第四話

長槍だった。



【通常の長槍は通常2間半(4.5m)であるのに対し実史上、信長が考案した長槍は3間半(6.3m)で敵の長槍の届かない位置から攻撃出来る優れ物ではある。】



じぃ(平手政秀)に信長が命令を下す。



「じぃ!ワシは他に類が無い長槍を作ろうと思っておる。」


「類の無いとは具体的にどんな感じでしょうか?」


「通常より1間半長い槍だ。」


「しかし、それではかなり重く成りますし、持ち運びが大変になるのでは?」


「この槍の先端部分の刃を極力小さくする事で、その長さの竿竹と変わらん重さになるはずじゃ。」


「それでしたら、誰でも持ち運び出来そうですね。」


「じぃ!その武器はそれだけでは無いのだが分るか?」


「いえ、検討も付きません。」


「軍勢が移動する時に目立って強そうに見せる為でもある。」


「先日の鍛冶師といい今回の武器の改良といい、若様はどこでその様な事を知ったのですか?」


「じぃには言って無かったが、世間から『うつけ』と呼ばれて遊んでいた訳ではなく色々見聞きしていたのだ(嘘も方便だが)。」


「おお!そうでござったのですか、さすが殿!」


「それもそうだが… じぃの知り合いで口が固い奴は居ないか?」



信長は、前々から父(信秀)の事が気になっていた。



「居ますが、どうされたのですか?」


「うむ。親父殿の身体が心配でな。それで、京に有名な医者で曲直瀬道三という御仁が居るらしいのを尾張の町で聞いてな。」


「大殿の身を案じるとは、じぃは益々若の事が好きになりましたぞ!その医師から薬を買ってくれば良いのですね?」


「そうじゃ、さすがじぃだ。飲み込みが早くて助かる。すぐに頼みたいのだが?」


「はっ!心得ました。私の息子で五郎右衛門と申す者がおりますので、すぐに京に向かわせます!」


「おお!そうか!その五郎右衛門には帰って来たら褒美をやると言っておいてくれ!」


「はは!息子も喜ぶと思いまする。」



(はて、五郎右衛門と何かあったような気がするのだが気のせいか)



【いや気のせいではない、実史かは定かでは無いのだが政秀が切腹した要因の1つに数えられてるエピソードで五郎右衛門が名馬を所有しているのが分かり、信長がそれを所望し断った為に五郎右衛門を罷免した経緯で『うつけ』の件でも何かとトラブルがあった平手政秀と更に関係が悪くなったと言われているらしい】



【この曲直瀬道三とは当時有名な医者で、足利学校という所で学問を習得し京で医院を開き医学塾も設立させた、実証的な医学の祖でも有名である。】



次に信長は長尾景虎(後の上杉謙信)と友好を築く為、専念する事となる。



【この上杉謙信の事を大まかに説明すると、まだ長尾の姓の時に関東管領の上杉家の名跡を継いだ事により上杉姓になる。後は、毘沙門天を信仰したり、甲斐の武田家との戦『川中島の戦い』で5回戦ったとも7回戦ったとも言われる戦でも有名な戦国大名でもある。】




『西暦1550年某月』



京に薬購入を頼んだ平手の息子が帰って来ていた。



「若!ワシの息子が見事薬を買って帰りましたぞ!」


「そうか、そうか。ではその者に直接会いたい!呼んでまいれ!」



政秀は息子を呼んだ。



「この度は某なんかに仕事を賜りありがうございまする。」


「で、あるか。」


「この通り京より薬を購入して参りました。ここに道三様の刻印を押されていますので確認お願い致しまする。」


「ほう、刻印とな。」



信長はじぃを見て

「じぃの息子は賢いな。ただ持って来るのではなく、こうやって証の刻印まで貰ってくるとは、誠に天晴れじゃ!」



じぃと五郎右衛門は深く頭を下げ

「はっ!息子共々あり難き幸せ!」


「で、あるか。おおそうじゃった、五郎右衛門よ!そなたに褒美を取らす!この馬をやろう!」


「え?!よろしいのですか?」


「よろしくもなにも、ワシは感謝しておるのだ!受け取ってくれるな?」


「ははー!こんな私にこんな良い馬をあり難き幸せ!大事に致しまする!」


「うむ。下がって休むがよい!」



じぃは涙を流し

「ワシの息子に、あんな良い馬をお与えに… じぃは嬉しゅうございます!」


「いい歳して泣くでない!じぃも喜んでくれて何よりじゃ。」


「はっ!より一層の忠義を誓いまする!」



その数日後、信長は竹千代と密談する。



「竹千代!わしと一緒に越後に向かうぞ!」


「えぇぇぇ!越後ですか?また遠い所に何を?」


「なに、長尾景虎と申す御仁に会いに向かう。」


「長尾ですか?」


「そうじゃ。だが親父殿から許可を貰う事が先じゃがな。」


「あの大殿様が許可をするとは到底思えないのですが?」


「それは、じぃの息子に仕入れて来て貰った、この薬を献上すれば大丈夫じゃ!」



そして信長は竹千代と別れ、信秀が居る名古屋城に向かう。



「親父殿!」


「今度はなんじゃ?!」


「はっ!親父殿、京で有名な医者から薬を貰って来ました!ぜひ飲んで下さい!」


「薬だと?ワシに薬などいらん!」


「そう言わずお願い致しまする!この三郎は親父殿のお身体が心配なのです!この薬は万病に利くとされている薬です。ここに曲直瀬道三様の認めた刻印も貰ってきており、変な物ではありません!」


「そちがワシを心配しての事か… うむ。分かった。あり難く受け取ろうではないか。しかし、三郎よ!まだ何かあるのであろう?」



信秀はニヤニヤして信長に聞いた。



「さすが親父殿、実は長尾家と言うより長尾景虎と仲良く成りたいと思っておりまする。」


「長尾とは、越後の長尾家か?」


「はい、親父殿。」


「尾張より遠く離れた越後の長尾家と友好を図らずとも良いのでは?」


「いえ、私の読みでは将来、織田家にとって必ず良い結果に繋がる物と思いまする。」


「うむ… 斉藤家に敵対していないしな。いいだろ、好きにせよ!」


「はっ!つきましては一筆書いて頂きたいのですが…」


「そんな不安そうな顔をするな!三郎の考えは面白く飽きがない!分かった、一筆書けばいいのだな?」


「はっ!あり難き幸せ!」


「後日、三郎の館の届けさせるとしよう。で、いつ出発するのじゃ?」


「親父殿から書状を貰ったら竹千代と部下数名を連れて行く所存です。」


「そうか… しかし部下は吟味いたせよ。この前のようにならないようにな。」


「はっ!それはぬかりません。後、その薬は必ず毎日飲んで下さい。」


「分かっておるわ!三郎も道中、気を付けてな!お前は、この織田家の次期当主なのだからな!」


「親父殿!そんな大事な事を軽々しく…」



信秀は笑顔で

「まあ、心に留めておけ!よいな!下がってよい!」


「はっ!」



(我が織田家はまだ豪族に過ぎんが、いったい何を考えているのやら検討もつかん。だが、実に面白い!)



後日、信秀から書状を受け取り越後に向かう準備をする信長であったが、その真意は…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る