第9話 光明

俺の作戦を説明しよう!

まず、真理にコックリさんの注意を引いてもらい、コックリさんを屋上の真下に誘い貯水タンクに巻き付けた綱に輪っかをつけて投げた。そこでコックリさんを煽り、綱引き勝負に持ち込む。

それで貯水タンクを自らの手で壊してもらい、今に至る訳だ。


「な!?」

コックリさんは落ちてきた水に驚きの表情が隠せないようだ。

にしし!成功した成功した。


これで、終わる⋯⋯

「いたっ!」

「おいどうした徹!?」

急に来た頭痛に膝をついてしまう。あぁ、これは前にも体験したことがある奴だ。幽霊の記憶が入ってくる、あの時の痛みだ。





バシャアン!

水がかかる。冷たい。怖い。

「ギャハハハハッ!みっともねー、びしょ濡れになってやがんの!」

僕をいつもバカにしてる奴らが毎日のように水をかけてくる。僕は臭いかららしい。

「へへへ」

けど、この人達だけが僕にかまってくれる。だから僕は笑い続けた。ずっと僕にかまい続けてくれるように。水をかけられるのが嫌でも、我慢し続けた。僕は1人が嫌いだから⋯⋯


「気持ち悪いなお前、もういいわ死ねよ」

「冷めた」

「じゃーねー泥田坊」

「ちょっ、まっ」

彼らは一瞬にして僕の元を離れていった。それを追いかけようとすると邪魔くさそうに差し伸べた腕を振り払われる。


待って、待ってよぉ、僕をまた1人にしないで⋯⋯。「気持ち悪い顔!」「お前、臭すぎるんだよ」そうやって僕の周りから人は消えていった。あらゆる所から水をかけられた。だから水恐怖症になっていった。


つらい、つらい、つらい。何よりも1人がつらい。もう、僕をいじめてたやつも僕を嘲笑っていた奴らもどこかに消えてしまった。お母さんもお父さんも僕を不良品だって、どこか分からない場所においてけぼりにした。僕は友達が欲しいだけなのに⋯⋯。


「ぐすん」

もう死のう。もうなんでもいいや、そうやって自分の喉を包丁で掻っ切った。


そしたら僕は幽霊になっていた。しかも、幽霊だから臭くない。これなら!

「ねぇ僕、幽霊になったんだ!ねぇ、ねぇってば⋯⋯」

だけど、誰も僕のことが見えなかった。幽霊になっても僕は1人だった。


そんな時、ある幽霊にあった。

「あなた、1人なの?」

「ん?」

おカッパ頭で赤いミニスカートを履き、白いシャツをインした少女だった。

「君は、誰?僕の友達になってくれる人?」

「そうね私は名もないただの幽霊よ、そしてあなたのパートナーになってあげられる人」


それからちょっと彼女に自分の生い立ちを説明してから彼女から"けいやく"というものを教えてもらった。

けいやくって言うのはある条件と引き換えに人間に姿を見せ、喋ることができたり、強くなれなりするというものだった。


だから僕はある儀式でしか、現実世界に現れることが出来ない代わりに一定時間儀式で呼ばれた相手に姿を見せ、喋ることができるようになった。


彼女も同じように女子トイレの右から3番目に人が現れた時にのみ、現実世界にしか現れることができない代わりに強い力を手に入れたんだ。


そして僕達は名前を付けあった。僕は彼女にトイレの花子さんという名前をつけ、僕にはコックリさんという名前がついた。


そのあとは花子ちゃんのつてにより、僕の儀式の方法と花子ちゃんの噂が人間世界に広まっていった。


最初に会った人間とは上手く話せたと思う。けいやくをする時に顔もかっこよくしといたのが幸をそうしたのかな?


次に会った人間とはちょっと喧嘩になっちゃったけど、最後は仲直りできた。


その次に会った人は僕の嫌いなタイプで、手を出しちゃった。ごめんね。


次に会ったやつは俺が気に食わなかったから殴り飛ばした。


その次のやつは俺のことを舐めてきやがったからつい殺しちまったよ。まぁいいか、どうせたかが人間だし。




これが、コックリさんの記憶か。

「おい!大丈夫かよおい!」

「あぁ、大丈夫だよ薙、心配してくれてありがと」

俺の事を心配して体を揺らしていた薙の手をどかし俺は起き上がり、屋上からコックリさんの様子を見る。


「ごめんなさい!ごめんなさい!汚くて、醜くてごめんなさい!」

コックリさんは号泣しながらのたうち回っていた。

コックリさん⋯⋯


「⋯⋯、コックリさんの記憶見たのね?」

「あぁ⋯⋯」

悠然と屋上に上がって来た花子のことを睨む。


「なぁ花子、お前、コックリさんにあの過去があったこと知ってたんだよな?」

「っ、うん」

「じゃあっ!なんで!水をかけろなんて言ったんだよ!」

俺は怒っている。花子が幽霊にとってトラウマであることを知っていながら俺に実行させたからだ。


「それは仕方の無いことだったのよ、幽霊がつくる契約って言うのは、あるデメリットの代わりに同等のメリットをもらえるというもの、そして自分のが幽霊になってしたかった目的を消し去るものなの、だけどコックリさんのメリットは自分をかっこよく、そして強くすることと、さらに人間と話せるようになることだった」

さらに花子は続ける。


「幽霊として強くなるというというのはあまり重いデメリットは作らなくてもいい、だけど人間と話すというデメリットは果てしなく重いデメリットを己に課すこととなる、それくらいとんでもないことなのよ幽霊と話すって言うのは」

「そのメリットを成すにはコックリさんが課したデメリットじゃ足りなかった、だからコックリさんには人間と話す度に理性が無くなっていき、凶暴になっていくというデメリットが課せられた」

「じゃあ、なんで水をかけたんだ!かけなくてもお前なら何とか一定時間抑え込むことができたんじゃないのか!?」

口から吐き出すように出た言葉は隣にいた薙の体をビクつかせた。


「できたわよ」

「じゃあなんで!?」

「⋯⋯、次にコックリさんを誰かが現界させた時、すぐに私が駆けつけられるとは限らない、契約を続行したまま成仏させても儀式が行われたらまた復活してしまうから元に戻して、契約を破棄させて成仏させるのが1番いい方法だった、そしてデメリットの負債が溜まっていた契約を破棄させる方法はただ1つ、その幽霊が生前1番嫌だったこと、またはそれを連想させるものを実行すること」

「っ」

言葉が出なかった。


「これは私の無責任な言動のせいなのよ、私が契約をよく知りもせずにコックリさんに教えちゃったから⋯⋯、だから契約が切れた今、私の手で強制成仏をさせるの、彼のやってきた罪を背負ってね」

そう言い残して花子はコックリさんが居る下に降りていった。

「おいさっき、何を話してたんだよ」

「⋯⋯ごめん、今あんまり話したくないんだ」

「あ、あぁ」

思えば、コックリさんがやってきたことは到底許されることじゃない。人を傷つけたり、⋯⋯殺めてしまったり、それは確かにコックリさんが背負うべきごうだと思う。だけど、だけど!本当にそれでいいのか?あんなつらい思いをしたまま成仏するのが正解なのか?何か俺にできることはないのか?俺だけの⋯⋯⋯⋯そうか、あるじゃないか俺にだけできる方法が。
















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