Re:第百七十話

酒井「大殿は何と申して来たのでござるか?」


「小田原城に5万の兵が収容出来るようにしろと無茶な命令が…」


「しかし、やらねばなりませぬな。大殿は本格的に北条家を滅ぼすおつもりでしょうから… それに大殿の妹の市姫との婚儀もございます。忙しくなりまするな。」


「うむ。とりあえずは検地の確認から始めて、労働力は大殿の意向である一向門徒衆から優先に雇い入れるように手配致せ!5万という事はその3倍の兵を養えるだけの兵糧を溜め込む必要があるな。皆を総動員して、励むと致そう!(今回の戦に参加出来ませぬが、信長様なら簡単に勝つと信じておりまするぞ!)」

と、家康は無茶な命令を実行しつつ、信長の勇戦も祈るのだった。




そして、西暦1554年の最後の定例評定の日を迎える。



家康を除く、新たな家臣と古参の家臣が一同に介したのだった。



信光「これより、大殿が皆の割り当てを申すのでしっかり聞くように!では、大殿。」


「うむ。まず初めに新たに家臣となる者の紹介だが、真田信綱、真田昌輝、真田昌幸、山本勘助、竹中半兵衛、猿、山内一豊、毛受勝照、村井長頼、溝口秀勝、前田慶次、堀秀政、堀直政、拝郷家嘉、加藤光泰、奥村永福、浅野長吉。そして古参衆の、斉藤利三、溝尾庄兵衛、水野信元、太田牛一、生駒親正、村井友閑。この者達は足軽大将とし禄高10貫とする。次に、坂井政尚、滝川一益、前田利家、佐々成政、真田幸隆、松永久秀、森可成、池田恒興、信包、風魔小太郎、明智秀満。この者達は侍大将とし禄高50貫とする。不平不満があると思うが後で説明する。次に、信光、信勝、政秀、柴田勝家、丹羽長秀、河尻秀隆、明智光秀、蜂須賀正勝、武田信玄、佐久間盛重。この者達は家老とし禄高100貫とする!」



この待遇に対し真っ先に不満を述べたのが竹中半兵衛であった。



竹中「大殿に申し上げる。何故、某が籐吉郎と同じ扱いなのか説明して下され!」


その問に激怒したのが叔父である信光で

「大殿の意向にケチを付けるとは言語道断じゃ!」


信長「叔父上、そう噛み付くな。その前に軍師の任も解く事にした。(この者は、前世の時より馬鹿だな。まぁ、ワシが全ての元凶であるのは確かではある。許せよ、本来の竹中半兵衛よ。)」


「な?!軍師までも… どうして?」


「お前の配下にと猿をつかわせたが、あの者をどう扱っていた?正直に申してみよ。」


「籐吉郎は聞くところによると百姓の出と聞きましたので、それ相応の仕事を与えておりました。」


「それ相応とは?具体的に申せ。」


「某の身の回りの世話や、言付けを命じたりと百姓の出なら、これくらいが妥当だと…」


「馬鹿者!!そんな事をさす為に猿をお前にあてがったのではない!あの者を使えるように教育してもらう為じゃ!それを…」


「そんな理不尽過ぎまするぞ!」


「理不尽に思ってるのは猿も同じだ!まさか、使い走りや自分撒いた種を猿にやらすとか有り得ん!恥を知れ!」


「使い走りは否定しませぬが後者は知りませぬ!(全く身に覚えがない!大殿は何を申しておるのだ?)」


「ほう… 知らぬか。井ノ口で女が殴られているの助けたまでは良かったが、その後お前は何をした?」


「何を申しておるのか分かりませぬ!(全くの言いがかりだ!本当に大殿は何を…)」


信長は一呼吸おいて

「まだ白を切るつもりか?証人がおるのだがのぅ… まず猿、申してみよ!」


籐吉郎は半兵衛を直視せず

「あ、あの、い、井ノ口の件だけで申しますと… 竹中様は女を助けた後、某にならず者の相手をさせ後処理までさせられました。し、しかも硝石の…」


「と、申しておるが?(猿が萎縮しておるな。こやつ、ワシが思う以上に猿を酷使したのか?)まだ思い出さんか?」


「はて、何の事でございましょうか?」


痺れを切らした権六が

「おい!竹中とやら!いい加減に致せ!大殿が親切に教えて下さってる内に白状致せ!」


「そうは申されても、知らぬ物は知らぬので…(もしかして、あの時か?籐吉郎は私の事を大殿に密告などせぬ!だとしたら、あの女が… ゆるせん!)大殿、思う出しました!これまでのご無礼、申し訳ございません。しかしながら、籐吉郎が申した事はでたらめでございまする!そうであろう?籐吉郎。」

と、籐吉郎を睨み付けた。



籐吉郎は恐る恐る半兵衛を見て頷いた。


竹中「大殿。籐吉郎も何かの思い違いみたいとの事です。それはそうと、その女が某を貶めようと思って大殿に密告したと考えるのが妥当かと!その女を追及しては如何かと!」



その、やりとりを隠れて見ていた松永は笑いを堪えるのに必死であった。


(大殿も人が悪い。あの阿呆は、その女が今の大殿の側室とは知らんのだろうな!これは大殿から目を離さぬ様にしないとな、指示が… そら来た!)


信長は無言で松永が潜んでいる方に指で指示を出した。


その事でピンと来た松永はすぐさま奥座敷に居る、信長の側室・八重を呼ぶ事にした。少し趣向を凝らして…



そして信長は再び

「(竹中半兵衛の物忘れの酷さは、ワシの歴史改ざんの影響としか思えんな。)その女に会わせてやろう。少し待っておれ!(あの松永の事だ… 八重を普通に会わす事はないだろう。)」



暫くして松永は八重に指示をし、あたかも井ノ口から呼び寄せた風を装い評定の間に顔を出したのであった。


この八重が側室とは、まだここに集まってる者達は噂しか伝わっておらず、まだ顔を見た者は皆無で、唯一側室だと知ってるのは、ここに居る信光だけであった。


しかも、その素性は信長と帰蝶と信勝と松永しか知らない。


その信光も、みすぼらしい着物を着た町娘としか認識されない変装ぶりだった。



信長「待たせたな。この女がお前に助けられた者だ。そうだな?」


八重「はい。私はそのお侍様に助けられたのですが、実際に助けてもらったのはそこの猿に似た猿の方です。」


籐吉郎は間髪入れずに

「そこの女!某は猿に似てるだけの人間だ!前にも申したではないか!」


信長「お前達は顔見知りか?(知ってるけどな!)」


その問に籐吉郎は信長を見ず半兵衛の方を見ると恐ろしい形相で睨まれ

「い、いえ… 今日、初めて会いました。某の見間違いでござる。」


竹中「おい女!某も初めて会うと思うのだが?気のせいではないのか?」


「いえ、私が男に襲われていた時、最初に声をかけてくれたのが貴方でございます。間違えようがありませぬ。」


半兵衛は信長を見て

「(強情な女め!)大殿。この女と直接話す機会を与えて下さい。」


「どうするつもりか知らんが、それは出来ぬ相談だ!」

と、信長は半兵衛から信光に視線を変え

「おい女、あの者の側に向かえ!」


女が信光の近くまで行くと信光は

「な!?」


八重は信光に小声で

『信光様、声を荒らげないで下さいませ。ここから良いところですから…』


『そういう事でござったか!分かり申した!某があの男からお守り致しまするぞ!』



半兵衛「(何故、信光様のところへ?)いったい、どういう事でございましょう?それにあんな町人娘風情など、大殿にとってどうでも良い事でございましょう?某が、この織田家家臣の某の申す事が信じられぬのですか?」


「お前にとっては町人娘風情でも、ワシにとっては違うのだ!皆のも!よく聞け!噂で知ってるとは思うがワシは、つい最近側室を迎えた!祝言は織田家血縁のみで質素に行ったがな。その側室というのが、そこに居る八重だ!」



皆は驚いて、一斉に女を見た。



信光「控えぃ!こちらは織田信長様の側室・八重様である。皆、頭が高い!」



すると、半兵衛以外の家臣達が一斉に頭を垂れたのだった。



信長「これでも、まだシラを切るつもりか?ワシの隠密である松永久秀も、それにワシもアノ場に居合わせていたのだがな…」


「なっ!?まさか、あの女が… 大殿の側室ですと!?某を貶めるのが、そんなに面白いでござるか?」


「阿呆ぬかせ!貴様を貶めて、ワシに何の得があるのだ!それより何故、非を認めぬ?猿と同格がそんなに嫌か?軍師を解任されて、そんなに屈辱か?なら、もう一度ワシに認めさせたら良いだけの事では無いのか?」


半兵衛は上唇をかみ締め

「うむむ… その女が全ての元凶で、次に藤吉郎!貴様も同罪だ!」

と、半兵衛は信長の小姓が持っている刀を奪い取ろうとしたが松永久秀に投げ飛ばされ、直ぐに起き上がって八重に襲いかかったが信光と、その近くにいた勝家や長秀に押さえ付けられたのだった。



信長「哀れな男よの… 引っ立てて牢に放り込んでおけ!追って沙汰を待て!この馬鹿者が!」



半兵衛が連れて行かせて、皆は歓喜に沸き改めて家臣一同が八重を側室として迎えたのであった。



信長「まぁ、余興はこれまでだ!八重。奥で帰蝶と今の事を話してやれ!さて、本題に戻るとしよう。各家老には配下を与えるが、あの馬鹿者と同じ過ちをせず、配下に成った者を大切にし上手く使え!良いな!」


家臣一同

”ははあぁぁぁぁぁ!”



捕らえられた竹中半兵衛は、この後とんでもない事をやらかすのだが、それはまだ先の事であった。

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