第16話

その後、ターボババアが強奪した魂は無事還されることで気を失っていた人や、体がぶっ壊れていた人は魂が戻ることで完全に治っていった。

月明かりだけが照らす部屋の椅子に背中を預けワインを片手に微笑む女性が口を開く。

「ターボババアからコックリさんの居場所を聞けたのね?」

「はい、徹から聞いた話によると、徹の住んでる町、白石市の外れにある友利山に潜んでいると言っていました」

「なるほどな、最近白石市で多発してる神隠しとコックリさんとの関連はある?」

「確証はありませんけど、おそらく」

「そう」

女性の質問に難なく答える東雲の目は月明かりの反射で妖しく光る。

「ふっ、ようやく見つけたわよコックリさん、待ってなさい」

女性は月に向かいワイングラスをかかげ、笑み浮かべる。彼女の思惑は一体⋯⋯

「で、こんな茶番は置いといて」

パチッと東雲が部屋の電気を押すと、女性の姿が現れる。メガネをかけ綺麗な黒髪髪を肩まで伸ばしたその女性は紛うことなき委員長であった。

「全く君はつまらないやつだなぁ、これくらいの茶番、軽く受け流して見せるのが委員会の一員なんじゃないかな?」

「うるせーな、委員長なんだからもうちょっとシャキッと委員長らしいことを見せてくれよ」

「はぁ仕方ない、委員会の現在動ける人間に通達しろ、明日の午後9時、白石市の外れにある友利山に集合せよこれは最重要任務であると」

「了解だ、委員長」

とても大きな何かが始まろうとしていた。月がそれを予見したかのように雲に覆い隠れてしまった。



「なぁ、なんでお前いつもそんなボロボロなの、また幽霊か?」

「そうだよ、もーまじ疲れたー!」

休み時間に教室の上で突っ伏していると薙が上から話しかけてきた。いやー、久しぶりに筋肉痛になったわ、昨日ターボババアと別れを告げたあと、爆睡してる2人を担いで、何とか電車に乗ったからなぁ、あーあん時は恥ずかしかったー。

「ははっ色々大変だと思うけどまぁ頑張れよ、辛い時は相談してくれていいからよ」

「お前案外良い奴なの?」

「そう思っていただけたなら光栄だ」

「きもっ」

「おい!」

薙は生粋のモブだけど、こういう優しいところがあるんだよなぁ。だからこそいじりがいがあるぜい。

「おはよう2人とも私もお話に混ぜてよ」

「「私?」」「ええ、私」

次に現れたのは生粋の中二病、柳真理だった。真理は髪をポニーテールにまとめ、ぎこちない笑みを浮かべ、真面目清楚女子高生を無理やり演じていた。

「お前なぁ、別に俺らの前なんだからそんな無理しなくても⋯⋯」

と俺が言うと、真理はめんどくさそうに目を細めて

「後ろの男どもを見てみろ、私を凝視しているだろう?そんな中であんなこと言ってたらまた学校の皆に引かれちゃうだろ?それくらい理解しろ」

寂しそうに先細りした声でそうボヤいた。まぁ確かに、あの男子達の目は恋焦がれているもの達の目だ。俺にはわかる。⋯⋯ごめん嘘、あれは恋焦がれている目じゃないわ、あの目に宿ってる炎は恋慕じゃなくて嫉妬や妬みの炎だわ、多分俺らが真理に気に入られているのが気に入らないのだろうな。

「クソがっ、なんであんな奴らが」「どっちもモブみたいな顔しやがって」「なんで真理様はあんな奴らを選んだのだ、おぉ神よ教えてくれ」

おい、完璧に一言一句逃さず聞こえているぞ貴様ら、あとな⋯⋯

「「モブはこいつだけな!」」

「「⋯⋯あ!?」」

俺とモブは睨みつけ合う。

「なんだお前ら、ちょー仲良しではないか」

「「仲良しじゃない!」」

「ほら」

ガルルっ、とお互いがお互いを産毛を逆立てて威嚇し合う。するととっ掴み合いが始まろうとしたタイミングで休み時間の終わりを告げる鐘の音が鳴った。

「けっ、今回の所は許してやるぜ」

「⋯⋯ふん」

とまぁ、こんなふうに喧嘩はするが、授業が終われば元通りになっている。まぁひとつの遊びみたいなもんだ。

「それじゃ後で」

真理も自分の席につく。しばらくするとガラッとドアを開けて、先生が入ってきた。

「あれ?笹原と遠藤はどうした?」

と先生が教室を見渡して言う。

「休みでーす」

「おぉそうか、理由知ってるやついるか?」

「分かりませーん」

生徒がその先生の質問に気が抜けた返答をする。普通なら何気ない日常の一幕、だけどこの時の俺は嫌な予感が止まらなかった。どうしてもコックリさんが関わっているのではないかと思ってしまうのだ。

「⋯⋯ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい⋯⋯」

すると俺の隣に座っている藤家圭太君が頭を抱えて、震えていた。匂うぜ、これはコックリさんが関わっていそうな匂いだぜ。⋯⋯勘だけど。


「と、いうことで何があったのかな?」

「えーと、そのー僕はなんでここに⋯⋯」

放課後、事情を知ってる真理と一緒に藤家圭太君をこの教室に呼び出していた。

「それはね、君が笹原と遠藤が消えた理由について知ってるんじゃないかって思ってね」

「どうしてそれを!?」

「まぁあんなにあからさまに怯えてたらなぁ、どんな鈍感野郎も気づくぞ」

すると藤家はあの時と同じように体を震えさせ始め、自分の体を抱きしめる。

「違うんだ、違う、僕は何もしていないんだ、僕のせいじゃないんだ、許してくれ、許してくれ」

「うるせーよ、何かあったんだろ?それを教えてくれ」

そんな風に怯える藤家に容赦なく質問をする。

「お、お前言葉きつくないか!?ねぇ?真理さん、僕可哀想じゃありません?」

「⋯⋯知らん、いいから早く情報を吐け」

「完全に悪役だ⋯⋯」

俺達を悪役呼ばわりするとはなんて酷いやつなんだ。ただ情報を聞きたかっただけなのに。

「分かったよ、喋るよ⋯⋯」


あれはつい3日前のこと⋯⋯。

「テメーふざけんなよ!調子に乗りやがって!」

「いつもいつも!調子に乗りやがって!」

「や、やめて、やめてください!」

あの日は路地裏で同じクラスの笹原と遠藤にタコ殴りにされてたんだ。僕はなんの抵抗もしなかったのに、あいつらはとにかく僕を殴ったり蹴ったりしてきた。許せない、って思った。そしたら天からとても綺麗な少年が現れたんだ。少年は「$¥℃@&☆¥@!?¥@」と訳の分からない言葉を発した。

そして僕はなんの躊躇いもなくその少年を頼った。その時は誰も頼るようなやつがいなくて彼に頼るしか無かったんだ

「僕を助けて!クラスの皆は僕を見て見ぬふりするんだ、僕はいつも一人なんだ!助けてよ⋯⋯」

「おい!何言ってんだ!元はと言えばお前がっ!」

「$!℃¥♡☆@$&?&☆¥$℃?」

「「え?」」

そしたらその少年が笹原と遠藤の胸を貫いて殺したんだ。

「死んだ?あの笹原と遠藤が?」

「¥℃&☆♪?¥$♪&#☆$℃?¥♪&$#☆$」

そしたらその少年が笹原と遠藤の体から変な玉みたいなのを取り出してその玉を使って、2人の男の子を作ったんだ。びっくりしたよ、人間の生成なんてものは存在しないと思っていたから。

「¥&☆☆℃♪☆#$&℃$♪¥?☆&℃$#」

そう言って口角をあげたその少年はまるで悪魔のようだった。

「あの!あなたはなんでこんなことを」

僕がそう聞くと顔面をより一層歪めて「ひとりぼっちを無くすためさ」って言った気がしたんだ。言葉自体は分からなかったけど彼の強い意思でそれを感じ取れたんだと思う。正しいかどうかは分からないけどね。


「なるほどなぁ」

「な?僕は悪くないだろ?悪いのはその少年なんだよ」

「「⋯⋯」」

多分、というか絶対にその少年というのはコックリさんだろう。⋯⋯ひとりぼっちを無くすねぇ。そのために人間の魂を使って疑似の人間を創造してるのか。たくっ無茶しやがって。

「おい、その魂で作られた人間はどこにいんだよ?」

「外で僕のこと待ってると思う、今日も一緒に帰るから、でもね!あいつらすごく良いヤツらなんだ、僕の話をずっと笑って聞いてくれるし、死ぬまで一緒だよって言ってくれたんだ」

藤家の指さす方を見ると、若い男2人がこっちに向かい手を振っていた。それに気づいた藤家も手を振り返している。どちらもいい笑顔で傍から見ればただの友達だった。

「んじゃ、サンキューな」

「あぁ、じゃあな俺はこれからあいつらと帰るから、一生な」そう笑う藤家の笑顔が俺には偽ものに思えた。

「あぁ、だといいな」

そう言って俺と真理は教室を後にした。

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今日も俺は喪服を着る 紅の熊 @remontyoko

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