Re:第百六十四話

ある人物というのは、松永久秀の事である。


松永は独自の情報収集や隠蔽工作に特化した能力を持っていた為、信長に重宝させていた。



信勝「噂の女に許婚があるというのは本当でござるか?松永殿。」


「はい。その女が、求婚する相手にそう申しているの何度か見ていましたからの。」


「その口調からして、噂の女の居場所を知っているという事でござるか?」


「おっと、そっちが先でしたか… これは失礼。女はそこの庄屋に娘でございまする。ほれ、今日も求婚を求める男共が列を作っておりますぞ!」



信勝は松永が言う庄屋の方を見て見ると、凄まじい数の男達の行列を目にしたのだった。



信勝「凄い数ですな!おっと、こうしてはおられん!早く大殿に知らせなくては!松永殿、失礼致す!」


「お役に立てて何よりでござるよって、もう行ってしまわれたか… (さて、ワシはあの織田信長がどの様に口説くか物陰から拝見してやろうではなういか!)」



そして、信勝が稲葉山城に入ると信長が仁王立ちで、すでに待っていたのだった。



信長「おお!思いのほか早かったではないか!で、分かったのか?」


「はっ!丁度、井ノ口で松永殿にばったり会いまして、噂の女はその松永殿がもう見つけていたらしく…」


「何?!久秀がか?(あやつ、いつの間に嗅ぎ付けたのだ?地獄耳だな…)」


「はっ!その女なのですが『自分には許婚がいる』と申して求婚者を断ってるとの事でござる。その女の家を覗いて来ましたが凄まじい数の求婚者が列を成していました。」


「ほう!で、その女は噂通りの美女であったか?」


その問に信勝は額から汗を流し

「いえ… 見てませぬ…」


「お前は馬鹿か!!いくら行列が出来ても… まぁ良い!ワシが直接会いに行く!」


「あっ!大殿がその出で立ちで参ると相手も萎縮するので、商人風に変装して行く方が良いかと…」


「おお!それは名案だ!そのように致す。それとな、ワシの留守中に竹中が着たら待たせておけ!」


「え?某もご一緒に…」


「阿呆ぬかせ!女を口説きに行くのに、何故お前と一緒に行く必要があるのだ!ワシ一人で良い!それに、ワシには『これ』があるからな!」

と、信長は自分の懐に忍ばせている物を見せた。



そう信長の言う『これ』とは改良に改良を重ねた参式馬上短銃で、この銃は花火の原理を利用した炸裂弾が撃てる代物で命中力が極めて高く、殺傷力も高い銃である。



信勝「(さすがは兄上!)ここは自国でもあるので護衛は必要ないでござるな。」


「その通りだ!(どうせ、あの松永が関与してるなら何処かで見ておるだろうしな…)では、着替えて行ってくる!」



信勝はいつもの凛々しい顔の信長ではなく少しニヤけていたのを見て別の意味で心配だった。


(昨夜の声から察するに、夜の営み時の帰蝶様がよほど怖いと見える…)



信長は商人風に変装して井ノ口の町に着くと、何やら人だかりが出来ていた。


どうしたのかと思った信長は、その人だかりの先を見て見ると女を何回も殴ってる男がいたのだ。


(女を殴るとは、けしからん!しかし、周りの男共は何故誰も止めに入らないのだ?お?)

と、信長は女に近寄る男を発見した。


???「おい!いい加減に致せ!ここは織田信長様の統治下の町と知っての狼藉か!」



(誰かと思えんば竹中重治ではないか!さて、この後どうなるかな…)



荒くれ者「何だ?猿を連れてる優男が偉そうに!!」


???「猿とはワシの事か?」


「猿が言葉を喋った!こりゃ、たまげたわい!」


「むきぃぃぃぃ!ワシはれっきとした人間だ!半兵衛殿、この者をどう致しまするか?」


「貴様!大の男が公の場で女を殴るとは、この場で成敗致す!頼んだぞ藤吉郎!」

と、思いも寄らぬ無茶振りに藤吉郎が

「え?某が、アレの相手をするのでございまするか?」


(これはこれで見物だな!猿はあの相手にどう立ち回るのだ?)


荒くれ者「は?貴様ではなく、この猿が相手だと?どっちでも同じ事だ!早くかかって来い!返り討ちにしてやるわ!」


「何度も申すがワシは猿ではない!」

と、籐吉郎が短くした信長考案の三間槍を前方に構えた!


荒くれ者「何だ?その武器は!ワシをなめてるのか?そんな短い槍もどきで!何!?」


そう、この三間槍は伸縮自在の優れもので、直ぐに最長の長さに成ったのだった。



荒くれ者は当然の様に馬鹿にして

「そんな長い槍を扱えるとは到底思えんが… は、へ!?」


籐吉郎は荒くれ者の口上を聞かずに槍を力いっぱいに振り下ろし、荒くれ者の頭に直撃して頭が胴体にめり込んだのだった。



籐吉郎は大きく息を吐き、額の冷や汗を拭い

「まさか、これほどの威力があるとは… さすが大殿の考案した槍だ。」


重治「いや、単に相手は突いて来ると思って油断しただけの事だ!幸運だったと思うのだな。」


(何が幸運だ!お前が急に無茶な事をワシに振ったからではないか!)

と、籐吉郎は内心では思い

「そうだったのですか?いやぁ、某もまだまだというところですな。面目次第もございませぬ。」


「これを気にもっと精進するように!それと、この馬鹿をこんなところに置いておくと邪魔だ!尾張の硝石谷に運んでおいてくれ!」


「はっ!分かりました!(あの臭い場所に行く羽目になるとはな…)」


そして、重治は先程殴られていた女の下に行き

「女、相当殴られていたが大丈夫か?」


???「はい。助けて頂きありがとうございます。」


「うむ。で、原因は何だったのだ?」


???「些細な事で、あの男に求婚され断ったら、いきなり殴られて…」


「それは難儀であったな…」


そう言うと重治はそそくさと馬に跨り、城に駆けて行った。



しかし、一部始終を見ていた信長は

(あいつを軍師に据えたのは時期尚早であったな… ワシの考案した三間槍はまさに相手の油断を誘う武器だぞ?それを… もっと、ワシの考案した武器の詳細と運用の仕方を覚えさせねばならんな!それに、猿をあんな事に使うとは!全く成ってない!不本意ではあるが、あの猿をワシの手元に置く方が良いかもしれんな。)

と、思うのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る