Re:第百七十五話

信玄「敵を見る限りでは篭城で間違いないが、大殿が申す通りなら待つ必要が無いな。」


勘助「しかし、大殿は北畠晴具に大筒による攻撃を見せ付けると申しておりましたが?」


「いや、当主自ら援軍を率いて出陣すまい。今回の最大の目的は九鬼水軍を手に入れる事だ。大殿は北畠家を滅ぼす行為自体は、物のついでであろうとワシは思っておる。」


幸隆「殿の考えに某も賛同致しまする。今の織田家の力は凄まじいですからな。」


勘助「それもそうでございますな。では、総攻めで一気に攻め滅ぼしまするか?」


「いや、そんな事をすれば大殿のから借りた兵を無用に殺してしまうではないか!それよりも、矢の届かないギリギリまで軍を進めてみるというのはどうじゃ?勘助。」


「威圧でございまするな?殿。」


幸隆「それで相手の出方を見てみるのも一興でございまするな。」


「うむ。では皆の者、横四列の縦陣形を組み行進せよ!尚、陣形の構築は全て昌幸に任せる!」


昌幸は目を輝かせ

「若輩の身の某を… 殿の思うままに構築、再編を行って見せるよう努力致しまする。」


「うむ。では進軍開始じゃ!」



こうして、武田信玄率いる12000の騎馬隊が伊勢・津城へ進軍するのだった。




その頃、海上からの援軍が来るであろう海岸付近に織田信長の軍勢が新型の大筒の設営に取り掛かっていた。



信長「猿!その部分はあっちへ!この部位はそこじゃ!」


「はっ!心得ました。」

と、信長は猿こと藤吉郎にアレやコレやと命令し大筒を組み立て、ようやく1基設営出来たのだった。



信長「今の工程を皆覚えたな!その通りに全ての大筒の組み立てを急げ!分からない者は猿に聞くが良い!」


”おおおぉぉぉぉぉ!”




時を同じくして、九鬼水軍の拠点と成っている浮き城としても有名な鳥羽城に津城城主・神戸具盛の早馬が到着していた。



海賊兵「お頭!北畠家の神戸様から援軍の要請が来ておりやすぜ!どうしやすか?」


「援軍だと?いったい、どこのどいつが攻めて来たんだ?」


「何でも、武田家が攻めて来たとか言っておりやすが…」


「武田?甲斐の虎の、あの武田か?」


「いや、我らにはわかりやせん。武田としか… 申し訳ありやせん。」


「いや、お前らに聞いたワシが悪い。(噂には聞いていたが、本当に攻めて来るとな!相手が相手だけに、良い噂が広まるな… よし、ここは我ら水軍の恐ろしさを見せ付けてやる必要があるな!)よし、お前ら船を出せ援軍に向うぞ!」


”おおおぉぉぉぉぉ!”

と、小船500隻に乗員2500人の海賊達が津城の東の海岸へと向ったのであった。



そして、武田軍が城の目の前まで迫って来てる津城城内では、物見兵が慌しく城主・神戸具盛に報告していた。



「申し上げまする!現在、武田軍と思しき軍勢が矢の届くギリギリの辺りまで来て、こちらが撃って出るのを待っておるようでございまする!」



木造「挑発行為は無視して構わん!絶対に軽率な行為をしないように徹底させよ!」


「伝令!」


「今度は何だ?」


「はっ!九鬼水軍と北畠具教様の軍勢が城を出たとのよし!ご免!」


神戸「皆、援軍が到着するまでの辛抱じゃ!」


木造「しかし、妙ですな…」


「何がだ?」


「織田と同盟を組んだ訳でございますれば、その織田軍はいったい何をしておるのかと思った次第でございまする。」


神戸具盛は木造の言葉で何かに閃き

「そうか!やつらも、織田の援軍を待ってるやも知れんな!これは不味いぞ?」


「それが本当なら、我らの援軍より先に織田軍と合流されては勝ち目なぞありませぬぞ!殿。」


「時間との勝負か…」



来るはずのない援軍に怯える神戸を尻目に信玄陣営の勘助が

「殿!海岸をご覧下さい。無数の小船に足軽らしき者達が…」


「むう。船の速さを舐めていたな…」



そこに、武田軍の後方から雷が遠くにいくつも落ちた様な音が聞こえたと思ったら海岸に接近していた小船が木っ端微塵に成っていくのが見えた!



信玄は目の前で起こってる光景に驚愕し

「大殿の大筒か!凄まじい威力であるな!」


勘助「いやはや、感無量でございまするな!水軍のあの慌て様は尋常ではございませぬな!」


幸隆「まさに!勘助の申す通りだ!味方で良かったと、本気で思うぞ!」



その時、海岸付近で砲撃を受けていた水軍の九鬼嘉隆はどうする事も出来ずに呆けていた。



海賊達も今何が起こっているのか把握出来ず

「いったい何がどうなってるのやら… お頭?お頭!!」


嘉隆「…すまん!ワシも訳が分からん!ええい!これ以上、お前らを失うわけにはいかん!この海域から離れよ!急げ!(複数の雷が遠くで鳴ったかと思うと、船が吹き飛んだぞ?!ワシは夢を見ておるのか?この戦いは、何かがおかしい… ワシはいったい何と戦っておるのだ?)」

と、原因不明な敵に困惑し、ほぼ壊滅に近い状態で九鬼嘉隆率いる水軍は撤退したのであった。



津城の神戸らも海岸で小船が吹き飛ぶ光景を見て、皆震え上がったのだった。



物見兵「も、申し上げます… 九鬼水軍が撤退していきます…」


神戸「そんな物、見れば分かるわ!(しかし、いきなり船がバラバラに成ったのはいったい… 武田の者も驚いていた事から、武田軍の仕業ではないのは事実だが…)」


木造「水軍が来ないとなると、もはや勝ち目はありませぬぞ!如何致しまするか?殿。」


「ワシに聞かれても… ん?何の音だ?」



”ひゅるるるる…”


”どおぉぉぉぉぉんん!!”

と、変な音が聞こえて直ぐに城全体が揺れる程の轟音が鳴り響き、城の正門(大手門)が海岸の船の様に吹き飛んだのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る