Re:第百七十四話
信光「そういえば大殿の軍勢に、大筒にどの弾を使うのでござるか?」
「今回は飛距離を稼ぐために、例の試作弾を使おうと思う。」
「アレなら海上の船に命中さえすれば効果的面でございまするな!」
「うむ。今回の大筒も新式の固定砲台を使う!前回と同じで、現地で組み立てる予定だ!その数100基。」
「それはまた豪勢ですな。甲斐の金山様様でございまするな、大殿!」
「それだけでは無いぞ?叔父上。本願寺殿の一向門徒衆の者達が大勢、鉱夫として働いてくれているから、こんな事が出来るのだ!」
「大殿の先見の明は凄いとしか言いようがありませぬな!(昔、『大うつけ』と馬鹿にしていたのがワシにとって痛恨の失敗であったと、後悔するばかりじゃ…)今回の合戦は武田殿の復帰戦でございまするゆえ、奮闘に期待大でございまするな!」
「うむ。盟友の謙信殿は信玄の戦いを間近で見ていたが、ワシらは知らんからのぅ… 今回の戦いを楽しみにしたいところではあるが、城攻めだから自慢の陣形戦が見れないのが残念だ。」
そして、信長は出陣する武田信玄とその配下に命令を下した!
「計画通り武田信玄を総大将とした北畠家殲滅に際し、手始めとなる伊勢・津城に向け出陣致せ!武運を祈る!」
”おおおぉぉぉぉ!!”
武田信玄は風林火山の旗を靡かせ出陣して行ったのだった。
その勇姿を見送った信長は
「ワシらも行くぞ!!信勝の軍勢はワシの小荷駄隊の後方から付いて参れ!」
「はっ!心得ました!」
「では皆の者、出陣じゃ!それから、猿!ワシの戦い方を学べ!よいな!(とは申したが、あまり戦術を教えるのは… むむ。)」
「はっ!しっかり見聞致しまする!(大殿の期待に応え、あの阿呆から解放して頂けた御恩を返さねば!)」
こうして、織田軍は北畠家支城である伊勢・津城へと侵攻を開始したのであった。
その次の日の朝、津城を守る神戸具盛に武田軍襲来の報が入り、すぐさま大河内城の北畠晴具に早馬を走らせた。
神戸「まさか本当に武田が攻めて来るとはな。皆の者!ここは大殿の指示が来るまで篭城して城の守りを固めよ!(おかしいだろ?何故、織田と同盟を結んだのに伊勢へ進軍してくるのだ?美濃を抜け、近江へ向うのが普通であろうに!それに一向門徒衆の長島を素通りとは… いったい、どうなっておるのだ?)」
「「「ははぁぁぁぁ!」」」
津城城主・神戸具盛の側近である木造具政は
「殿。敵の、おおよその数が分かりましたぞ!騎馬兵のみで約10000でございまする!」
「何だと?!しかも、あの武田の騎馬隊だぞ!?どう対処すれば良いのか皆目検討がつかん!」
「ここは大殿の考えを聞く前に九鬼水軍へ援軍の要請を致す方が良いかと思われまする!」
「ワシもそうしたいのだが、金が無い!あやつらは金が無いと動かないではないか!」
「ごもっともな意見なれど、後で二倍の報酬を出すと申せば大丈夫かと!なに、大殿に某から頼めば成功致しまする。」
「うむ。それは名案だな。あい分かった!至急、早馬を出し九鬼水軍の嘉隆殿へ援軍の要請を!」
「はっ!(馬鹿め!そんな金、ワシがお前の為に具申などするか!貴様は責任を取らされ打首だ!その後、ワシが津城の城主となるのだ… くくく。)」
その数刻後に大河内城の晴具の耳に武田家来襲の報が届いた。
晴具「何じゃと?!もう来てしまったのか!こうしてはおれん!直ぐに津城へ援軍を送れ!具教!お前が5000の兵の指揮を取れ!」
「はっ!直ぐに向いまする!」
「頼んだぞ!(具政の事じゃ、九鬼嘉隆に援軍の要請をしてるに違い無い。津城を落とされては、この山城の大河内城だけでは到底防ぎ切れんからな… 頼んだぞ!我が息子達!)」
時を同じくして、武田軍では津城が見える辺りに陣を構えていた。
勘助「御館様、おっと殿と申した方が宜しいですな…」
「そうだな… もう御館様ではないからのぅ。で、何じゃ?」
「はっ!あの織田信長という男は、本気で天下を取るつもりなのでござろうかと… 某は織田信長に賛同した身であれ、本当に実現出来るのかと思っておりまする。」
「我が甲斐の国を我らが信濃に侵攻した隙を狙って、攻め落とせる事自体が異常だと思わんか?しかも、兵を一兵も損なわずにだ…」
幸隆「それについては、返答のしようがございませぬ。あの大筒とか申す飛び道具には驚かせられました。」
勘助「信長は、我ら配下に『ワシはお前達に命令を下す事は無いに等しい。信玄の命令のみ実行せよ。』と申しておったので、某は殿を信じて戦うまででございまする。(普通に考えれば武田家に関わる者全員が極刑に成っても当たり前なところを… やはり『うつけ』と呼ばれた信長様は、このワシの智謀の遥か上を行くのかも知れん!信玄様でも無理であった天下統一、生きてる内に見たいものよな…)」
「うむ。(あの男は勘助達にそのような事を申しておったのだな… 本当に大きな男であるな…)では、軍儀に入るとしよう。」
【北畠晴具:西暦1503年生~1563年没。かつて近畿の動乱に介入していたが成果を得られず自領である南伊勢の支配体制を磐石にする為に貢献した。】
【神戸具盛:出生不詳~没年不詳。伊勢の豪族出身で、信長が伊勢へ侵攻した際に講和し、信長の三男・信考を養子に迎えるが、信長の機嫌を損ねて近江の日野城に幽閉される。その後、信考が四国討伐に参戦する際に幽閉を解かれた留守居を任されたとか。】
【木造具政:出生不詳~没年不詳。晴具の三男であるが、本家の庶流である木造家を継いだが、兄・具教が当主に成った際に背いて織田家に鞍替えした。その後、北畠家を信長の次男である信雄が継ぎ仕えたとか。】
【北畠具教:西暦1528年生~1576年没。南伊勢を支配下に置き、勢力を伸ばそうと画策していたが、信長の侵攻が思いの他早く、信長の次男・信雄を養子に迎える事で和睦に同意した。その後、隠居して間もなく信雄に謀殺された。剣豪としても有名であったが老いには勝てなかったらしい。】
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