Re:第百六十五話

織田信長は竹中重治が遠ざかって行き見えなくなったので、先程暴力を受けていた女のところに行くと、女の方から駆け寄って来た。



女「やっと見つけた!求婚を断るのも疲れていたので、助かりました。」


信長「は?ワシを待っていたという事か?」


「あっ!この格好では分かりませんよね。私の前世は男でしたからね。」


「(前世だと?)おい!女。ワシはそのたに会うのは初めてだぞ?」


「私もこの時代では初めてです。お忘れですので合言葉を申しますね。」


「合言葉とな?(いったい何の話だ?この女、頭は大丈夫か?)」


「では失礼して、『うつけの三郎』。これで分かりましたか?織田信長殿。」


「女に面と向って言われると… は… え?お前… もしかして与一か?」


「いかにも!前世の名は那須与一資隆でござる!思い出して頂けて光栄でございまする。まさか、本当に生まれ変われるとは思いもよりませんでした。また再会出来て嬉しい限りです!」


「おお!おおお!思い出したぞ!しかし、お前… 女だが?もしかして付いてるのか?」



その言葉に呆れて与一は

「付いてるわけないです!失礼な!れっきとした女です!当たり前ですが、子供も産めます!」


「それはすまぬ… で、先程殴られていたが大丈夫であったか?」


「はい。こんなのかすり傷です。それより、噂に成ってた美女はどうですか?」



信長は改めて与一を見て

「うむ。(元男に申すのも変だが…)申し分ない美形で良い子を産みそうな腰だ。改めてだが、ワシの側室として城に来てくれぬか?(元男に申すのも変だが…)」


「はい!私は男に生まれても小姓として、お仕えするつもりでしたので喜んで側室に成りまする。幾久しくお願い申しあげまする。」


「うむ。という事だ!松永久秀!!」



松永は物陰に隠れて、その様子を観察していたのがばれて焦って

「いつから分かっていたのでございますかな?」


「ずっとじゃ!信勝が、貴様に会ったと申しておったのでな!もう少し悟らせない物陰に潜める様に心がけた方が良いぞ!」


「はっ!肝に命じますが… その女の申した事は誠でござるか?」


「前世が那須与一資隆という話か?あやつが勝手に申してるだけだ!気にするな!」


「はぁ…(あの女は少し頭がおかしいのだろうな… 可愛そうに… しかし、容姿は絶品じゃ!これは帰蝶様との、やり取りが見物じゃわい!)では、帰蝶様にどう言い訳なさるのですかな?」



信長は松永に言われるまで、その事を全く考えて無かった。


焦った信長は

「おい!久秀。どうしたら良いと思う?あの帰蝶は、見た目はお淑やかだが夜に成ると野獣に化けるからの…」


「昨夜の悲鳴にも似た叫び声は、大殿の声でしたか… しかし、側室を持つのは悪い事ではござらん。より多くの子孫を残す為とか申せば大丈夫かと!ただ…」


「ただ、何だ?」



松永が女の方を見て

「いや… 帰蝶様が嫉妬するのは間違いないかと…」

と、苦笑いを浮かべた。



信長「そ、そ、それは男の甲斐性だぞ!なぁって、お前の名前は何と申す?」


「私は庄屋の娘で名前は「八重」と申します。」※史実には当然存在しません。


「ほう。八重か!良い名だ!で、御父上は?」


「いえ。両親はもう既に他界し、今は母方の祖母の元でお世話に成っております。」


「そうか!一応は挨拶をせねばな!何処におるのだ?」



八重は信長を連れて産まれ育った屋敷に向ったのであった。



そして、庄屋の屋敷に着くと祖母と思われし者が慌てて出てきた。


祖母「おお!こんな怪我をして大丈夫なのかえ?」


「はい。大丈夫です。それより、この方に求婚を受けまして受け入れる決心が付きましたので報告をと…」



祖母は信長を見つめ一言

「この者は駄目じゃ!目つきが悪い!八重、お前も数多の求婚者が来過ぎて目がおかしくなったと見てる!」



それを聞いた松永は吹き出し

「ぷっ!?駄目じゃだと!なぁ、商人様?わっはっはっは!」


信長「(くそ!)一概に駄目と申されても、私は納得できませぬが?」


「駄目な物は駄目じゃ!その風体からして、どこぞの貧乏商人の者であろう?それに、自分の配下の教育も成ってないでは話にすらならんわ!」


八重「あの、お婆様。この方は…」


「お前にはもっと良い婿を探してやる!この男は諦めるのじゃな。悪い事は言わん!この婆を信じろ!」


「いや、この方は…」


「お前も、出直してこい!」

と、八重の言葉を聞かず信長に向って言い放ったのだった。



信長「では、改めて出直すとしようではないか。明日の昼に、もう一度来る事にしよう。今日は、土産も持って来てないしな。」


「土産?この婆を驚かせる物を持ってくれば、考え直しても良いがな!まぁ、貴様程度の男では無理じゃがな!かぁかっかっか!」


「むむむ。その言葉、決して忘れるでないぞ?八重、また明日訪れる。待っておれ!(ここ、糞婆ぁ!このワシに向ってぇ!八重の育て親でなかったら手討ち者だぞ!まぁ、良いわ!糞婆ぁの申す通り、驚かしてやろうではないか!しかし、問題は帰蝶だな…)」


「はい…(はぁ… 明日はどうなるのでしょう?)」

と、心配する八重であった。

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