第13話 ターボババア2

「ぐすっ、おばあちゃんに会いたいよぉ」

「うーん、といってもなぁ」

やっと泣き止んだものの、どうしたらいいものか。

「おばあちゃんはどんな感じの姿をしてるのかな?」

「おばあちゃんは優しくて、笑顔が可愛くて、私のことを大事にしてくれた人なの、とってもとっても大事な人なの」

「な、なるほどぉ」

うーん、それだけじゃ分からないなぁ。どうすっかな。

「ねぇおじょーちゃん、絶対にそのおばあちゃんを探すからさ、ちょっとだけ待っててくれないか?」

「一緒に探してくれるの?」

「あぁ、だからちょっとだけここで待っててくれないか?」

「わかった、私ここでお兄ちゃんが来るの待ってるね」

多分ターボババアは居ない可能性が高い。居ないと分かればすぐ戻ってくればいいからな。

「あぁ、待っててくれ、あ、後おじょーちゃんの名前はなんて言うんだい?」

「かな、桜木かな」

「そうか、かなちゃんか、いい名前だ、じゃあ俺たちはそろそろ行くから、そこで待っててね」

「うん」

今、彼女のおばあちゃん探しに付き合っているほどの時間はない。だけど、こんな小さな女の子を放っておける訳ないよな。少女の頭にぽんと手を置いてから立ち上がる。

「んじゃ、行くか」

「いや、結局なんの話してたんだよ」

あ、そっか、こいつらに幽霊の声は聞こえないんだった。説明しなくちゃな。


「なるほどな、じゃあ急いでターボババアがよく出現するらしい場所まで行くとするか」

「我はあの子が心配なのだが⋯⋯」

真理はターボババアの事などそっちのけでずっと少女の方を見ていた。

「あの子は幽霊だ、普通の人には見えないから変なことにはならないと思うけど」

「うーん、そう、かな?悪い幽霊とか⋯⋯」

「だからさ、早く終わらせてここに戻ってこようぜ」

「そう、だな!よしならば早く行こうではないか!」

コックリさんに敵意ましましで向かっていった時は幽霊が大嫌いなのかと思ってたけど、別に全ての幽霊を嫌いになってるわけじゃないんだな。

「よし!話もまとまった所で俺についてこい!」

そう言って、俺達に背を向ける東雲の姿は少し頼もしかった。

「というか、貴様幽霊と喋れたのだな」

「おう」

「なんというか、すごいな貴様」

「何嫉妬してんのぉ笑」

「違うわ!」

「いたいたい」

真理はポコポコと俺の肩を叩いてくる、これはあれだな我が妹がおねだりの時に使う技だな、全然痛くないやつ。

「お前らうるせーよ!せっかくまとまった所だったのによぉ!」



月が街を包む時間帯、朝、活発に活動していた小学生達はベッドで寝て、大人達は仕事帰りの1杯を楽しんでいる。そんな中、俺たちは高速道路にいた。

夜風と車の風が俺の頬を撫でる。

「まさか山を登ることになるとは思わなかったまじ疲れたわ」

「ほ、ほんとだよ、つらすぎる」

「まぁいいじゃねぇか、いい経験できただろ?」

俺と真理は何度も肩で息をついているが、東雲はそんな様子はなく平然としていた。まぁこいつの能力は身体能力強化系だからな。これくらいの運動はらくちんなんだろう。

「んで?ここまで来たけどこっからどうすんだよ」

「よし!お前ら俺に捕まれ」

「「なんで?」」

「ターボババアはな、速いやつの前にしか現れねーのさ」

東雲はそう言ってにっと笑う。

「いやでも俺らが乗ったら遅くなっちゃうだろ」

「あぁ?俺1人に全部押し付けるつもりかぁ?大丈夫だ心配すんな、お前ら2人が乗った所でそんな変わりゃしねーよ」

「そんなもんか」

東雲がそう言うならと東雲の肩に手を置く。ん?真理の顔なんか赤くね?

「そんな!しがみつくなんて、わ、我にはで、できないぞ!」

すると真理が睨みつけながら訴えた。なんだこいつ一丁前に恥ずかしがりやがって。

「あのな、別にお前のこと変な目では見てるけど性的な目で見たことないから、安心しろ」

「それもそれでなんか嫌だがな」

「まぁ何だ、友達だろ?俺とお前」

「っ!あぁそうだな!友達だったら体ぐらいくっついても問題ないよな!」

ちょれー、死ぬほどちょれー。

「茶番は終わりか?なら早くつかまれ」

「了解した!」

俺と真理はがっしりと東雲の小さな背中に捕まる。

「よっしゃ!飛ばすぜ!」

「「うわっ!」」

一瞬にして体にかかる前からの重力に耐えようと必死に東雲の体を掴む。やばっこれ、前から来る風で息出来んぞ。

「ぐびがどれるヴ!」

この時、俺の首は限界をむかえていた。筋肉の繊維は伸び切り、悲鳴をあげている。

「まだまだ加速するぜ!」

「もう、やめっ!」

東雲がドンッ!とさらに強く地面を蹴った瞬間、風圧はさらに強くなり、目も開けられなくなった。

しばらくそうやって強烈な風圧を感じていると急に東雲の足が止まり、俺達は前にほおり出された。

「「うぎゃー!!!」」

俺と真理はさっきまでのスピードの慣性のまま、道路を転がり続け、高速道路の壁に思いっきり背中をぶつけた。

「うげっ!」

「げふっ!」

揺れる頭を直しながら、何が起きたか確認するために東雲の方を見ると白髪のおばあちゃんと対面していた。

「おい、しののめ〜お前、少しずつスピード落としてからにしろよ、壁に背中ぶつけちまったじゃねぇか」

「あ、ごめん!徹、真理!」

「貴様ァ、絶対に許さないぞぉ」

真理もまた、かつてないほどに三半規管が揺らされたことにより、真理の体はふらふらだった。

「問う、お前はわしよりはやいか?」

そんなボロボロの俺たちを無視して、東雲の前に立っている白髪のおばあちゃんは話し始めた。もしかしてあの人がターボババアか?本当にいたんだ、ごめんな東雲、信じてやれなくて。

「えー本当にターボババアっていたんだ」

お前も信じてなかったのかよ。

「もう一度問う、お前はわしより速いか?」

「うん、速いよ」

なんの躊躇いもなく、東雲はそう放った。

「ここに契約は成立した、お前わしとかけっこ勝負をせい、勝ったらお前さんが欲しいものなんでもくれてやる、ただしお前が負けたら魂を貰う、よいな?」

「はん、いいぜ」

「ゴールはここから50キロ先にあるでかい病院の近くにある出口じゃ」

「OK、おい!お前ら早く俺につかまれ!」

「「了解!」」

東雲の呼び掛けにふらふらする頭を振り切り、俺たちは走り出した。

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