第五話

信長は越後の長尾景虎の元を訪れる為の人選を行っていた。



今回の旅で主な者は信長の小姓の又左衛門(後の前田利家)、竹千代で残りは信長の息のかかった配下が数名が同行する事となった。



【前田利家の大雑把過ぎる紹介。色んな逸話があるが省略しますが、言わずと知れた加賀100万石(実際は100万石ではない)の領地を秀吉に貰った武将。】



そして、景虎の土産に種子島(火縄銃)1丁を持参し、土産ではないのだが信長が考案した三間槍1本も持っていく事にした。



「竹千代!早ようせい!雪が降る前に帰って来なくてはならんのだ!」


「三郎殿はせっかち過ぎる!まだ夏になったばかりでござるよ!」


「ええい、やかましい!もう又左は用意が出来ておるぞ!後は、竹千代だけじゃ!」


「分りました!行けば良いのでしょう?行けば!!」


「竹千代殿、ちと言葉に気をつけなされ!」


「又左、竹千代の物言いはこれで良いのだ。貴様こそ、その槍と種子島を落として壊すなよ?」


「それは重々承知しておりまする。」


「馬の用意も出来た。では、出発するぞ!まずは美濃に行き、山沿いに飛騨を抜け、越中に出て越後に向う予定だ。」



美濃は織田家と同盟を組んでる斉藤家の領地で飛騨の姉小路家は斉藤家と同盟を組んでるので道中は比較的安全に移動出来ると踏んでいる信長であった。



「三郎殿、義父上の道三様にはお会いにならないのですか?」


「義親父殿は忙しいお人らしいからな、迷惑をかけたくないので素通りする。」


「飛騨の姉小路家には挨拶する必要があるがな。」



信長は尾張と美濃の堺の旅篭屋で長尾家に何の目的で行くのかを竹千代と又左に話して聞かせる。



「今回の旅の目的は2つある。1つは、長尾景虎個人に気に入られる事。2つ目は気に入られる前提での話になるので今は何も言えん。」


「殿、質問していいでござるか?」


「又左か、何だ?」


「はっ!種子島は献上するとして、三間槍はどうするのでござるか?」



信長は不適に笑って竹千代の方を向き

「ふっ、竹千代。どうすると思う?」


「考えうる限りでは、長尾家に売りつけるとか?」


「うむ。さすがは竹千代!その通りじゃ。ワシの見立てでは、かなりの本数が売れると思っている。」


「それはまた何故でござるか?」


「詳しくは話せないが、長尾家は武田家と何度も小競り合いをしているらしい。」


「武田と言えば、あの甲斐の虎とかで騎馬隊が有名と噂で聞いておりまする。」


「見かけによらず竹千代は博学だな?」


「しかし、それなら尚更詳しく教えて欲しいですね。」


「それは後のお楽しみだ。」



次の日の夕方、姉小路家の館に着いた信長一行は挨拶に立ち寄った。



【姉小路家について説明。姉小路頼綱で信長と同じく斉藤道三の娘を娶っているで相婿の間柄でもある。本能寺の変後に飛騨国内で豪族通しの戦いに勝利し飛騨一国を統一したが、秀吉に対抗して敗退し京で死んだとある。】



姉小路頼綱は御歳11歳で若いがれっきとした姉小路家の当主で身分としては信長の方が格下である。



信長は姉小路頼綱に拝謁が叶い、正座して待っていると頼綱が現れ頭を垂れて

「初めて御意を得ます、拙者織田家嫡男・織田三郎信長と申します。以後、宜しくお願い致しまする。」


「おお!そちが噂の「うつけ」か。いや失礼… ワシが姉小路頼綱じゃ。して、今日は何用で尾張から来たのじゃ?ああ、忘れておった。面を上げられよ!」


「はっ!我ら一行は越後の長尾家に用があり、途中に飛騨一国を治めた大名の姉小路頼綱様に挨拶しようと思いまして。」


「ほう、それは良い心がけだな。差し支え無ければだが一介の豪族に過ぎない、いや失礼… 越後の長尾家に何用で向うのか教えてくれぬか?」



信長が拝謁している後方で又左と竹千代が小声で

≪こいつ、殿に向って一々無礼な物言いを、許しまじ!≫


≪それもあるが、いつ三郎殿が怒らないか冷や冷やな展開だの。≫


≪右に同じく。あの気性が激しい殿にあのような態度とか、斬られて当然の所業です。≫


姉小路頼綱に対して思いを馳せていたが当の信長は深々と頭を垂れ

「それは機密事項なので、おお知え出来ません。ご了承下さいますよう、伏してお願い申しあげまする。」


「うむ。それは残念だ。まぁ、良い。では、気をつけて参られよ『うつけ』殿、いや失礼… 信長殿。」


「はっ!(こいつ、ワザとだな?美濃を取ったら覚えておれよ!くそガキ!)あり難き幸せ。」



頼綱はこの事を斉藤道三に報告すべく、すぐさま密書を送った。



斉藤家では道三とその息子の義龍が、その書状に目を通した。



【斉藤義龍とは、父である斉藤道三を殺し斉藤家を乗っ取ったは良いが数年で死んだ、哀れな武将。】



「父上!あの『うつけ』が越後の長尾家に何の用で向ったのでしょう?」


「所詮『うつけ』だ!阿呆の考えてる事は分らん!」


「ですな。」

と、あまり関心がないようだが道三は考えこむ。



(あの『うつけ』め… ワシが考えてる「阿呆」では無いかも知れんな。濃の事もあるし、一度会見の場を設ける必要があるな。)



そんな事とは知らず、胸糞悪かった姉小路家屋敷を後にした信長一行。



「若!あの人を見下すような態度、許せませぬな!」


「うむ、そうじゃ!三郎殿もよく耐えられましたな。」


「あんな小童、怒るに値せん(充分腹が立ったがな)それより先を急ぐぞ!」



信長は尾張を出て5日目で越中に到着し、日本海を横目に越後の長尾家を目指すのだった。

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