Re:第百六十七話

織田信長は八重にもう一度会う為に井ノ口の庄屋の屋敷に来た。



信長「頼もう!」


祖母「性懲りもなく来たのかい。何度来ても… あ!貴様は昨日の貧乏商人ではないか!」


「貧乏ではない!某は尾張では有名な者だ!」


「尾張?そんな田舎で有名でも美濃では、貴様なぞ知らんわ!」


たまらず帰蝶が

「失礼します。私はこの方の店で大番頭をしている者です。」


祖母「女子(おなご)が大番頭?」


「そうですが?おかしいでございますか?貴女も、女ではございませぬか!」


「ワシは色々と事情があるのだ!それより、女が番頭を務める商人なぞ聞いた事がない!それだけ儲けが少ないから女しか雇えないという事が分かる。そんな家に嫁がせられると思っておるのか?」


帰蝶「儲け?聞くところによると、お互いの同意があるらしいではございませぬか!それを儲けがどうのと関係ないのでは?」


「関係ないじゃと?儲けがないという事はそれだけ八重が、ひもじい思いを強いらせるではないか!そんな思いはさせたくない!」


「それは個人の価値観の問題でしょう?好きな者同士仲睦まじく暮らせれば良いのでは?」

と、女の言い争いが始まり、陰で見ていた八重が祖母に見つからない様に信長も下に来て耳元で

『信長殿。あの御方は、もしかして奥方様でございまするか?』


『その通りだ。ワシは昨日の内にお前の事を話してな… こうして、一緒に来たのだが、この様な事に成ってしまった。』


『本当の事を話せば良いのでは?』


『いや、こうなってはもう遅い。どちらも熱くなっておるでな…』




帰蝶「儲け儲けと申させるが、いったいどれくらいの収入があれば良いのでしょうか?」



【この頃のお金の価値は石で計算していた。1石=1000合なので、1合=米150グラムですから1石=150キログラムとすると、当時の米の相場が約10キログラムで3000円~5000円だったので真ん中を取って4000円とした場合1石=6万円になる計算です。続いて、1貫という価値は2石になるらしく、その事を踏まえると1貫=12万円となる計算です。史実で一般(百姓と足軽の平均)の日当が約5合という事なので約300円だったみたいです。】



祖母「そうさな… 月20貫あれば良いかのぅ。」


「月20貫で宜しいのですか?だそうですよ!信、いや旦那様。」


「月20貫?たったそれだけで良いのか?婆さん。」


「たったとはどういう事じゃ!では、明日までに結納金として200貫持ってくれば八重を嫁にくれてやるわい!」


「200貫だと?また奮発したな?婆さん。」


すると八重の祖母はニヤニヤと笑みを浮かべ

「貴様が『たった』と申したのだ!その10倍くらいは出せるであろう?」


「では、耳を揃えて200貫持参致すとしよう!」


「借金をして持って来られては叶わん!ワシがお前に屋敷へ行って確かめる事にする!」


「何?!ワシの、いや某の屋敷に来るのか?それは…」

と、帰蝶や八重を見る。


「何じゃ?ワシが行くと都合が悪いのか?」


「いや、そうでは無いが…」


帰蝶「(もう!いいわ!)あの、つかぬ事をお伺いしますが私の顔を覚えておりませぬか?」


「は?ワシはお前ぇの顔を見たのは初めてじゃが?」


帰蝶は顔を引きつらせながら

「へぇ、そ、そうでございまするか?分かりました。旦那様、明日にでもお迎えしましょう!」



その言葉に信長は小声で

『おい!良いのか?あの婆さん、腰をぬかすぞ?』



八重「もう!お婆様。あの方の屋敷に向うとかやめて下さい!」


「何を言う!あの男の本性が分かって良いではないか!どうせ貧乏商人の子倅だ!気追いする必要が何処にあるというのだ!おい、貴様!明日迎えに来る時は籠を用意するのを忘れるでないぞ!おっと、八重と二人分じゃぞ!がっはっはっは!」


信長は怒りを通り越して

「はい、はい… 籠でも何でも用意致します。(明日、この婆さんの命日になるやも知れんなぁ… あの帰蝶をあそこまで怒らすとは、くわばらくわばら…」



八重はまた信長の近くで

『信長殿。祖母は優しい方なのですが、私の事に成ると… すみません。』


『構わん!しかし、ワシよりも帰蝶がなぁ。あっ!帰蝶というのは、元々ここの領主・斉藤道三の娘でな、お前の祖母とも顔馴染みだったらしいのだ。今日はワシと同じく商人風な着物を着てるから分からなかったのであろう。』


『え?あの道三様の娘様だったのですか?どこかで見た事があると思いました!帰蝶様を幼かった私が良く見かけていましたから。』


『おお!そうか!では明日、迎えに来る!』



今度は迎えに来る約束をして帰る道中に信長は帰蝶に

「帰蝶。あの娘を覚えておるか?」


「はい!よく物陰から、こちらを恥ずかしそうに見ていたのを覚えています。あの時から可愛らしいと思っていましたが、信長様はいつ知り合いに成ったのですか?」


「いや、信勝がこの前の評定で申していたので、調べさせていたのだ!」


帰蝶は溜息をつき

「本当に殿方という人種は美人には目が無いのですね!でも、あの八重様でしたか?私とも相性が良いと思いますので歓迎致しまする!あの糞、失礼。お婆様はお灸を据えてやらねば気が済みませんが!」


「程ほどにな。なの婆さんも、孫の幸せを願っての事なのだ…」


「それについては百歩譲りますが、この私を忘れたという事にです!まったく、どうしてくれようか!」

と、帰蝶は物凄くご立腹だった。

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