第七話
信長は長尾家との繋ぎを取り付け尾張に帰還を果たし、すぐさま信秀の居る那古屋城へ報告に向った。
「親父殿、無事帰参致しました。」
「おお!無事でなによりじゃ。して、成果は?」
「はっ!それも無事果たせました!先方の長尾景虎殿は、快く織田家と友好を気付いてくれそうです。」
「あの長尾景虎に、渡りを付けるとは天晴れ至極!良くやったぞ!三郎!」
「はっ!有り難き幸せ!」
「今日は疲れを癒し、明日の早朝に評定を行うゆえ出席せい!いいな!」
「はっ!」
(まだ真意は不明だが、あの長尾家と内密にであれ渡りを付ける事に成功した功績があるゆえ、家臣達もワシの隠居と三郎に跡を任すのを納得するであろう。)
三郎が帰ったのを見計らって、主だった家臣達を明日の評定に来るように伝えたのだった。
その夜、信長の屋敷では平手政秀に
「じぃ!今帰ったぞ!」
「若!よくぞご無事で!じぃは一日千秋の思いで帰還を待っておりましたぞ!」
「そうかそうか。で、変わりはないか?」
「ありません。」
信長は真剣な面持ちになり
「ワシはじぃを信じて話すが他言無用だぞ、いいな?」
「はっ!他言無用の件、承知致す!」
「うむ。今回、長尾家に渡りを付けた理由はワシが考案した槍を長尾家に大量に売りつけ、その資金で種子島を改良した新たな火縄銃を大量生産する為である。(まぁ、それはまだワシの計画の氷山の一角に過ぎんがな)」
「おお!資金を確保する為でございましたか!しかし、何故わざわざ遠い越後に行かれたのですか?」
「まあ色々と考えがある為とだけ言っておこう。では、明日の早朝の評定に出よとの事なので寝る!」
「え?!評定に、お出になるのですか?若が?」
「そうじゃが?なんじゃ!」
「いえ、これは失礼。(素直に評定に出るとか… 雪が降るのではあるまいか。)」
平手政秀と分かれた信長は濃(信長の正室で斉藤道三の娘)が待つ寝室に向う。
「濃!今、帰ったぞ!」
「これは殿!無事に帰って来てくれて嬉しゅうございまする。」
「うむ。長らく留守にした事は許す、今宵はそちを可愛がってやろう。」
「はい…」
そして、その夜はゆっくりと過ぎて行き次の日を迎えた。
濃は浴衣がはだけて状態で信長を起こす。
「殿… 朝でございますよ?評定に行かないと…」
「おお!もう、そんな時間か!」
「はい…」
「今朝は淑やかだのぉ、昨夜はあんなに…」
濃の顔を赤らさめて
「もう!殿ったら!そんな事を朝から言わないで下さいまし!それより、早く仕度して義父上の那古屋城に向わないと!」
「おお!そうであった、そうであった!」
信長は那古屋城に着き、評定が開かれる部屋に行くと、主だった家臣達が勢ぞろいしていた。
織田信光を筆頭に、織田信勝とその部下で柴田勝家、林秀貞、河尻秀隆、佐久間信盛、佐久間盛重、丹羽長秀、水野信元が左右に座って居た。
【柴田勝家。有名なのは信勝(信行)に仕えていて信長に2回謀反を企て失敗し家臣に成り、本能寺変後に秀吉との戦いに敗れて、信長の妹(お市)と越前の居城北ノ庄で自害した。】
【林秀貞。柴田勝家と同様に信勝(信行)を擁立して謀反を企て失敗し家臣には成ったが、あまり活躍がなく、かつての謀反を蒸し返され追放された。】
【河尻秀隆。黒母衣衆筆頭で、美濃岩村城主を経て甲斐国主にまで登り詰めた人物。尚、河尻氏に関係する文献が少ないので詳細は不明に近い。】
【佐久間信盛。各地での合戦で活躍したが、傲慢等の理由で追放させられた。】
【佐久間盛重。桶狭間の合戦の前哨戦で丸根砦を松平元康(徳川家康)に攻められ討ち死にした。】
【丹羽長秀。信長に重宝され軍事・行政の両面で活躍した。死因については色んな説がある中で有力なのは腹に寄生虫が湧いて死んだらしい。との事です。】
【水野信元。桶狭間の合戦後、織田家と徳川家の同盟成立に貢献したが武田家と内通の容疑をかけられ謀殺された。】
【織田信光。信秀の弟。信秀の死後、清洲城奪取に貢献するものの、信長に反感をもたれ謀殺されたとも言われている。】
信秀が評定を開始した。
「今回、皆に集まって貰ったのは今年いっぱいでワシが隠居し三郎に家督を譲る話だ!」
その言葉の皆が驚いた。
信光「殿!それは時期尚早ではありませぬか?」
河尻「そうです。まだ三郎殿に家督を譲るのは早いかと思われます。信広様は来ていませんが、信広様の意見も聞いた方がよろしいのでは?」
信秀「馬鹿者!信広は長男ではあるが嫡男ではないのだぞ!ここに呼ぶ必要は無い!!」
河尻「はっ!失礼致しました!」
信勝「父上、何故兄上にこんなに早く家督を譲ろうと決意したのですか?」
その意見に皆が同意して
「「「そうだ、そうだ!!」」」
信光「殿がいくら三郎様に家督を譲ると申しても我ら家臣らを納得させる事は出来ませんぞ?」
信秀「それについてだが、三郎は越後の長尾景虎との渡りを取り付けた。」
その発言に皆が驚き
「「「あの越後の龍とも噂される長尾景虎といつの間に…」」」
信光「なんと?!それはいつの話でござるか?」
信秀「つい最近の話だ。その事を踏まえて、三郎を年明けにすぐ家督を譲らせる事とする。」
信光「分り申した…(いくら長尾家と渡りを付けたからとて、あの『うつけ』に任せて大丈夫か?)」
信勝「家督の件は承知致しまするが、何故隣国でもない越後と友好関係になる必要があるのかが分りません。兄上、説明お願い致しまする。」
信長「それについてはまだ、あれやこれや言えん。しいて言えば将来の為だな。」
信勝「将来ですか?また曖昧な答えでござるな。」
信光「三郎!真面目に答えぬか!」
信長「叔父上、私はいたって真面目に話していますが?」
信光「うぬぬぬ…(やはり何も考えてないのではないか?)」
その会話を聞いていた信秀は
「いい加減にせい!これは決定事項だ!異論は認めん!それが不服と申すなら、織田家を出て行け!」
信長以外の家臣達は
「「「滅相もございません。殿のお決めになった事に従いまする。」」」
「うむ。ワシは疲れた。三郎、今後の事を詰めたいのでワシの部屋へ一緒に来い!これにて評定は終わりじゃ!」
信秀と信長が退出した後に信光達が残り、来年の事について話合った。しかし、ほとんどが信長の家督の話であったのは言うまでもない…
評定後、信秀の部屋に来た信秀と信長は今後の事を話し合う。
「三郎よ、今日の評定の内容に驚いたのではないか?」
「はっ!正直、驚きました。まさか親父殿がそのような事を言うとは思いもよりませんでした。(親父殿は病で2年後に死ぬのだからな。やはり、越後へ向う時に渡した薬が功をしたとしか…)」
「おい!三郎!何をぼーっとしておるのだ!」
「はっ!これは失礼。」
「まったく、ワシを失望させんでくれよ。でだが、来年に家督を譲るが承知してくれるな?」
「それは、心より承りまする。」
「うむ。で、ワシが隠居した後どうするのか聞きたいのじゃがな。」
「親父殿、私の最終目標は『天下統一』です!」
信秀は信長の言葉に目を見開き驚いた。
「三郎よ!大きく出たな!天下統一か!そうか、そうか!」
「親父殿!某が天下を取るまで、あの薬を飲んで長生きして下され!必ず成し遂げてみせまする!」
「お前は面白い面白いと思っていたが、まさかここまでとはな!うむ。存分に暴れるがよい!」
「はっ!有り難き幸せ!」
「それから伝えるのが遅れたが、斉藤道三殿が三郎との会見を申し込んで来たぞ!」
(ついに来たか、正徳寺での義親父殿と会見が!)
「親父殿!是非、お受け下され!義親父殿の度肝を抜いてみせまする!」
「わっはっはっは!頼もしいな!うむ。道三殿に返答の書状を送っておく。時期については追って連絡する。」
信長はついに、歴史上有名な斉藤道三との『正徳寺の会見』が行われる…
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