当たり次第放り込んできたので、全部入っているんですよ。父上が屋敷に戻ったら、卒倒するかもしれませんね。

 当然、ダブルベッドが置けるような広さではありません。ですから、元々私の使っていたベッドを使うわけですが。


「……ベッドを置くにしても、雨が降ったらもう使えなくなりますね」


 どうにか、屋根を設置しなければいけません。

 ですが、屋根を作ってしまうとどうしても、暗くなってしまいます。火の魔石が入ったカンテラは持ってきていますけど、魔石の中の魔力も貴重ですからね。

 ただでさえ現状、夜になると光源がありません。その状態で使うべきカンテラを、昼間のうちに使ってしまうわけにはいきませんよね。

 ですがさすがに、中で焚き火をするわけにも――。


「はっ」


 そこで、閃きました。

 光源をちゃんと確保しながら、雨の対策もできる方法がありました。


《発動――無限収納インフィニティストレージ

《第二収納庫インベントリ――属性エレメント:資材――分類カテゴライズ:鉱石》


 まず、《無限収納インフィニティストレージ》から結界石を取り出します。

 この結界を、屋根代わりにすればいいのですよ。

 大抵の賊の侵入を防ぐというこれは、純粋に見えない壁が生まれるようなものです。見えない壁ということは、当然ながら水の浸入も防ぎます。つまり、結界石で見えない屋根を作り出せば、雨に悩まされる心配もないということです。

 さらに透明なので、光もちゃんと入るということです。素晴らしいですよね。


「さて……次はどうやって結界石を置くかですが……」


 結界石は、自分の四方に置くことで、四角形の結界を生じさせます。

 ですが、この結界には難点が一つありまして、縦方向に出るんですよ。つまり私がこの拠点の四方に結界石を置いても、四方が守られるだけです。縦方向――屋根はできないんですね。

 そこで発想の転換です。


《発動――無限収納インフィニティストレージ

《第四収納庫インベントリ――属性エレメント:道具――分類カテゴライズ:建設》


 目の前に広がる、収納庫の中身――その中から、私は脚立を取り出します。

 そして脚立を上り、拠点の壁へと結界石を設置します。つまり縦方向にしか生じない結界を、横方向に生じさせることで、壁にしてしまおうという作戦です。

 壁ができない方向は、入り口にしておきます。でないと、いちいち結界石を解除するのが手間ですし。


「うぅん……」


《発動――無限収納インフィニティストレージ

《第四収納庫インベントリ――属性エレメント:道具――分類カテゴライズ:工具》


 ハンマーを取り出して、拠点の壁を叩きます。

 下手に傷つけると、そこから割れてしまう可能性もありますが、これだけの巨岩だから大丈夫でしょう。慎重に叩き、掘り、結界石が入る程度の大きさの穴を作ります。

 それが終わり次第、脚立を動かしてもう一ヶ所に穴を作ります。

 それぞれの穴に結界石を嵌め、地面にも置いたら完成です。


「ふぅ」


 透明の壁が、上にあるのが分かります。

 これで雨が降っても、結界が水の浸入を阻んでくれますね。さすが私です。


「では、お部屋を作っていきましょう」


 そして、ここからは実家にあった私の部屋を、そのまま再現するだけです。

 木製の板を順々、地面の上に敷いていきます。これは資材庫にあったものを、全部突っ込んだ一部です。ちゃんと均一に切られているものですから、床にするには十分ですね。

 そして並べた木材の上に、絨毯を敷きます。私のお気に入りの、花柄のものです。

 最後に、絨毯の上にベッドを置きます。


 私の部屋が完成しました。


「よし。これで完璧ですね」


 少々狭いですが、まぁ安全のためです。我慢しましょう。

 思わず、私はベッドに寝転がってしまいました。ああ、ふかふかで気持ちいいです。

 これからは、私も自分で布団を洗ったりしなきゃいけませんね。


「さて……」


「くぅん」


 それでは、次の課題です。

 安全な場所は確保し、寝床も手に入れました。ちゃんと屋根も作り、絨毯も手に入れました。

 ですが。

 ダックスが犬の習性を持っている以上、この絨毯の上でマーキングする可能性があります。さすがに、そのような暴挙は許せません。

 そのためにも、まずトイレをしっかり教え込まなければ――。


「……あ」


 そこで、私は再び閃きました。

 急いで《無限収納インフィニティストレージ》から取り出すのは、一度は諦めた本――スキルブックです。

 このスキルブックで習得できるのは、《言語翻訳》。

 スキルは一人一つ――ですから、私がこれを読んだ場合、《無限収納インフィニティストレージ》が失われてしまう危険があるのです。ですから、正直使うのを躊躇していました。

 ですが、発想の転換ですよ。


「ダックス、こちらへ来てください」


「くぅん?」


「これを読みなさい」


 スキルブックを開いて、中身をダックスに見せます。

 私はその間、目を瞑ります。僅かにでも見てしまって、私のスキルが上書きされても困りますから。

 というか、使い方これで合っているのでしょうか。分かりません。何せ、スキルブックなんて使ったことありませんし。

 とりあえず、本ですから中身を見せれば――。


「なに? ごはん?」


「――っ!」


「ごはん、ちがう。なにこれ」


 思わず、感動しました。

 耳に届くのは先程と同じ、「くぅん」「わおん」ばかりなのですが。


 その言葉が――ちゃんと、翻訳されて聞こえたのですから。

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