第12話 ターボババア
月明かりが照らす高速道路に一人のばあさんがいた。髪は白髪をボサボサに生やしており、数十年は着込んでいるであろう布を身につけている。そんなみすぼらしいばあさんが高速道路に立っていたのだ。
「なんだ、人?」
「どうしたの、てんちゃん?」
「いやほら、あれ」
そこにオープンカーで疾走するカップルが現れる。男が先に高速道路に立っているばあさんを見つける。次いで女も同様に気づく。徐々にオープンカーは減速していき、ばあさんの前に止まる。もう深夜の時間帯、高速道路を走る車はほとんどいなかった。
「おいばあさん、徘徊か?ここは高速道路だぞ?」
「問う、お前はわしより速いか?」
「あ?何言ってんだよ」
「ねぇてんちゃんあのおばあさん様子が変だよ」
女が怖がり、男の肩に密着する。そこでここは男らしくせねばと男は「おいおいばあさん、そこどかねーと怪我すんぜ」と声を張って煽りに入る。
「もう一度問う、お前はわしより速いか?」
「あぁ速いぜ俺は、こいつに乗りさえすればな」
脈絡なくもう一度同じ質問をするばあさんにバンバンと己のスポーツカーを叩き、男はそう意気込んだ。否、意気込んでしまった。
「ここに契約は成立した、お前さんわしとかけっこ勝負をせい、わしに勝ったらなんでも好きなものをやる、ただしわしに負けたらお前さんの魂をもらういいな?」
「はっ!いいぜやってみな」
男はおばあさんの不気味な提案に乗り、瞳孔を開く。
「ゴールは50キロ先にあるでかい病院の近くにある出口じゃ、よいな?」
「OK、飛ばすぜ!」
男は車のハンドルを強く握り、ペダルに足を乗せる。
「ねぇてんちゃんやめよーよ、100キロも先行ったら戻れなくなっちゃうよぉ」
「まぁ見てろってミカ、俺がばっちし勝ってやるからさ」
どうやら調子に乗った男は人の話を聞かなくなるらしい。
「⋯⋯3、2、1ドン!」
「行くぜぇ!」
男はエンジンをふかして、アクセルを踏んだ。だが⋯⋯
「な!?」
ばあさんはそんな車を動かす為の予備動作を男がしてる間に大分遠くまで離れてしまっていた。
まけじと男も車のスピードをどんどん上げていく。だが、全くといっていいほど追いつけなかった。
車は100、120、150キロとどんどんスピードを上げていくが、全く距離が縮まる気がしなかった。
「な、なんで距離が縮まんねぇんだよ!」
「ね、ねぇ、てんちゃんどうすんの?私達負けたら魂取られちゃうかもしれないんだよ」
「そ、そんな訳がないだろ!あんなの嘘に決まってる!」
「でも、あのおばあちゃん人間離れした速さだったよ?」
「く、くだらない!さっきのは夢だ、夢!帰るぞ!」
もう勝てないと察した男は1番近くにあった高速道路の出口から一般道に戻った。
「全くなんだったんだ、さっきのババア」
「こわいよぉてんちゃん」
「大丈夫だ、俺がいる」
一般道に戻ってからも尚怖がる彼女の肩を片手で運転しながら抱きとめるが、男もまた怖がっており手は震えていた。そんな時だった。
「わしの勝ちだ」
「「へ?」」
あのばあさんの声が聞こえたかと思えば、男と女は抜け殻のように力を無くし、車は制御を失いガードレールにぶつかる。
その衝撃でガソリン部分が炎上した。「うぉ!車が炎上したぞ!」「誰か救急車と消防車を呼んでくれ!」歩道を歩いていた通行人が次々に炎上した車に群がってくる。
「かっかっかっ、やはりわしが1番速いのぉ」
その炎上した車を見ながらばあさんは笑う、まるで全てを嘲笑うかのように⋯⋯
・
「ターボババア?」
「そ、知らないのか?」
「うん」
ファミレスの一角にあるテーブル席で俺は真理と東雲と一緒にこれからの作戦を考えていた。
「ターボババアってのは時速100キロで走るババアのことでな、夜の高速道路に現れ、そして車に乗っている人間に勝負を挑むらしい、その勝負に勝つと自分が今1番望むものをくれるが、負けると魂を抜き取られ植物状態になっちまうのさ」
「こわ、実際に対面したらチビりそうだわ」
「なんだ徹よ!貴様、ビビっているのか?この軟弱者め!」
見ると真理の足はガタガタに震えていた。
「なぁ無理しなくてもいいんだぞ?」
「やめろぉ!そんな憐れみの目を向けるじゃない、悲しくなるだろう!」
「うるせーよお前ら、少し黙れ」
東雲の指が指した先には騒ぐ俺たちを見つめているお客さん達がいた。
「「ごめんなさい」」
俺と真理は同時に頭を下げた。それを見たお客さん達は微笑ましそうな目で俺達を見つめた。
「んじゃあ話を戻すぞ、ターボババアは望むものをなんでもくれるらしい、ならよぉその勝負に勝ちゃあよぉ、コックリさんの場所を簡単に教えて貰えるんじゃねぇか?」
「負けたらどうするのさ」
「そんときゃそんときだ」
「いや、そんときが来たら終わりなんよ」
「⋯⋯⋯」
「おい黙るな」
「じゃあ!お前は何か当てがあるんですか!?言ってみてくださいよぉ!」
一転、豹変したように攻勢に出る東雲にたじろいでしまう。確かに、なんの意見も提案もなしに否定すんのは良くないよな。
「えーと、それはー」
「ないな!その顔はないな!よし!俺の提案で決まり!」
むすぅ、くやしいが仕方ないか。
「はい!私から提案いいか?」
「おー、いいぜ」
すると真理は俺達にだけ聞こえるような小さな声で
「我の味方である闇の使徒を頼るという⋯⋯」
「じゃあ対ターボババア戦について考えよう」
「だな」
「おい!お前ら!我の話を聞けーーー!」
・
場所はターボババアがよく出ると噂の高速道路周辺の村、周りは見渡す限りの田んぼとぽつぽつと家が立ち並ぶ程度で、まぁ田舎オブ田舎って感じだ。
「なぁ、ノリと流れでここまで来ちまったけどよぉ、本当にターボババアなんていんのか?まさか情報源が噂だけってのは流石に無いと思うけどよぉ」
「⋯⋯」
ジト目で東雲を見ると冷や汗らしきものを大量に流していた。
「おいおい、そ、そんな訳ないだろー」
「うわぁー、ここまで分かりやすい嘘つくやつ初めてみたー」
東雲の目は泳ぎまくり、決して俺と目を合わせようとしなかった。
はぁーここまで来るのに、大分時間くったのにターボババア出てこなかったら最悪だぞ
「あ!あんな所に泣いている女の子が!助けてあげないと!」
「「⋯⋯」」
明らかな話題逸らしであった。俺と真理は呆れ顔である。
「おじょーちゃん大丈夫?おにぃさんが話を聞くよ」
まぁ泣いてうずくまってる女の子は実際にいるしな。まぁいっかターボババアが出て来なくても、振り出しに戻るだけだ。俺と真理は足並みを揃えて泣いている少女の所に向かう。
「おーい東雲どうしたんだよ、そんな固まって」
「おい、徹、真理、この子幽霊だ」
「え、まじ?」
その東雲の言葉にひきつられてその少女に近づく。幽霊の足は少し透明になっているからそれを確認するためだ。うん、透明だな、幽霊確定だ。となると喋れるのは俺だけだな。
「こんにちは、おじょーちゃん何歳なの?」
ふっ、花子に学んだんだ俺、幼女と話す時は幼児と同じ目線になって話すのがいいらしい。
「お兄さん誰?」
「うーん俺はね、君のことを助ける勇者様かな?」
黒髪のツインテールの少女は青いミニスカートを折って、座り込んで泣いていた。
「あいつ自分のこと勇者って言ったぞ、さすがの我でも引くぞ」「これはいじるいいネタができたな」
後ろでなんか言ってるが無視だ。ここは気恥しさを我慢してでもこの女の子を安心させて⋯⋯
「お兄さん、何言ってるの?お兄さんは勇者様じゃないでしょ?」
「ぐはっ!」
少女の的確な指摘は俺の心臓をつら抜いた。
「ま、まぁそうだが、で?おじょーちゃんはなんで泣いてるんだ?」
「おばあちゃんに会いたいの」
「おばあちゃん?」
少女は流していた涙を大粒のものにして、絞り出すようにして答えた。
「うん、私が病気で死んじゃった時にいなかったおばあちゃんに会いたいの」
「それは、どれくらい前のことなのかな?」
「わかんない、気づいたら私、幽霊になっちゃってて、私、おばあちゃんに⋯⋯」
「うぁぁぁぁぁぁん」やばっ、泣いちゃったよ。
「あー、えーとそのー」
くそっ、花子に少女の泣き止ませ方を教えて貰っておくべきだった。
「何してんだお前は」
「幼女泣かせる趣味なのか、貴様は?」
こいつら俺の気も知らねーで。
「うぁぁぁぁぁぁん!!」
「ごめーーーーーん!」
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