足跡
かおりさん
第1話
『足跡』
私は真夜中まで起きていることがある。
その日は、ベランダに出て外の空気にあたっていた。時間は午前2時ぐらい。しばらくして、頬が外気と一体化してきた時に、敷地の前の道に黒い足跡だけが右、左、右、左と一歩づつ歩いて来た。
これは見たことがない、と思いそのまま静かに見ていた。足跡が敷地の中に入って来て、車の前を通り過ぎてまた数歩戻り、車の前で止まった。前輪の右側の前に。そして数秒後に消えた。
私は、(あれっ、車に乗ったの?)と思ったが、ベランダからは足元までは見えず、見に行こうかとも考えたが夜中だし、ベランダで何度もつま先立ちで背伸びをしたが足跡は見えなかった。
翌日、その事を忘れて車で外出して、1分も走らない所で変な音が聞こえてきた。最初は、道のでこぼこ音かな、と思ったがその音はずっと追いかけてくるように聞こえる。
車を停めてエンジンの故障か、と思いながらもバンパーを開けたこともなく、おかしいなぁと車の前後を見ようとして数歩歩くと、
(あっ!前輪の右側タイヤに何か刺さっている)
よく見ると金属の大きなネジみたいな物が刺さっていた。
道のどこかで踏んだのだと思い、私は、(これか、)と原因が分かったのでそのまま出掛けた。アスファルトにその金属が当たる度に、ガツン、ガツン、ガツン、ガツンと数秒の間隔おきに音がしていた。
外出先からの帰りに日が暮れて暗くなり、そのガツン、ガツン、ガツン、ガツンとする音が、暗い道の車が他に1台も走っていない、ただ前方を見て運転しているだけの中で聞いているのが急に怖くなり、予定を一つキャンセルして家に帰った。
後日、そのタイヤは交換した。パンクもしなくて良かった。でもそういう時は、あまり車に乗らない方がよいのかもしれない。あの帰り道、そんなに怖い思いはしない方がよいに決まっている。
あの黒い足跡は、タイヤに刺さるそれを伝えに来てくれたのではないか、と思う。前輪の右側の前に。その時に足跡は横を向いていたのではなく、縦に2つ並んでいた。もしかしたら、こちらを私を見上げていたのだろうか。
近くに広い公園があり、その土地神様の祠(ほこら)が祀られている。私はその前を通る度に手を合わせていた。
その公園は大昔、陸軍の演習場だった。大きな石碑に難しい漢字で長文が書かれており、陸軍、何々歩兵部隊と、その文字だけがかろうじて読み取れた。
私は神社の前を通る時、車中からでも必ず「神様こんにちは」と挨拶をする。お稲荷さんなら「おきつねさん、こんにちは」と挨拶をする。
公園の土地神様、もしかしたら、あの足跡は昔の歩兵部隊の足跡だったのですか?右、左、右、左と一歩づつ。
御利益をありがとうございます。
足跡 かおりさん @kaorisan
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