Re:第百七十六話

武田陣営では、津城の大手門への大筒による砲撃のほんの少し前に、後方から奇妙な音と共に黒い玉が頭上を通り過ぎて行き、城付近で爆発したのを見ていた信玄は心底、織田信長に対し畏怖の念を改めて抱くのだった。



信玄「アレが織田家の切り札である大筒の威力か…(信長という男は、本当に人か?)」


勘助「海上の小船を破壊した光景は遠くて分かり難くかったでございまするが… まさかこれ程の威力があるとは、驚きでござる。」


幸隆「勘助よ。威力も然る事乍ら、あの飛距離は凄いぞ!あの場所から城を攻撃出来るのは脅威の何者でもないですぞ!殿。」


「うむ。我ら武田が、上杉に敗れていたら滅んでいたのは明白だ。織田家には甲斐を取られたとは申せ、家臣に成れたのは本当に良かったと言えよう。」


勘助「でございまするな。しかし、噂ではあの上杉謙信も織田信長と敵対したくないとの事。よもやとは申しまするが、上杉家も大殿は取り込めるのでは?そんな気が致しまする。」


幸隆「勘助の申す通りなら、武田家の最大の好敵手が同じ味方通しで合戦にて敵を屠る事も夢ではありませぬな!殿。」


「うむ。その様に成れば… よし、大殿が城の門を破壊してくれたのだ。我らはこのまま城内になだれ込み、大河内城からの援軍が到着する前に城を落とすぞ!総攻めじゃあぁぁぁ!かかれぇぇぇいぃぃ!!」



”おおおぉぉぉぉぉ!!”



武田信玄率いる12000の騎馬隊が津城へと駆けて行ったのだった。




その光景を後方から見届けた織田大筒隊を指揮する信長は

「これで、大河内城からの援軍が到着する前に津城を信玄が落とすであろう。」


猿「大殿!某もやっと分かりました!その援軍に津城の陥落を見せ付け、北畠家を降伏させるという策で合っておりまするか?」


「大体は合っておるが、降伏したところで北畠家に連なる者共は女子供関係なく、皆死罪であるがな。後顧の憂いは断って置かねば、いらぬ争いが起きるのでな。」


猿「これも戦国の世の習いでございまするな…」


「だが、そんな悲惨な事はワシが天下統一した暁のは、天下泰平の世に成ると信じておる。それまでの辛抱だ!」



そして、織田信長率いる大筒隊と織田信勝率いる鉄砲騎馬8000は、美濃の稲葉山城へと帰るのであった。




その頃、津城では武田の猛攻に為す術もなく、城主・神戸具盛とその配下の木造具政は捕らえられ、常駐兵は尽く武田軍に殺されたのであった。



信玄「城主とその配下の武将は殺さず、縄で縛ってその辺の木にでも縛り付けておけ!それに、もうそろそろ大河内城からの援軍が陥落した津城を見る頃であろう。」



その信玄の言葉通り、大河内城からの援軍を率いる北畠具教は津城からの黒煙を目にしていた。



具教は津城を見て呆然とし一言

「なんという事だ…」


そして、海岸を見た足軽兵が

「具教様!海岸に散乱する船の在外や死体は九鬼水軍の物では?」


具教も慌てて津城付近の海岸を見て

「既に、九鬼水軍も敗退しておったか… この分だと、神戸らも生きていまい… 皆の者!不本意なれど大河内城へ退却し、この事を大殿に申し上げる事にする!」



そして、大河内城からの援軍は退却を余儀なくされた。



(北畠家もこれで終わりだな… 尾張の『うつけ』に負けるよりマシだ。あの武田と戦って負けたと後世に伝われば、いくらかでも死んで逝った者達も浮かばれるであろう…)

と、考えていたが後日に、その武田家が織田家の一家臣に過ぎない事を知る事となるが、それは今の具教は知らない事だった。



武田軍の将らは津城の西の方角から軍勢が来て、すぐさま進む方向を変え帰って行くのを見た。



勘助「援軍が退いて行きまする!殿。」


「それは賢い選択だが… このまま追撃するぞ!皆の者、進めぇぇぇ!」


”おおおぉぉぉぉぉ!!”

と、追撃を開始いた武田軍は、津城を落とした次の日に大河内城の城主にして当主の北畠晴具の降伏を受け入れたのであった。



その後、真田一門は津城や大河内城の後処理を行う様に信玄が命令して、その信玄は勘助と共に北畠晴具を始めとした北畠家に連なる者達や家臣達の全てに縄をかけ、伊勢と尾張の国境にある一向門徒衆の砦・長島の直ぐ近くにある、とある場所へと目隠しをし搬送したのであった。



その中には津城の神戸や木造の姿もあった。



とある場所に到着した、武田信玄と山本勘助は捕虜を信長の指示で中央の広場らしき所に座らせ、捕虜の北畠晴具と具教の目隠しを外させたのであった。



その時の北畠具教の驚き様は、それはそれは凄かった。



具教「な?!あの幕の刺繍は織田木瓜だと!?」


北畠晴具は具教の言葉で、この侵攻を企てたのが織田家である事を悟り

「具教よ… 武田家は織田家に支援を頼んだのではないぞ。」


「それはどういう事でござえるか?大殿。」


「見て見ろ!あの中央に踏ん反り返っている奴が織田信長であるのは間違いない。その横の派手な兜を被った御仁が武田信玄だが、明らかに織田信長が上座で、武田信玄が下座に座って、しかも椅子が織田信長よりも劣るのが分かろう?」


「そう言えば… まさか、この侵攻を画策したのは武田では織田という事なのでござるか?」


「いや、アレが本当に武田信玄なら…(まさかとは思うが、武田と織田が同盟を結んだというのは真っ赤な嘘で、織田が武田を従えてるのではないのか?それならば、全ての辻褄が合うのじゃがな…)」

と、北畠晴具は考え込む。


具教「大殿?いや、父上!黙り込んで、どうしたのでござるか?あの『うつけ』がこの様な策を考え付くとは到底思いませぬが?」


「お前は噂だけを信じておるようだが、あの織田信長という男は『うつけ』ではないとワシは思うがな…」


「如何にも、阿呆そうな奴がでございまするか?(ついに父上も耄碌したと見える…)」



その親子の会話に信長が問いかけるのであった。

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