Re:第百七十参話
時は過ぎ、弘治2年(西暦1556年)5月になり、ついに伊勢志摩を支配している北畠家の織田軍の津城へと侵攻する為の軍儀が行われていた。
信長「今月から北畠家に対し侵攻を開始する。そして、数ヶ月前に風魔衆と服部一族を使い、上杉との合戦で大敗を喫した武田家が織田家と同盟を組んで織田領を通り上洛を目指し伊勢志摩を狙っているという情報を流してあるので、今回の総大将を武田信玄に任すものとする!」
柴田「大殿!まだ織田家に来て日が浅い武田殿を総大将にしては皆の士気に関わるかと!」
「何じゃ?ワシの采配に不満でもあるのか?権六!」
と、信長は勝家を睨み付ける。
「いえ、けしてそのような事は無いのでございまするが… 全体の士気の低下が心配に成っただけでございまする。」
「士気、士気と申すが、あの甲斐の虎と恐れらてる武田信玄が総大将になるのだぞ?士気が下がるわけが無かろう?(こやつは何故、仲間内で偏見を持つのだ?そういうところが出世の妨げに成ってるのが分からんのか?)今や信玄はワシの家臣じゃ!無用な心配はするな!」
「はっ!申し訳ございませぬ。(何故、大殿は古参の家臣を蔑ろにするのだ?このワシが総大将にさえなれば北畠家なぞ簡単に落とせるというものを!口惜しや…)」
信長「先程の話に戻るが、ワシの読みでは津城を落とせば北畠家当主・北畠晴具は降伏する!」
その狂言に居ても立ってもいられなかった明智光秀は
「大殿!それはいくらなんでも、世迷言にすぎまするぞ!」
信長「世迷言か… まぁ聞け!まず信玄が津城に攻撃を仕掛けるが、城主・神戸具盛は間違いなく大河内城の晴具と九鬼水軍に援軍要請する。そこで、晴具の軍勢と九鬼水軍の到着を待ち、我が織田家が誇る大筒で九鬼嘉隆の旗艦以外を集中攻撃するところを北畠晴具に見せ付けるのだ!いくら阿呆でも、自軍との戦力差が分かるであろう?これでも、狂言と申すか?光秀!」
「大筒で織田家の力を見せ付け、陸では武田信玄の脅威をという事でござるか… さすがは大殿でございまするな。感服致しました。」
「(こやつに感服すると言われても、嬉しくもなんともないがな。)うむ。では改めて、武田信玄に命ずる!敵を完膚なきまで殲滅し、武田の力を見せ付けてこい!」
全く発言せず傍観者を決め込んでいた信玄は
「大殿!身に余る光栄でございまする!仰せの通り、この武田の恐ろしさを骨の髄まで分からせてやりましょうぞ!で、殲滅とは文字通りの意味で宜しいのでしょうか?」
信長は信玄の問いかけに頷くのだった。
信玄は一呼吸おいて
「はっ!織田家家臣に成って初めての戦、必ず勝利を収めますると誓いまする!しからば、風林火山の御旗を再び掲げても宜しいでござるか?」
「好きに致せ!先程も申したが、敵の援軍には目もくれず城攻めに慢心致せ!」
「はっ!」
信長は信玄を見つめて
「では、今回の戦に際し武田信玄に騎馬12000を与える!」
「某に12000もの騎馬を… ありがたき幸せ!」
「うむ。良き働きを期待しておる!次に後詰めはワシ自ら指揮をする!」
信勝「大殿自ら出向くとなると、その護衛が必要になりましょう?ここは某にお任せ頂きたい!」
その発言に勝家が
「信勝殿に大殿を任すのは危ないかと!ここは某が承りとうござる!」
信勝は勝家の発言に不服そうな表情を浮かべ
「危ないとはどういう事でございましょう?権六。」
「権六?呼び捨てでございますかな?今は同じ身分でございますれば、呼び捨ては、些か…」
と、半笑いで信勝を見た。
信勝「こ、こ、これは失礼致した。柴田殿… で、危ないとは?」
「そのままの意味でござるが?貴方は以前、大殿に謀反を起こした身でございまするぞ?もし、また魔が差す事があればと思うと…」
「またその話でございまするか… もう某は改心致し大殿と仰ぎ日々、大殿や織田家に尽くしておりますれば、何も問題ありますまい!」
「一度でもそういう行為をされた者は、一生そう思われてもおかしくないのですぞ!それはさておき、合戦経験も無い青二才がよくも大殿の護衛をするとか… 片腹痛いわ!」
そのやり取りを、ずっと聞いていた信長は
「(柴田勝家とは、こんな奴だったか?何なのだ?この嫉妬深さは… 家康に妹の市を嫁がせる事をまだ根に持っておるのか?なさけない!)いい加減に致せ!耳障りじゃ!権六!今更、信勝に呼び捨てを直せとか申すな!かつての、お前の殿であろう?それに、信勝はワシの弟じゃ!ワシはあの謀反の件は許したと申したのに、いつまでも女々しいぞ!」
勝家は奥歯をギリギリさせて
「も、申し訳ございませぬ…(またじゃ!大殿は某を軽んでござる… よそ者や謀反者に甘すぎる!一度、大殿に灸を据えねば…)」
信長は溜息を付き
「では、信勝に命ずる!鉄砲騎馬8000でワシの軍勢に参陣する事を許可する!ワシを守ってみせよ!」
「はっ!そのお役目、確かに承ったでございまする!」
と、闘志を燃やしたのだった。
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