第六話
信長は尾張を出て約7日で越後の長尾景虎の居城、春日山城(現在の新潟県上越市)に到着した。
「若!道中色々ありましたが、やっと到着したでございまするな。このまま春日山城内に向われるのですか?」
「うむ。長尾景虎殿に早よう会いたいからな。越後の龍とも毘沙門天の化身とも言われる御仁らしいしの。」
「いかにも強そうな通り名ですな。三郎殿。」
「であろう?」
「そろそろ、長尾景虎殿に会う理由を教えて下さっても良いのでは?三郎殿。」
「いや、まだ話せられん。辛抱せい!」
そんなやり取りをしていると、春日山城の方から1人の男が信長一行に近付いて来た。
「おい、御館様の城前で何をやっておるか!早々に立ち去れ!」
その物言いに又左は
「いえ、私達は長尾景虎様に用があり尾張より先ほど着いたばかりで…」
「又左は黙っておれ!」
「はっ!出すぎた事を失礼しました。」
「申し遅れました。拙者は尾張の織田家信秀嫡男、織田三郎信長と申す者です。ここに書状もあります。」
「これは失礼した。遠路遥々よう参ったな。おっと、ワシの名は柿崎景家と申す。早速、御館様に拝謁出来るよう取り計らおう。しかし、織田殿はついてるな。最初におうたのがワシで。」
「それはどういう…?」
「ワシは御館様に信頼厚いのでな。」
「失礼とは思うのでござるが、柿崎殿は身分が高いのでは?」
「景家で結構だ。ワシは一介の武士に過ぎん!それより織田殿の方が凄いと思うがな…」
「私がですか?」
「いや、失礼!こちらの話だ… なにわともあれ、御館様に会って下され!案内するので付いて参られい!」
「景家殿、ありがとうございまする。」
信長一行は柿崎景家なる御仁に甘えて付いて行く事になった。
【柿崎景家について。忠義を貫いた武将で、名前を聞いただけで逃げ出すくらい長尾家の家臣最強だった。「川中島の戦い」では山本勘助を討ち取る功績を上げるが、いつ死んだかについては不明である。】
信長と又左、竹千代は広い部屋に通され長尾景虎を待つ事となった。
「三郎殿。柿崎景家殿って、相当力のある方に違いないですな。」
「うむ。良い御仁に会えて良かったな。」
その頃、景家は長尾景虎に会い、報告していた。
「御館様、尾張より織田家の嫡男という者が訪ねて来ています。おうてやってくれませぬか?」
「柿崎!お主にしては珍しいな。」
「いや何、あの嫡男の織田三郎信長という若武者が、我々の暇潰しになるやもと思いまして。」
「暇潰しか… よし!会ってみようではないうか!連れて参れ!」
「はっ!では、しばしお待ちを。」
(織田三郎信長か… この面子に尻込みしない人物なら話を聞いてやろうかの。)
信長達は景家に呼び出され長尾景虎が居る部屋に通され、景虎が鎮座する所からかなり離れた所に座って頭を垂れた。
「この度は、お目通り下さり感謝致す。お初に御意を得ます。尾張豪族織田家嫡男、織田三郎信長でございます。」
「うむ。遠路遥々よく来たな。面を上げられよ。」
「はっ!」
信長が顔を上げると、中央奥に鎮座してる長尾景虎が見え、景虎のすぐ側に柿崎景家と他3人がこちらを見ている。
「この面子にも動じないとはな… 信長よ!いや信長殿、改めて言うがワシが長尾景虎じゃ。」
初めて長尾景虎を見た信長は
「さすがは越後の龍と恐れられる方ですな。圧倒されまする。」
「そうかの?で、ワシにただ会いに来たのでは無いのであろう?」
「はっ!まずは、私から景虎様に献上したき物がございます!又左、持ってまいれ!」
信長の命で又左が持って来たのは火縄銃(種子島)である。
それを見て1人の人物が景虎の前に立った。
その武将の名は直江景綱。
【直江景綱とは。主に内政や外交を担当し謙信(景虎)に信頼されていた1人。ちなみに愛の兜で有名な直江兼続は息子ではない。】
「景綱!大丈夫じゃ!信長殿が驚いてるではないか!」
「はっ!これは差し出がましく、失礼致した。」
「信長殿、我が家臣が失礼したな。」
「いえ、これは武器ですから景虎を咄嗟に守るのは当然の行為です。誠に素晴らしいと思います。」
「そうか。で、その筒が武器とな?」
「はっ!これはこの筒から、この玉を勢い良く打ち出す武器でございまする。」
「ほう。」
「御館様、それは火縄銃です。確か、九州の種子島から伝わってる極めて殺傷能力が高い武器で、値段も目が飛び出る程するとか。」
「ほう。」
信長は景家に銃を渡し、使い方を説明した。
「今から景家殿が火縄銃を使ってみせますので、皆様方どうぞ見届けて下さい。景家殿、どうぞ!」
「よし!標的は庭木で。撃つぞ!」
『どぉぉぉぉん!』
火縄銃は轟音と共に放たれ、庭木に命中した。
景虎達や撃った景家自身も驚いた!
「物凄い音がしたな!ワシも撃ってみたいが、まぁ後でゆっくり撃つか…」
「この火縄銃はまだまだ出回っていない珍しい代物ですが、是非に景虎様に使ってほしいと思い持参しました。」
景虎は突然、真剣な顔になり
「うむ。で、そろそろ本題に入ろうではないか?信長殿。」
「はっ!私めが越後に参った理由は景虎様と、しいては長尾家と友好関係を気付く為です。」
「それは見て取れる。しかし、尾張と越後はかなり距離が離れていて織田殿の利点が分らんのだが?」
「私めは、将来を見越して長尾家と仲良くなりたいと思っています。」
「将来とな?うむ。景綱の意見はどうじゃ?」
「はっ!そうですな、良いのではと思いまする。」
「うむ。この景綱は、長尾家の内政や外交を担っててな頼りになるワシの家臣の1人じゃ。その景綱が太鼓判を押したのじゃ。織田家と友好を結ぼうではないか!」
「有り難き幸せ!つきましては、もう1つ見て貰いたい武器がございます。又左!持ってまいれ!」
又左が持って来たのは信長が考案した三間槍であった。
それを見た景虎は
「なんと長い槍だ!これは?」
「はっ!これは敵の槍が届かない所から攻撃する槍で、騎馬には打ち下ろして攻撃出来る武器です。」
「ほう。これも献上してくれるのか?」
「いえ、これは景虎様に数本買って頂き、次の合戦に使用して効果を見て欲しいのです。」
「うむ。柿崎!そちの意見は?」
「我には不要ですが、一般兵で使って診るのも面白いかと思われまする。」
「うむ。信長殿、数本と言わず数百本売ってくれるか?」
「そんなに買って頂けるのですか?」
「うむ。ワシらは長年に渡り武田と戦をしている。この新しい武器で一泡ふかしてやりたいと思ってな。」
「承知致しました。すぐさま帰って送らせまする。」
「送る?道中、大丈夫か?」
「はっ!それについては、美濃の斉藤家と同盟を結んでいるので美濃経由で飛騨を通り輸送が可能です。」
「ほう。あの『マムシ』と同盟か。あい分った!今後共、織田家とは仲良くしていくゆえ、宜しく頼む。」
「はっ!勿体なきお言葉!信長、感謝で心が一杯です!」
「そうか、そうか。」
「では、せっしゃ達はこれにて。」
「うむ。大儀であった!」
信長が帰った後。
「織田三郎信長とはどういう男か調べておけ!それに、あやつはいったい何を長尾家に求めてるのかさっぱり分らんかったな。」
「ですな… 御館様が申すように尾張と越後はかなり離れていますので何故、我らに近付いたのやら不明ですね。」
「まぁしかし、当初の目的であった暇潰しには成ったな!」
「ですな。」
(織田三郎信長か… どうも不に落ちない点が多すぎる。武田を滅ぼしたら、ゆっくり語りたいな。)
などと思った景虎であった。
その頃、信長達はというと…
「三郎殿!」
「なんだ?竹千代。」
「長尾景虎とは底知れぬ強さを感じましたが、毘沙門天の化身っていうのも強ち嘘では無いやもしれませんね。」
「うむ。しかし、友好関係を築けそうで良かったな。しかも、三間槍をワシが見越した通り売れたのが良かったわい。」
「若!」
「突然思い出したように、なんじゃ?又左!」
「はっ!槍の値段は?」
「あっ!忘れてたわい!」
前世ではあり得ない信長の一面が…
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