第4話 私のスキル
コボルトが仲間になりました。
まぁ実際のところ、私が勝手にそう思っているだけですけど。
コボルトからすれば、とりあえず敵意のない、食べ物をくれる存在だと思ってくれていることでしょう。ひとまずそれで構いません。コボルトは私の半分ほどの大きさしかないといえ、私自身は非力な女ですから。
戦う手段なんかありませんから、仲良くするのが一番なのですよ。
とはいえ、コボルトが私にどれほど従ってくれるかは、分かりません。多分、ドラゴンが私を襲ってきた場合、真っ先に逃げ出すことでしょう。
そこでまず、私は安全を確保することにしました。
「……このあたりは、安全そうですね」
周囲四方、遠くまで見渡せる平野。
遥か遠くに動いている魔物の姿はありますが、今のところ周りにはいません。そして、こちらに近付いてくる様子も、今のところありません。
まぁ、あくまで今のところです。
魔物たちの気が変わって、その目で私を捉えた瞬間、向かってくるかもしれませんし。
「とりあえず……結界石を置いておきましょう」
保険に、私はスキルで収納していた四つの石を取り出します。
これは結界石といって、並べた石へ魔力を通すと、石が結界を発動してくれるという便利な代物です。本当は、ウーツベルト修道院に到着してから、自分の部屋の四方に置く予定でした。
四方に石を置いて、それぞれに魔力を通すと、私の身長程度の大きさで透明の壁が生まれました。どのくらいの衝撃まで耐えることができるのかは分かりませんが、ないよりましだと思います。一応、父上の部屋からくすねてきたものですし。
「では……あなたに名前をつけましょう」
「グルゥ?」
こてん、と私の言葉に対してコボルトが首を傾げました。
割と、特徴のある見た目をしていますね。まるで大陸にいる犬が、そのまま進化したみたいです。垂れた耳に長い鼻、短い手足――屋敷に住んでいた頃、近所に住んでいた方が散歩していた犬が、こんな顔をしていた気がします。
「では、あなたのことはダックスと呼びます。よろしくお願いします。私はソフィアです」
「……?」
「さて、ではまずご飯をあげますね」
私はスキルを発動して、自分の中に収納しているものを確認しました。
《発動――
《第二
うぅん。
ワンちゃんが食べてもいいものって、何があるのでしょうか。
先程はクッキーをあげたからか、物凄く期待した目でこちらを見ています。まぁ、クッキーがそれほど気に入ったのなら、客間にあったものも倉庫にあったものも全部持ってきましたので、別にいいのですけど。
第二
「ふふ……美味しいですか?」
「アォン!」
「まだまだありますからね。まぁ……今後もずっとこの島で生きていかなければならないとなると、どれほど必要になるか分かりませんけど」
はぁ、と小さく嘆息します。
正直、私自身も収納しているものを全部把握してないんですよね。私を連行した騎士から与えられた時間は、わずか五分でしたから。
とりあえず、目に付くもの全部入れてきたんですけど。五分で回れる部屋は全部回って、見境なしに全部。
何せ、私のスキル――それは、曾祖父ルシード・ブレンシアの《
その名も、《
曾祖父は千人の兵士の槍と食糧を運んだとされていますが、私はそれ以上に運べます。今まで生きてきて収納量に限界を感じたことがありませんから、実際のところ最大でどれくらい運べるのか全く分かりません。
五歳の頃に、屋敷の敷地内にあった別邸を丸ごと収納することができましたからね。あのときは、父にもひどく驚かれました。
あれ。
そういえば、私とルークス殿下との婚約が決まったのも、五歳の頃だったような。
まぁ、もう今更取り戻すことのできない日常であるわけですが。
「はぁ……」
クッキーをもしゃもしゃ食べているダックスを見ていると、癒されますね。
まぁ、ブレンシア伯爵家にあった備蓄を全て持ってきていますから、クッキーの箱程度なら大した量ではありません。
ちなみに生肉とか野菜などの食材は第一
「あ、そうだ」
そこで、ふと思い立って私はスキルを発動しました。
《発動――
《第四
ずらりと、私の頭の中に本が並びます。
元々私は本が好きで、子供の頃には本の虫と呼ばれていたくらいです。そのため、父は私にたくさんの本を買ってくれました。
読んでいるものも読んでいないものも、全部とりあえず収納して、必要なときに取り出して読み返すのがいつものことです。そして今回ウーツベルト修道院送りになりましたので、読む本がなくなってしまうことを危惧して全部持ってきました。
父上の部屋にあった蔵書も、屋敷の地下にあったものも、全部収納しています。そして私の頭の中だけで、そのタイトルが順々に並んでいるのです。残念ながら、作者順とかタイトル順では分類できていませんけど。
「うぅん……」
歴史書、専門書、啓蒙書――実に興味深いタイトルは数多くありますが、今のところ本に耽る余裕はなさそうです。
そして、私の欲しかった本――犬の躾についての本は見当たりませんでした。ブレンシア伯爵家では犬を飼っていませんでしたし、仕方ないのかもしれませんね。
「あ……」
そこで――数多く並んでいる本の中から、異質なものを発見しました。
彫金されて彩られた表紙は、高級そうなのが見た目だけで分かります。恐らく、屋敷から根こそぎ持ってきた本の中の一冊なのでしょう。
それを確認して、思わず体が震えました。
「これ……スキルブック?」
スキルブック。
歴史上でたった一人しかいない、スキル《能力複製》を持っていた人物が残したとされる、とても高級な本です。これを読むと、スキルを一つ獲得することができるという話を聞いたことがあります。
この本を用いてクライン侯爵家がスキル《瞬間移動》を獲得し、ユースタス侯爵家だけが独占していた《瞬間移動》事業を引き継いだという話は有名です。
まさか、こんな高級なものがあったとは。
「……」
しかし、悩むところです。
スキルブックを用いて新しいスキルを入手した場合、本来持っているスキルがどうなるのか――それが、私には分かりません。
スキルは一人一つ。それが原則です。
このスキルブックを使うことで、私は新しいスキルを手に入れることができるかもしれませんが、同時に《
ただ。
もしこれが重複するのならば、私は《
「スキル……《言語理解》の書」
特に、そのスキルは。
ソレイユ王国では無用の長物とされているスキルの一つで、古代語を翻訳する学者くらいしか役に立たないものではありますが。
「アォン!」
「……」
今の私にとっては、物凄く必要なものですから。
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