第10話 再契約
少年が泣いている、大粒の涙を流して泣いている。ここにいるのはコックリさんでは無い。水をかけられたショックで人格は元通りになり、幽霊としての記憶が消え去った、いじめられていた頃のあのひ弱な少年だ。
「グズん、グズん」
「コックリさん」
「ずび、誰ぇ?」
現れたのは優しい顔をした女の子だ。シャツを赤いミニスカートにインしているその服装は一昔前のものであるが、彼女にはとても似合っていた。
「貴方の敵よ」
「え」
少女は両手を合わせて、巨大な光の玉を生成し始める。それは明らかにコックリさんを瞬殺できるような強力なものである。
「そっか僕は死ぬんだね、いいよ」
「っ!」
少年は両手を上げ、まるで抵抗する気がないように膝をついた。少年は全てを諦めているように思えた。誰からも必要とされず、あまつさえ見ず知らずの誰かから殺されそうになっている。そんな境遇にいれば誰だって死にたくなるだろう。彼はただ、友達が欲しかっただけなのに⋯⋯。
(ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、私のせいで)
少女もまた葛藤する。たとえどれだけ悪役を演じた所で人格までは変わらない。だから彼にトドメをさすことがなかなかできない。
だが⋯⋯
「⋯⋯本当にごめんなさい」
彼女の覚悟は凄まじかった。
「コックリさーん!」
「「え?」」
そんな時、聞こえてきたのは元気で活発な透き通るような声だった。
「あなた、何でここに⋯⋯」
「コックリさん、俺と友達になろう!」
現れた少年は正しくどこにでもいそうな人間だった。黒髪をデコか全部隠れるくらいまで伸ばしており、目がちょっと細いぐらいが特徴と言える特徴だろう。そんな少年、橘徹に花子は目を丸くする。
「僕と⋯⋯?」
「うん!君と!」
「僕は臭くて醜いよ?それでもいいの?」
「それがどうした!んな事はどうでもいいんだよ!俺が君と友達になりたいだけなんだから」
・
コックリさんの成仏させる方法は多分、いや絶対に人間の友達を作ることなんだ。卑怯だとは思う。打算的にコックリさんと友達になろうなんて甘えきってるって分かってる。でも、それでも幽霊にはなるべく笑顔で成仏して欲しいんだ。
「⋯⋯本当に?本当に心の底から僕と友達になりたいって思ってる?」
「あぁ、もちろんさ!」
「⋯⋯嘘だな」
「え?」
瞬間ゴォッと凄まじい風がコックリさんを中心に取り巻いていく。
「逃げて!徹!」
眼前に花子が飛び込んでくる。俺をあの強烈な風から守るように。
「うがァァァァァァァァァァァァッ!?」
奇声を上げ、風を巻き上げた後、その場にはコックリさんは消えていた。
「⋯⋯何が?」
「あなた何やってるの!」
「え?」
花子に肩を揺らされ、合っていなかった目の焦点を合わせる。
「俺は何を⋯⋯」
俺はぼーっと立っていることしか出来なかった。
「まずいことになった」
「なぁ花子、何が起きたんだよ」
混乱する頭で言葉を絞り出す。
「一度契約を破棄した幽霊はもう二度とまともな方法で成仏出来ないの、そして多分さっきあいつがやったのは再契約、再契約をするととんでもない力と引き換えに理性を失い、完全に体が消えるまで自分の思うがままに暴れ続ける、だからコックリさんに再契約をさせる前にケリをつけたかったのだけど⋯⋯」
「っ!ごめんなさい」
「ほんとにね、反省しときなさい」
花子におでこをピチッと指で弾かれる。
「まぁ私の説明不足だったせいもある、だから私のおでこも指で弾いて」
「分かった」
俺も花子の前髪を上げたおでこにパチンと指で弾いた。
「はい!これで今日のことはお互い様ってことで!」
「だな」
顔では笑っているが、心のうちは申し訳なさでいっぱいだった。花子のこの気遣いが余計俺の心を締め付ける。
あぁ、やってしまった。調子に乗ってしまった。俺ならやれると、俺ならコックリさんを元に戻せると過信してしまった。これは俺のせいだ。なら責任は取らねーとな。
「花子、コックリさんをさがそう」
「えぇ被害が大きくなる前にね、ところで私はここら辺でお暇させてもらうね、私もあなたも苦手な人が来たみたいだから」
「苦手な人?」
花子は校門の方を指さしてから消えていった。俺ははてなマークを頭に浮かべながら花子が指さした方向を見る。
「げっ!」
その場所にいたのは、制服を着ていて丸メガネを輝かしている普通の女子高生だった。
「オーダー”直れ”」
彼女がどこまでも通るような声でそう呟いた瞬間、壊れていた校舎が、傷だらけの俺たちの体が、ぶっ壊れた貯水タンクも直っていく。まるで元からその通りだったかのように。学校の教員や薙は元に戻っていくその光景に口を開けていたが、俺と真理だけはこれから起こるめんどくさいことにため息を吐いていた。
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