第参話
竹千代(後の徳川家康)を今川家の人質に出さず、しかも平手政秀の自害を阻止した信長。
しかし、実史では3年後の西暦1552年に信長唯一の理解者である父(織田信秀)が病で他界する事になるのだが、それはまだ先の事だが…
『西暦1549年某月』
信長は父である織田信秀に呼ばれ名古屋城に来ていた。
「三郎よ、今回の信広襲撃を未然に防いだ、おぬしの情報は天晴れと言う外はない!そこで、褒美をやろうと思うが何か欲しい物があるなら申してみよ!」
「親父殿、それは何でも良いのですか?」
「何でもと言うのは言葉の綾だがな。そんなことより早く申してみよ!」
「しからば、竹千代を欲しいのですが宜しいでしょうか?」
「ほう、小姓にでも欲しいのか?」
信長はその問いに激しく反論し
「親父殿!いくらなんでも冗談が過ぎまするぞ!部下に欲しいという意味です。小姓ならもっと美形を選びます!」
「そう怒るでない。そうかそうか、許す!好きにせい!」
「はっ!ありがたき幸せ!」
「他には無いのか?」
「しからば、鉄砲を購入する許可をお願い致しまする。」
【この時代の鉄砲とは、火縄銃の事で一般に全国へ広まったのは種子島と呼ばれた火縄銃である。ここで分からない方に詳しく説明すると、西暦1543年に種子島に漂着したポルトガル船に乗っていた商人が種子島領主である種子島時尭に売りつけた事により、種子島と呼ばれる火縄銃が日ノ本中に広まったらしいとされている。】
その言葉にキョトンとする信秀は
「その鉄砲とは何じゃ?」
「はっ!武器でございまする。九州の種子島で外国船が漂着した際、手に入れ全国に普及しつつある武器です。」
「ほう、それはどのような効果があるのだ?」
「轟音で敵を怯ませ、弓より長い射程で遠距離から敵を殺す事が出来ます。」
「馬鹿者!!と言いたい所だが、それは興味深いな。その武器の値段はいくらじゃ?」
「はっ!一丁約150貫~300貫だと思われまする。」
【この当時の通貨で1貫(現在の日本円で約10万円~15万円)なので鉄砲1丁の値段が物凄い高いのが分かる。】
信秀は目が点となり、次の瞬間大爆発!!
「この大馬鹿者!!この織田家を破産させるつもりか!!」
「お言葉ですが、私は購入もしくは親父殿に貰った領地で製造させる許可だけを取り付けたいだけです。」
「許可ぐらいなら、いくらでも出すが金はどうするのじゃ?」
「そこは考えがあります。お任せ下され、親父殿。」
「よくわからんが、好きにせい!もう下がってよい!」
「はっ!では失礼致す。」
(三郎の奴には、いつも驚かされるわ!しかし、どうなるか楽しみだのぉ)
と、信秀は内心思うのであった。
未来の出来事と技術を身につけているのが今の信長の強みである。
それを踏まえて、鉄砲伝来した後に近江の国友や和泉の堺で鉄砲を産地として栄えたのを知っている信長は、まだそれほど知られていない鉄砲鍛冶師を、信秀に与えれた領地へ抱え込む事に成功する。
「どうだ?火縄銃の生産状況は?」
「これは殿様、順調でさぁ。殿様には感謝のしようがありませんからのぉ、気張って作りますぜ!」
「いや、ちゃんと飯を食って、しっかり寝てゆっくり作ってくれれば良いからな!」
「はっ!ありがとうごぜぇますだ。」
時は遡ること数ヶ月前、信長の配下数名と竹千代は近江(現在の滋賀県米原市)のとある農村に立ち寄っていた。
「三郎殿!疲れたのじゃ!少し休みたいのじゃぁぁぁ!」
と、叫ぶのは竹千代である。
「ええい、やかましい!!お前はすぐ疲れただの休みたいだのと、いい加減しろ!」
「そんな事言われても、無理なものは無理なのじゃ!」
(こいつ本当に天下を取った男か?歴史が変わった事による弊害かもだが、変わり過ぎだろう?)
「致し方ない… ここで少し休憩する!」
「さすが三郎殿じゃ!」
竹千代は喜んで草むらに寝転んだ。
「三郎殿?」
「なんじゃ?」
寝転がってる竹千代が指を指し
「いやなに、あっちの方向にいる農民達と何処かの家中の兵らしき者と、何やら揉めてるみたいじゃが?」
信長の配下の者は
「若!あんな織田家とは無縁の農民達なんぞ捨ておきましょう!それに他の家中に要らぬ反感を買いかねませんゆえ。」
「あぁ、そう言う事を申すと三郎殿に怒られまするぞ?ねぇ、三郎殿?」
信長は苦笑し
「農民達は日ノ本の宝だ!それに困ってるかも知れん奴を野放しにも出来ん。一応、近くを通るふりをして揉めてる内容を聞こうではないか。」
「はっ!若がそう申すなら…」
(やはり、この若は『うつけ』だな)
信長の配下の者が渋々承諾した。
「で、竹千代は何故まだ寝転がってるいるのだ?」
「先ほど申したではありませぬか?」
「竹千代殿!無礼ではありませんか!」
「お前達、竹千代の事は放っておけ!それより行くぞ!」
信長達は竹千代を無視して揉めてる方に向かうと、どうも無許可で物を売ってるらしいというのが分かった。
「若!勝手に物を売って咎められてるらしいですね。何処の国でもある事ですから捨ておきましょう。」
と、配下が具申しるが信長は聞かず、そこに割って入った。
「街道にも聞こえる大声で何を揉めているのだ?」
「これはお恥ずかしい。いやなに、この鍛冶屋らしき者がこの六角家の領地にて無許可で物を売ってるらしいので咎めていたところだ。」
「お侍様、違うのです!私共は和泉の堺に行く途中で道具を確認していただけなのです!」
と、信長に鍛冶屋らしき者がしがみついて来た。
「六角家の方達、この者がこう申しているが?」
「そんなのは、罪を免れたいだけの言い訳に過ぎん!大体、そなたらは何処の誰だ?」
すると、信長の配下が信長の裾を引っ張り小声で具申する。
≪若!織田家と言ってはなりませんぞ!六角家は南近江一の大名ですぞ!≫
≪そんな事は分かっているわ!仮に敵対したとしても東には同盟してる義親父殿が居るし、南には北畠家があるので大丈夫だからな!≫
≪しかし…≫
≪しかしもかかしも無い!そちたちは黙っておれ!≫
(この阿呆が!!信秀様はこんな『うつけ』を跡取りに決めているみたいだが、信勝様を織田家の当主にした方が良いと噂しているのが分かる気がするわい!)
「さっきから、ごちゃごちゃと!そこもとは何処の誰だ!」
「これは失礼。私は織田家嫡男、織田三郎信長です。」
「はぁ?あの有名な『うつけ』か!尾張の豪族の分際で出しゃばるな!ここは我ら六角定頼様の領地内の事だぞ!それとも何か?六角家と事を構える気か?」
「そこもとらこそ、一介の兵がどの口で誰に向かってほざいてるのか分かってるのか?!」
と、いつの間にか竹千代がしゃしゃり出て来ていた。
「何だ?このガキは!そんな事より、その言葉を領主様に伝えてもいいのだな?ええ、『うつけ』が!」
竹千代は半笑いで
「どうぞご自由に、なさって結構です。」
信長の配下の者が割ってはいる。
「六角家の家中の方々、子供がほざいた戯言です。気を静めて下さい。」
「何を今更!この事はすぐに領主様に報告する!」
(ああ、やはりこうなるか… この『うつけ』と『うつけ』の腰巾着め!)
「織田家の武将が六角ごときに何たる弱腰だ!恥を知れ!」
と、信長は配下を怒鳴りつけた。
「しかし、事はもう殿の手に負えませんぞ!いったい、どうするのですか!」
「お前達は、揃いも揃って馬鹿の集まりか!まあいい、お前達はもう黙っていろ!これは命令だ!それから、この鍛冶屋一行は我が召抱える事にする。」
「はぁ?それについては異論はござらんが、無許可での罰金は『うつけ』が払ってくれるのであろうな!」
すると、また信長に無断で配下が発言する。
「その金子を払うと、今回の暴言は取り消してくれるのか?」
兵達はニヤニヤしながら
「それとこれとは話が別だ!やはり『うつけ』は類を呼ぶのだな!がっはっはっは!」
「で、いくら払えばいいのだ?」
「ほう、払ってくれるのか?なら1貫で手を打とうではないか!」
「よかろう!」
「若!」
そのやり取りを見ていた鍛冶屋達は信長に対しての好感度が鰻登りになっていた。
「織田の若殿様、こんなわし等に1貫なんちゅう大金をいいだか?」
「構わん!構わんがワシの為に作って欲しい物があるのだが… よいか?」
「喜んで!若殿様の欲しい物を作りますだ!」
「ほう、まだ何を作るかゆうておらぬが良いのか?」
「はっ!わし等は若殿様が六角家あいてにあそこまで言って匿ってくれたんじゃ。それに応えたいと思ってるだけですじゃ。」
「で、あるか。」
すると六角家の者が
「罰金の金子は受け取ったが、六角家を敵に回すとはやはり『うつけ』だな!まあその内、報復するんで怯えて暮らすがいいわ!がっはっはっは!」
と、帰って行った。
その後、信長達は鍛冶屋達を引き連れて足早に尾張へ帰還した。
帰還するなり、信長の配下が信長に断りもなく信秀に報告するが、その場で切り捨てられたのだった。
(三郎も苦労するな。そもそも、三郎の配下なら三郎を庇う立場である者が密告とはな… こんな使えない馬鹿が配下にいるとは!まあ、ワシが見繕った者達なんだが、こんなに馬鹿だとは思わなかったぞ… 普通に考えたら分かると思うがな、やはり三郎を早めに当主にしないと収まりがつかんかもしれんな)
そして、時はもどり
「材料は腐るほどあるからな。慌てず正確無比な鉄砲を作ってくれ。」
「はは!殿様のお目に叶う鉄砲を作って大量生産にこぎつけてみせまする!」
「よく申した!期待しているぞ!」
次に信長が目を付けたのは…
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