Re:第百六十八話

信長は光秀の優秀さに目を付け、織田家の財政を任せていた。



その明智光秀は信長に200貫を用立てるように命令を受け、その資金の事で信長と会談していた。



光秀「大殿。200貫の事でございまるが、この城には金子しかございませぬ。」


「うむ。予想はしていたが… さて、どうしたものか。」


「その資金は何に必要なのでござるか?」


「ワシの側室に成る家への結納金だ。」


「あの噂は本当でしたか。しかし、200貫とはまた随分… どころか少なすぎませぬか?」


「それがな… 相手の親代わりはワシが織田信長だと知らんのだ。」


「なんと!?」



信長は光秀に詳細を話した。



光秀「あの庄屋の娘が側室として織田家に来ると、しかし奥方様の顔を覚えていないとは…」


「うむ。帰蝶はかなり怒っていたのでな… では、資金は金子で用立てるとしよう。後は、籠の用意も頼む。」


「はっ!すぐ、秀満に伝え用意させまする。」




次の日の朝、信長はまた商人風を装い井ノ口の町の庄屋へ向った。



信長「頼もう!」


祖母「用意出来たのかえ?」


「籠を用意したので、某と一緒に来て下され!」


「うむ。八重!共に参ろうぞ!」


「もう!どうなっても知りませぬよ!」


「まだそんな事を申しておるのかい?さあ、早く籠に乗って無様な屋敷を見てやろうではないかい!がっはっはっは!」

と、意気揚々と出発したが祖母が変な事に気付き

「おい!いったい何処に向っている?」


「何処と申されても、某に屋敷へとしか言いようがないがな…」


「屋敷?あれは今は無き斉藤道三の城で、今は織田の『大うつけ』信長の城に成ってるはずだが?」


八重「いえ、お婆様。あの城で合っています。」


「は?意味が分からん!(城の裏付近にでも行くつもりか?)」


そうこうしている内に、城の大手門前まで来て信長が

「開門!!」

と、叫ぶと大手門が”ぎいぃぃぃ!”と重そうな音を立てて開いた。



すると、物凄い数の足軽達が真ん中の道を隔てて両方に列をなし立っていた。


その光景を見た祖母は口をパクパクさせて驚いていた。


その道を真っ直ぐ通り、三の丸と二ノ丸の門を抜け本丸に着いたのだった。



信長「着いたぞ!婆さん。ここが某、いやワシの屋敷だ!」



すると、ずっと驚いていた祖母が慌てて籠から降りて

「馬鹿者!言うに事欠いて、ここが貴様の屋敷だと?ここは稲葉山城で斉藤家から奪い取った織田家の城ではないか!貴様はなんなのだ!」


???「その前に、私を覚えておいでですか?『とね』さん。」


「は?え?!お姫様ではございませぬか!?」

と、祖母『とね』が驚いたのだった。


帰蝶「さすがにこの姿では分かりましたか… 昨日も同じ質問をしたのを覚えてますか?」


「昨日?…まさか、あの番頭が?」


帰蝶は顔を強張らせ

「はい!その節は… 私の顔を見て何か申しておりましたが?」


『とね』は額に冷や汗をかきながら

「年をとり過ぎて忘れてしま… 申し訳ありません!!まさか、あの様な格好でまたワシの屋敷を訪れてくれるとは思わなかったので…」


「まぁ、思い出して頂いた事と謝罪の言で水に流すとしましょう!で、私は今誰の妻か分かります?」


「はい!お、織田信長様の奥方様でいらっしゃいます!」


「ですよね?では、ここに居る御方は誰か分かりますか?」


「織田信長様お抱えの商人でしょうか?」


帰蝶は呆れて

「この御方が私の夫の織田信長様です!そして、八重様を側室にとの縁談なのです!」



祖母『とね』は放心状態となり、ただただ立ち尽くすだけになってしまった。



そんな祖母を尻目に八重は

「ここが織田信長様の城でございまするか!これは良い城ですな。」


信長「時おり話す口調が変だぞ!お前は今は前世の与一ではなく、ワシの側室な成る女の八重だ!せめて、口調くらいは帰蝶に習え!」


八重は一歩下がって深々をお辞儀をし

「これは失礼。改めまして、信長様並びに帰蝶様。私、八重を末永く宜しくお願い致します。」


そして、祖母はといういとまだ固まっていたが、暫くして正気に戻るやいなや

「まさかあの『大うつけ』… いえ、織田信長様とは知らず、大変無礼を働き申し訳ございませぬ。お手討ちだけは御勘弁をお願い致します!」


「ワシの義祖母に成る者を手討ちなどせぬ!今度からは、人の話を良く聞くのだぞ!」


「ははあぁぁぁぁ!八重をお頼み申し上げます!」

と、祖母は額を地面に擦り付けたのだった。


信長「では婚儀の事は奥で帰蝶と話を詰めるようにな。帰蝶、頼んだぞ!」


「はい!信長様、また後ほど奥座敷でお待ちしておりまする。」



こうして、織田信長の束の間の休日?は終わりを告げたのであった。



そして…


ついに、伊勢志摩の北畠家の攻略を足掛かりに、本願寺との公約を果たす為に摂津・四国の三好家への侵攻計画を進めていく信長であった。

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